社長が「管理職が問題だ」と言い、管理職研修を何度も実施している。それなのに、現場を見ていても大きな変化が起きている感じがしない。研修の内容が悪いわけでもなさそうなのに、なぜか定着しない。こうした状況は多くの会社で起きています。
原因は管理職の資質ではありません。組織のフェーズが変わっているのに、社長が前のフェーズのままでいることが多いからです。管理職ももちろん変わる必要がありますが、経営者が変わらないまま下だけを変えようとすると、構造的に無理が生じます。ここでは、起業から26年にわたり国内外の組織に関わってきた森田英一が解説した、組織改革の正しい順番を整理します。
なぜ管理職だけを変えようとすると失敗するのか
組織の空気感は、上から下へ流れます。水が上から下へ流れるのと同じで、逆には流れません。この性質が、改革の順番を決めています。
社長が本音を言わなければ、管理職も本音を言いません。社長が耳の痛い提案に不機嫌な顔をすれば、管理職も部下の提案に同じ顔をします。社長が細かくチェックする会社では、管理職も細かくチェックします。
管理職は、社長の振る舞いを見て自分の振る舞いを決めています。それがこの会社における生存戦略であり、環境適応だからです。合理的な判断として、上に合わせています。
つまり、上に何らかの癖があるのに管理職だけ変われと言うのは、構造的に無理があります。逆に言えば、社長や経営陣が変われば、管理職研修がなくても管理職は影響を受けて変わります。管理職の行動を変えるには、上の行動を変える方がはるかに効率的です。
この順番を無視して管理職のせいにし続けると、組織には連鎖的な損失が生まれます。管理職は板挟みになります。上からは変われと言われ、下からはもっと声を聞いてほしいと言われ、経営者は変わらない。理想と現実のギャップを一手に背負うことになります。
同時に、管理職は無言のメッセージを受け取ります。上は変わる気がない、しわ寄せは自分たちだけに来る。そう受け取れば、優秀な管理職ほど「この会社は厳しい」と判断して辞めていきます。
現場も見ています。社長は管理職のせいにしている、管理職は気の毒だ、上は変わらず全部が管理職に寄せられている。そして、あんな管理職にはなりたくないと考えるようになり、経営者への信頼も失われます。
結果として、会社を良くするために研修を続けているのに、管理職が入れ替わるばかりで定着せず、組織が弱っていきます。順番を誤ると、投じたお金も時間も成果につながりません。
管理職が変わる必要がないという話ではありません。変わるべき点は多くあります。ただ、管理職だけに変われと言い続けても機能しないというだけです。経営者も幹部も含め、全員が変わる前提に立つ必要があります。
組織変革の正しい順番
改革は、順番どおりに進めると機能します。全体像は次のとおりです。
| 順番 | 対象 | そこから始める理由 |
|---|---|---|
| 1 | 志の言語化 | 何のために存在し、どこへ向かうかを定める |
| 2 | 社長 | 行動が組織全体の空気を決める |
| 3 | 経営幹部 | 構造と制度を変える権限を持つ |
| 4 | 管理職 | 影響力は大きいが制約の中にいる |
| 5 | 現場の若手・次世代リーダー | 変わった環境でこそ力を発揮できる |
| 並行 | 仕組み | 人事制度、ルール、権限委譲の設計を同時に進める |
最初にやるべきは志の言語化です。この会社はなぜ存在するのか、どこへ向かうのか。ここを明確にしたうえで、それを実現するために社長自身が今のままでよいのかを問います。
次が経営幹部です。社長と並んで大きな影響力を持ち、意識が変われば構造を変える力を持っています。人事制度を変える、全社戦略の舵を切る、といった判断ができる立場だからです。ここが変われば会社が変わります。
管理職は多くの部下を抱え、影響力も大きい立場です。それでも後に置くのは、制約の中で頑張っているからです。制約のない幹部や社長が先に本来あるべき姿へ変わる方が、組織は変わりやすくなります。
その次に管理職、そして現場の若手や次世代リーダーへと進みます。人の変化と並行して、人事制度の改定、ルールづくり、権限委譲の仕組みづくりも進めます。この順番で進めると、組織の文化が変わっていきます。
管理職が置かれている立場
管理職が変わらない背景には、本人の意欲とは別の要因があります。1つ目が、制約の中で動いているという事実です。自分のチームの運用は変えられても、全社に関わる領域には手が届きません。
2つ目が、矛盾した要求です。挑戦してほしいと言われる一方で、評価制度が挑戦を減点する運用になっている。自分で考えて行動しろと言われるのに、判断は上に集中している。本音を言えと言われるのに、本音を言うと激昂される。
3つ目が、観察です。部下は上司の表情を非常に細かく見ています。勇気を出して意見を言ったときに相手がどんな顔をしたか、怒っていないか、自分の評価が下がっていないか。これは管理職から社長への関係でも同じです。
社長から変わるべき5つの理由
| No | 理由 | 要点 |
|---|---|---|
| 1 | 管理職の行動は社長の映し鏡である | 空気感は上から下にしか流れない |
| 2 | 管理職には変えられる範囲の制約がある | 制度や権限配分には手が届かない |
| 3 | 社長から変えるのは精神論ではない | 3つの具体的な行動の問題 |
| 4 | 社長が変わると研修効果が何倍にもなる | 同じ費用で効果が変わる |
| 5 | 管理職から始める本当の理由がある | 自分が変わることへの恐れ |
理由1 管理職の行動は社長の行動の映し鏡である
管理職は、社長の振る舞いを基準に自分の振る舞いを決めます。それがこの会社で生き残るための適応だからです。社長が本音を言わない会社で、管理職だけが本音を言うことはありません。
問いたいのは一点です。管理職に求めていることを、自分自身はできているでしょうか。経営陣はできているでしょうか。水は上から下へ流れるので、上から始めるのが最短です。
理由2 管理職には変えられる範囲の制約がある
社長はある意味で何でも変えられます。一方、管理職が変えられるのは基本的に自分のチームの運用です。会議の進め方や1on1のやり方は変えられます。
しかし、全社に影響する人事評価制度は変えられません。組織の権限配分も、全社の判断基準も変えられません。いま抱えている組織課題の多くには、この変えられない領域が含まれています。
挑戦してほしいと言いながら評価制度が挑戦を減点している。自分で考えろと言いながら判断を上に集中させている。本音を言えと言いながら本音に激しく反応する。この状態では、いくら言っても行動は変わりません。
経営者に問いたいのは、管理職に求めている変化は彼らの権限の範囲内で本当に実現可能か、という点です。
理由3 社長から変えるとは精神論ではない
社長が変われと言うと、器を大きくしてください、人間性を磨いてくださいという話に聞こえがちです。磨きたいとは思っても、何をすればいいのか分かりません。
実際には、もっと具体的な行動の話です。変えるべき行動は主に3つあります。
| 行動 | ありがちな対応 | 変えた後の対応 |
|---|---|---|
| 判断の渡し方 | 相談されたらすぐ結論を言う | なぜそう判断したかの基準を言語化して渡す |
| 失敗への反応 | 「なんでそうしたんだ」と責める | 「次に同じことが起きないためにどうする」と未来を向く |
| 異論への反応 | 不機嫌な顔をする、反論を封じる | 観点に感謝し、受け止めて考える |
1つ目の判断の渡し方では、相談を受けてすぐ結論を言うと、部下は社長に聞くだけになります。「あなただったらどうする」と返すのは有効ですが、それだけでは部下が育ち切らず、上司と部下の判断もシンクロしません。なぜそう判断したのかという基準を言語化して伝えることが要です。
2つ目の失敗への反応では、過去を問い詰めると報告が上がらなくなります。とくに悪い報告が消えます。悪い報告をしても、前を向いた解決策を上の人と一緒に考えられる。この体験を部下に作ってください。
3つ目の異論への反応では、反対意見が出たときの一瞬の表情が決定的です。イラッとした顔を一度見せただけで、それ以降の反論は出てきません。なるほどその観点があったか、自分は漏れていた、勇気を持って言ってくれてありがとう。こう受け止めると、本音が出続ける組織になります。
この3つは明日から実行できる行動です。そして、この反応の変化が組織に与える影響は、どんな管理職研修よりも大きくなります。
理由4 社長が変わると管理職研修の効果が何倍にもなる
管理職研修は実施した方がよいものです。問題は順番です。経営者研修や経営者コーチングを先に行い、その後に管理職研修を実施すると、効果が大きく変わります。
社長が本気で変わっていると分かっていれば、同じ研修でも吸収力が違います。逆に「社長は変わらないのに自分たちだけか」という前提で受ける研修は、マイナスから始まります。
これは360度サーベイでも同じです。部下からの評価を匿名で集めるため、本音がごっそり出てきます。怖さや手間から管理職だけに実施するケースがありますが、それでは「上は変わらなくていいのか」と受け取られます。
上から順に実施すると、上がやったのだから自分たちもやらなければ、という受け止めになります。部下からのメッセージの受け止め度合いが変わります。
部下の話を聞きましょうという研修を管理職に実施しても、経営者が話を聞いていなければ不信にしかなりません。逆に、経営者が先に360度サーベイで耳の痛い指摘を受け、変わり始め、「最近社長が話を聞いてくれるようになった」という実感が生まれた後に管理職研修を行うと、受け止め方がまったく変わります。
かける費用は同じです。順番を変えるだけで効果が変わるのであれば、効果の高い順番を選ぶべきです。管理職研修を実施したとき、経営者研修は実施していたか、どの順番だったか。この2点を振り返ってください。
理由5 多くの経営者が管理職から始める本当の理由
管理職は組織のハブであり、影響力も大きい。それが表向きの理由です。ただ、その奥にもう一つの理由があることが少なくありません。
経営者が、自分が変わることを怖いと感じているからです。人間としては自然な反応です。ゼロから会社を作り、このやり方で成功してきた。やり方を変えなければいけないとうっすら感じていても、指摘されるのは怖く、過去の自分が否定される気がします。
さらに深いところには、別の感情もあります。自分がいないと回らない状況を変えたいと言いながら、どこかで自分が必要とされていることに心地よさを感じている状態です。
この無意識の安心感が、権限委譲を妨げます。頭では任せなければと分かっていても、いざ任せようとすると自分が必要とされている感覚が薄れる気がして、「あいつに任せるのはまだ早い」と理由をつけて避けてしまいます。
会社が変わるうえで最も影響力が大きいのは、社長が変わることです。次が経営幹部です。本当に自分がいなくても回る会社を望んでいるか、そのとき自分の価値をどこに感じるか。向き合いたくない問いかもしれませんが、ここに向き合うことが組織の成長につながります。
改革を機能させる打ち手
志を言語化してから着手する
最初の作業は、この会社がなぜ存在し、どこへ向かうのかを言葉にすることです。ここが定まっていないと、何をどう変えるべきかの基準が持てません。
そのうえで、その志を実現するために社長自身が今のままでよいのかを問います。判断の渡し方、失敗への反応、異論への反応が、いまの組織フェーズによい影響を与えているかどうかを点検してください。
判断基準を言語化して渡す
相談にすぐ結論を返すのをやめ、なぜそう判断したのかという基準を添えます。基準が共有されると、部下は次から自分で判断できるようになり、上司と部下の判断もそろっていきます。
失敗の報告を未来の会話に変える
失敗の報告を受けたら、責める言葉ではなく、次に同じ問題が起きないためにどうするかという問いから入ります。悪い報告こそ早く上がる組織にするための、最も効果的な手当てです。
異論に感謝で応じる
反対意見や違和感の指摘が出たら、まず観点への感謝を伝えます。表情ひとつで本音は止まります。受け止められた経験があると、異論を含めた本音が出続け、組織は強くなります。
経営者研修やコーチングを先に入れる
管理職研修をやってきたが変わらないという場合は、経営者研修を先に入れ直します。経営陣には1対1のエグゼクティブコーチングという方法もあります。いまから始めても遅くはありません。
また、管理職に何を教えているのかを上の立場の人が把握しておくことも必要です。知らないまま現場に落とすと、言っていることとやっていることがずれます。
360度サーベイは上から実施する
サーベイも上から順に実施します。経営者が先に受けていれば、管理職の受け止め方が変わり、結果に向き合う姿勢も変わります。
経営幹部を次に動かす
社長の次に手をつけるのは経営幹部です。制度や権限配分を変えられる立場なので、ここが変わると構造が動きます。管理職への展開はその後です。
仕組みの変更を並行して進める
人の変化だけでは定着しません。人事制度の改定、ルールづくり、権限委譲の仕組みを並行して進めることで、変化が行動として固定されます。
社長自身が「自分も変わる」と決める
研修会社を創業して以来、何千人もの若手社員研修を届けてきました。研修の場では目が輝き、会社をもっと良くします、上司に提案しますと言って旅立っていきます。しかし数週間すると、変わらなかったと肩を落として戻ってきます。
管理職研修も数多く実施してきました。もちろん変わる方もいます。一方で、変わりたいけれど上からの影響で変われないという方も数多く見てきました。
若手や管理職の研修だけで終わらせず、上から変わり、組織の構造を変え、仕組みも変える。この部分が日本の組織開発には足りていません。最も重要で最もインパクトがあるのは、社長自身が自分も変わると決めることです。その覚悟があれば、組織改革の半分は成功したと言えます。
明日から着手する順番
- この会社は何のために存在し、どこへ向かうのかを書き出す。
- 管理職に求めていることを、自分自身と経営陣ができているか点検する。
- 管理職に求めている変化が、彼らの権限の範囲内で実現可能かを確認する。
- 相談を受けたとき、結論ではなく判断基準を言葉にして渡す。
- 失敗の報告を受けたら、責めずに未来の対策から話し始める。
- 異論が出たら、まず観点への感謝を口にする。
- 過去の管理職研修の前に経営者研修を実施していたかを振り返る。
- 経営者研修やエグゼクティブコーチングの実施を検討する。
- 360度サーベイを実施するなら、経営陣から順に行う。
- 人事制度や権限委譲の仕組みを、人の変化と並行して見直す。
よくある質問
管理職研修をやっても変わらないのはなぜですか?
順番が逆だからです。社長が前のフェーズのままでは、管理職だけが変わっても組織の空気は変わりません。
組織改革は誰から始めるべきですか?
社長からです。志の言語化、社長、経営幹部、管理職、現場という順番で進めると改革が機能します。
管理職のせいにし続けるとどうなりますか?
優秀な管理職から辞めます。板挟みで疲弊し、上は変わる気がないと受け取られ、現場の経営者への信頼も失われます。
なぜ管理職の行動は社長に似るのですか?
環境適応だからです。組織の空気感は上から下にしか流れず、管理職は社長の振る舞いを基準に自分の振る舞いを決めます。
管理職が変えられる範囲はどこまでですか?
自分のチームの運用までです。会議の進め方や1on1のやり方は変えられますが、それ以上の範囲には手が届きません。
管理職が変えられないものは何ですか?
全社に関わる領域です。人事評価制度、組織の権限配分、全社の判断基準は管理職には変えられません。
挑戦してほしいのに挑戦が生まれないのはなぜですか?
制度が矛盾しているためです。挑戦を求めながら評価制度が挑戦を減点していれば、行動は変わりません。
社長が変わるとは精神論ですか?
精神論ではありません。判断の渡し方、失敗への反応、異論への反応という3つの具体的な行動を変えることを指します。
判断の渡し方で気をつけることは何ですか?
基準を言語化することです。すぐ結論を言うと、部下は社長に聞くだけになり、自分で判断できなくなります。
「あなただったらどうする」と聞くだけでは足りないのですか?
足りません。問い返しは有効ですが、それだけでは部下が育ち切らず、上司と部下の判断もそろいません。
部下が失敗を報告したらどう反応すべきですか?
未来の話をします。なぜそうしたんだと責めるのではなく、次に同じ問題が起きないためにどうするかを一緒に考えます。
悪い報告が上がってこないのはなぜですか?
過去を問い詰められるためです。失敗を追及される経験が重なると、とくに悪い報告ほど上がらなくなります。
異論を言われたときの反応はなぜ重要ですか?
本音が出るかどうかを決めるためです。受け止めてもらえた経験があると、異論を含む本音が出続け、組織が強くなります。
反論に不機嫌な顔をするとどうなりますか?
それ以降の反論が止まります。部下は表情を細かく見ており、一度の反応で「この人は受け入れない」と判断します。
管理職研修と経営者研修はどちらを先にやるべきですか?
経営者研修が先です。社長が本気で変わっていると分かれば、同じ管理職研修でも吸収力が大きく変わります。
360度サーベイはどこから実施すべきですか?
経営陣からです。上が先に受けていれば、管理職も自分たちがやるべきだと受け止め、結果への向き合い方が変わります。
いまから経営者研修を始めても間に合いますか?
間に合います。管理職研修を続けても変わらないのであれば、経営者研修やエグゼクティブコーチングを入れ直します。
なぜ多くの経営者は管理職から始めるのですか?
自分が変わることが怖いためです。成功してきたやり方を否定される気がして、変化の対象を自分の外に置きます。
権限委譲が進まない心理的な理由は何ですか?
必要とされる感覚への依存です。任せると自分の存在意義が薄れる気がして、まだ早いと理由をつけて避けてしまいます。
組織変革の正しい順番は何ですか?
志の言語化から始めます。次に社長、経営幹部、管理職、現場の順で進め、人事制度などの仕組みは並行して変えます。
まとめ
- 管理職研修が効かないのは内容ではなく順番の問題です。組織の空気感は上から下にしか流れません。
- 管理職は制約の中で動いています。人事評価制度や権限配分は、管理職には変えられません。
- 社長が変えるべきは心構えではなく、判断の渡し方・失敗への反応・異論への反応という3つの行動です。
- 経営者研修や360度サーベイを先に実施すると、同じ費用でも管理職研修の効果が変わります。
- 改革は志の言語化から始め、社長、経営幹部、管理職、現場の順に進めます。仕組みの変更は並行して行います。
まずは「管理職に求めていることを、自分自身はできているか」を一つ書き出すところから始めてください。
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