数字の目標は管理職までしっかり降りてきていて、設計そのものは悪くない。それなのに業績が伸びる部署がなく、現場はどんよりしている。プレッシャーはかかり、みんな頑張ってはいるけれど、疲れが溜まっている。こうした状態の会社は少なくありません。
この行き詰まりは、管理職の頑張りが足りないから起きているのではありません。数字を追わせる、プレッシャーをかければ人は育つ、という前提そのものが構造を止めています。必要なのは、業績を生み出す組織を作る力を育てることです。ここでは、起業から26年にわたり国内外の組織に関わってきた森田英一が解説した、役員・管理職の育成ロードマップ6ステージを整理します。
なぜ数字を詰めるほど業績が伸びなくなるのか
業績が上がらないとき、経営者はプレッシャーをかけがちです。もっと頑張れ、お前たちの頑張りが足りないのではないか。精神論を含めた圧力が、管理職に集中します。
管理職からメンバーへの当たりは、近年やわらかくなりました。パワーハラスメントと言われるためです。その分、経営者から管理職への当たりはきつくなる一方という構図が生まれています。
しかし、この方法では短期の数字合わせしか起きません。責任感の強い管理職ほど、自分がプレイヤーとして走り、なんとか数字を作ろうとします。組織を作る時間はそこで消えます。
結果として、人は育たず、仕組みも作られず、優秀な管理職だけが疲弊します。メンバーはその姿を見て、あんなに忙しい管理職にはなりたくないと考え、辞めていきます。悪循環です。
とくに幹部を育てたい、管理職を経営幹部に引き上げたいと考えている場合、計数のプレッシャーを与え続ける方法は効果的ではありません。短期の数字を作る力と、業績を生む組織を作る力は別物だからです。
数字の設計やプレッシャー自体が不要なのではありません。精神論で頑張れと言うのではなく、どうすれば数字が作れるのかを分解して示すことが必要だ、ということです。気合いと根性で埋めるべきものではありません。
業績は一人が頑張って属人的に作るものではありません。組織全体が業績を生む構造になっているかどうかで決まります。その構造がない組織は、中心にいた人が辞めた時点で崩れます。
気合いではなく、構造で数字を作る
出発点は、業績がどの構造から生まれているのかを分けて考えることです。営業組織であれば、次のような流れに分解できます。
| 工程 | 見るべき点 | ボトルネックの例 |
|---|---|---|
| 新規リードの獲得 | リードの数 | そもそも母数が足りない |
| アポイントの獲得 | リードからの転換率 | アポイントが取れていない |
| 面談 | 面談の質 | 提案が刺さっていない |
| 受注 | 受注率 | クロージングで落ちる |
| 受注後 | フォローアップ | 継続や紹介につながらない |
この分解がないまま「頑張れ」と言われても、どこをどう頑張ればいいのか分かりません。ボトルネックを特定し、そこを解決していくと、全体がすっと流れるようになります。
もう一つの転換点が、自分で稼ぐのではなく、チームで稼ぐという発想です。10人のチームで考えると、管理職が自分で1.5倍頑張るよりも、メンバー一人ひとりが1.2倍になる方が全体の成果は大きくなります。
| アプローチ | 計算 | 増える成果 |
|---|---|---|
| 管理職1人が1.5倍働く | 1人 × 0.5 | 0.5人分 |
| メンバー10人が1.2倍になる | 10人 × 0.2 | 2.0人分 |
差は4倍です(2.0 ÷ 0.5 = 4)。1.5倍というのは管理職本人がプレイヤーとして無理をした場合の数字で、1.2倍はメンバー全員がわずかに伸びた場合の数字です。
しかも管理職が1.5倍働く方法は長く続きませんが、メンバーが伸びる方法は積み上がっていきます。この計算が腹に落ちると、時間の使い方そのものが変わります。
属人性から抜け出せなくする前提
1つ目が、プレイヤー意識の強さです。自分の腕を磨くことに価値を置いている人ほど、構造にしていくという発想に切り替わりません。ステージが上がらない最大の要因です。
2つ目が、「自分がすごい」ことを証明したくなる心理です。自分が抜けたら業績が落ちた、だから自分は優秀だったと喜んでしまう人がいます。組織にとっては望ましくない状態だと、先に伝えておく必要があります。
3つ目が、経営者自身の成功体験です。自分は属人的な頑張りで結果を出してきた、だから他の人もできるはずだと考えてしまいます。しかし、他の人が経営者と同じやり方で成果を出せるとは限りません。
だからこそ、誰もが成果を出せるようになる仕組みとステップを用意することが、経営者の仕事になります。
幹部育成ロードマップ6ステージ
| ステージ | 名称 | 転換の中身 |
|---|---|---|
| 1 | 業績の因数分解期 | 数字を生む構造を理解する |
| 2 | 人を通じた成果期 | 自分で稼ぐからチームで稼ぐへ |
| 3 | 再現性の設計期 | 1度の成功から勝ち続ける仕組みへ |
| 4 | 現場の自走期 | 管理して回すから自走して伸びるへ |
| 5 | 全社視点の業績期 | 自部門から全社の利益へ |
| 6 | 組織の再生産期 | 自分が稼ぐから稼ぐ組織を残すへ |
ステージ1 業績の因数分解期
最初のステージは、精神論からの脱却です。頑張れば数字は作れるという考え方をやめ、どうすれば数字が作れるのかを因数分解します。どこにKPIがあり、どこに成功要因があるのかを分けていきます。
見るべきは、どこにボトルネックがあって業績が伸びていないのかという一点です。リードの数なのか、アポイントの獲得なのか、面談の質なのか、受注率なのか、受注後のフォローアップなのか。論理的に切り分けます。
ここで重要なのが、スーパー社員の言語化です。成果を出している人は感覚的にやっているため、「自分は数字を作れた、なぜあの人はできないのか」で止まってしまいます。それでは組織になりません。
スーパー営業社員がやっていることは何か、他の人と何が違うのか。それを明確にして因数分解し、他の人でもできるようにするにはどうすればいいかを考えます。自分自身がプレイヤーとして優秀なら、自分の方法論を言語化するところから始めます。
この因数分解は経営者も取り組むべきテーマですが、部署によって業務は異なるため、全部署を経営側が分解するのは現実的ではありません。自部署の因数分解は管理職の仕事です。プレイヤーとしての腕を磨くだけでなく、構造にしていく意識を持つ人が、経営幹部になる素質のある人です。
ステージ2 人を通じた成果期
構造を理解したら、次は自分で数字を作る、あるいは特定の誰かが数字を作るという状態から、チームで成果を出す状態への転換です。ここができていない管理職が多く残ります。
プレイヤー意識が強い人ほど、この転換が起きずステージ1で止まります。ステージ1すら道半ばで、属人的にやってしまっているケースもあります。
経営幹部になる人は、属人性で頑張ってはいけません。因数分解して構造化し、他の人ができるように整理したものを、チームに任せていきます。
人に成果を上げてもらうことが管理職の仕事の本質です。自分が動く時期から、人を動かす時間を割く時期へと切り替えます。この転換ができた人は成果が一気にスケールします。自分がボトルネックになってここまで、という上限が外れるからです。
ステージ3 再現性の設計期
個人で成果を生み、因数分解してチームで数字を作れるようになったら、次はそれをどれだけ再現性高く続けられるかです。一度の成功で終わらせず、続く仕組みに変えます。
業績がたまたま良かった、波がある、という状態から、継続的に伸ばせる状態へ移します。想定外にうまくいかないこと、因数分解したのにできない部分、顧客側の変化は必ず起こります。
そこで、成功したパターンはどういうものかをデータで集めて分析し、失敗したパターンも合わせて標準化します。「あの人だから売れる」ではなく「この仕組みだから売れる」へと設計し直します。
経営者の側も、ここを言葉にしてガイドする必要があります。あなたが頑張るだけでは足りない、あなたがやっていることを方法論化し、仕組み化して、誰がやっても安定して成果が出る状態にすることがあなたの仕事だ、と伝えます。この設計までやり切ると、業績は継続的に伸び続けます。
ステージ4 現場の自走期
再現性ができ、この仕組みならうまくいくという状態になったら、管理して回す段階から、現場が自ら工夫して伸びる段階へ移します。現場がやり方をブラッシュアップするようになると、メンバーのやる気も成長も変わります。
すべてを管理して回そうとすると、また自分がボトルネックになります。だからこそ判断基準を渡し、現場で判断してもらう形にしていきます。
その際に欠かせないのが、必要な数字をリアルタイムで開示することです。数字がなければPDCAは回らず、うまくいっているつもりの状態になります。
訪問数はいまどれくらいか、受注率は何パーセントか、目標達成までどれくらいギャップがあるか。KPIの数字を渡すと、現場の人が自分で工夫できるようになります。なぜ自分はうまくいっていないのに、他のチームのあの人はうまくいっているのか、と自ら考え始めます。
上司がすべてを見て逐一指示していると、上司のキャパシティで回らなくなり、やらされ感も生まれます。この意識的なモードチェンジができる人が、経営幹部に向いています。
ステージ5 全社視点の業績期
ステージ4までは、自部門の利益をいかに最大化するかが観点でした。ステージ5では、他部門との連携を含めた全社最適に視点を広げます。
典型的なのが営業部門と製造部門の対立です。営業は売上を伸ばしたい、製造は無茶な受注を持ってくるなと言う。短い納期を安請け合いするな、いや顧客が困っているのだからそれが誠意だ。こうして部門同士の関係がこじれます。
自部門の業績だけを考えていると、結果としてうまくいきません。品質が落ち、短期的には良くても長期的には評判を損ないます。自部門のことだけを考える人は、幹部としては物足りません。
いまは営業を少し抑えてでも立て直しをして、新商品をきちんと投入した方がいい。中長期で見たら何が最善か、全体で考えると何がいいのか。ここを考えられるようになれば、経営幹部の視点です。
この転換は意識的に取り組まないと起こりません。全社最適が大事だ、全体のことを考えろ、中長期で考えろ、それが幹部の仕事だと教えなければ、自部門の成績が良ければいいで終わってしまいます。その状態が続くと、組織は分断していきます。
ステージ6 業績を生む組織の再生産期
最後のステージが、自分が稼ぐ状態から、稼ぐ組織を残す状態への転換です。業績を生む仕組みを作れるようになったら、それを次世代に引き継ぎます。
自分が作った仕組みでも、自分が異動した途端に組織がガタガタになるのでは物足りません。後継者育成、つまりサクセッションプランが必要になります。次の幹部を育てられる力を持つ人こそが、幹部として優秀です。
ここで注意したいのが、自分が抜けて業績が落ちたことを喜んでしまう心理です。自分が優秀だった証明になると感じてしまうのは人の性ですが、組織としては良くありません。だからこそ先に伝えておく必要があります。
業績を生む幹部が、次の業績を生む幹部を育てる。この連鎖ができると、組織は安定します。サステナビリティを重視した組織づくりができる幹部が育つと、組織は強くなります。
ロードマップを機能させる打ち手
プレッシャーではなく、ステージを示す
経営者がやりがちなミスは、プレッシャーを与えて「あいつらの頑張りが足りない」と人のせいにすることです。数字を詰めるほど、責任感のある人は短期の数字合わせに走り、自分がプレイヤーとして走り、組織は疲弊して頭打ちになります。
代わりに示すべきはロードマップです。いまのやり方の先にどんなステージがあるのかを知っているだけで、成長の補助線ができます。この補助線の有無で、伸び方は大きく変わります。
自分の方法論を言語化する
成果を出している管理職ほど、自分のやり方が感覚知になっています。何をどの順番でやっているのか、他の人と何が違うのかを書き出し、因数分解します。この作業がステージ1の実体です。
判断基準を渡して現場に任せる
自走を求めるなら、判断基準を渡す必要があります。基準がないまま任せると、現場は迷い、結局は上司に判断が戻ってきます。任せる範囲と基準をセットにしてください。
KPIをリアルタイムで開示する
現場が自分で工夫するには、いまの数字が見えていることが前提です。訪問数、受注率、目標とのギャップを開示し、現場がPDCAを回せる状態を作ります。
部門をまたぐ論点を、幹部候補に担当させる
全社視点は自然には育ちません。他部門との調整が必要なテーマを意図的に持たせ、中長期で見たら何が最善かを考える経験を積ませます。
後継者育成を評価対象にする
自分がいるときだけ成果が出る状態を良しとしない、という基準を先に共有します。次の幹部を育てられているかどうかを、幹部の評価軸の一つに置きます。
上だけを見る管理職を放置しない
報告の目的が、上司のさらに上へ「問題はありません」と伝えることになっている職場があります。現場が問題を報告しても、返ってくるのは「どう解決するか記載せよ」というコメントだけで、支援も解決もありません。
この状態は、管理職が管理職の仕事を十分に果たしていない状態です。上に伝えるのは確かに重要な役割の一つですが、それだけでは事務作業になってしまいます。
上だけを見る管理職を、経営者が評価してしまうと組織は徐々に傷みます。管理職がどんな役割で何をすべきかを教えられていないケースも多いため、まずはロードマップを共有することが先決です。
経営者自身の前提を見直す
自分は属人的な頑張りでやってきた、という経営者ほど、この点を改める必要があります。他の人が自分と同じようにできるとは限りません。
だからこそ、誰もが成果を出せる仕組みとステップを作ることに価値があります。
明日から着手する順番
- 自部署の業績を工程に分け、リード数から受注後のフォローまで数字を並べる。
- どの工程がボトルネックになっているかを1つ特定する。
- 成果を出している社員のやり方を聞き取り、他の人との違いを書き出す。
- その違いを、誰でも再現できる手順の形に言語化する。
- 自分がプレイヤーとして担っている業務のうち、チームに渡すものを決める。
- 渡すときに、判断基準をセットで伝える。
- 成功パターンと失敗パターンをデータで集め、標準化する。
- KPIの数字を現場にリアルタイムで開示する仕組みを整える。
- 他部門と調整が必要なテーマを、幹部候補に担当させる。
- いまの管理職が6ステージのどこにいるかを確認し、次の転換を伝える。
よくある質問
数字を詰めれば業績は上がりますか?
数字を詰めるだけでは、継続的な業績向上にはつながりません。短期の数字合わせが起き、人が育たず仕組みも作られないままでは、管理職が疲弊して組織は頭打ちになります。
なぜ責任感の強い管理職ほど疲弊するのですか?
自分がプレイヤーとして走るためです。数字を詰められるほど、自力で作ろうとして組織を作る時間がなくなります。
業績の因数分解とは何ですか?
数字を生む構造を工程に分けることです。どこにKPIがあり、どこが成功要因かを切り分け、ボトルネックを特定します。
営業組織ではどこを分解しますか?
5つの工程です。新規リードの数、アポイントの獲得、面談の質、受注率、受注後のフォローアップに分けて見ます。
ボトルネックが分からないとどうなりますか?
頑張りどころが定まりません。どこをどう頑張ればいいのか分からないまま、精神論の号令だけが繰り返されます。
成果を出している社員のやり方はどう扱うべきですか?
言語化します。感覚でやっている部分を書き出し、他の人との違いを明確にして、誰でも再現できる手順に変えます。
因数分解は誰の仕事ですか?
管理職の仕事です。経営者も取り組むべきですが、部署ごとに業務が異なるため、自部署の分解は管理職が担います。
自分で稼ぐからチームで稼ぐへの転換はなぜ必要ですか?
自分がボトルネックになるためです。人に成果を上げてもらうことが管理職の本質で、転換できると成果がスケールします。
自分が頑張るのとメンバーが伸びるのでは、どちらが効果的ですか?
10人のチームという動画内の例では、メンバー全体が伸びる方が効果は大きくなります。管理職1人が1.5倍働くと0.5人分の増加ですが、メンバー10人が1.2倍になると2.0人分となり、差は4倍です。
ステージ1で止まる人の特徴は何ですか?
プレイヤー意識の強さです。自分の腕を磨くことに価値を置くと、構造化してチームに渡す発想に切り替わりません。
再現性の設計とは何をすることですか?
勝ち続ける仕組みを作ることです。「あの人だから売れる」を「この仕組みだから売れる」へ変える設計を指します。
成功と失敗のパターンはどう扱いますか?
データで集めて標準化します。うまくいったパターンだけでなく、失敗したパターンも分析対象に含めます。
現場の自走にはどんな情報が必要ですか?
KPIの数字です。訪問数、受注率、目標とのギャップが見えないと、うまくいっているつもりの状態になります。
KPIはいつ開示すべきですか?
リアルタイムです。数字がその場で見えることで、現場が自分で工夫し、PDCAを回せるようになります。
すべてを管理して回すと何が起きますか?
上司のキャパシティで止まります。逐一指示すると自分がボトルネックになり、現場にはやらされ感が生まれます。
全社視点はなぜ必要ですか?
部分最適では組織が伸びないためです。自部門だけを見ると品質が落ち、長期的には評判を損なう結果になります。
部門間が対立するのはなぜですか?
自部門の業績だけを見ているためです。営業は売上を優先し、製造は無理な受注や納期に反発する構図になります。
後継者育成はなぜ幹部の仕事なのですか?
組織を残すためです。次の幹部を育てられる力を持つ人こそが幹部として優秀で、その連鎖が組織を安定させます。
自分が抜けたら業績が落ちるのは良いことですか?
組織としては望ましい状態ではありません。自分の優秀さの証明だと感じることがあっても、組織としては再生産ができていない状態です。
経営者が最初にすべきことは何ですか?
6ステージのロードマップを共有することです。次にどんな転換があるかを先に伝えなければ、成長は自動では起きません。
まとめ
- 業績が伸びない原因を頑張り不足だけに求めるのではなく、組織の構造を見ることが重要です。プレッシャーだけでは、短期の数字合わせや管理職の疲弊につながります。
- 出発点は業績の因数分解です。リード数から受注後のフォローまで工程に分け、ボトルネックを特定します。
- 10人のチームの例では、自分が1.5倍働くより、メンバーが1.2倍になる方が4倍の成果につながります。
- 再現性を設計し、判断基準とKPIを渡して現場を自走させ、全社視点へ引き上げるのが幹部への道筋です。
- 最後のステージは組織の再生産です。次の幹部を育てられる人こそが、幹部として優秀です。
まずは自部署の業績を工程に分け、どこがボトルネックなのかを1つ特定するところから始めてください。
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