組織をもっと良くしたい。人が生きる仕組みを作りたい。そう思って改善策を提案しても、上に届かず潰される。社内からでは限界があるのではないか。組織開発という仕事に関心を持つ方の多くが、こうした場面を経験しています。
行き詰まりの原因は提案の中身ではなく、声が届く構造になっていないことにあります。そして、この構造に働きかける専門職が組織開発コンサルタントです。ここでは、アクセンチャーを経て27歳で独立し、この仕事を30年ほど続けてきた森田英一が解説した、組織開発コンサルタントの実態、年収、必要なスキル、目指し方を整理します。
なぜいま組織開発コンサルタントのニーズが増えているのか
一般的なコンサルティングの領域では、AIの登場によって仕事の一部が置き換わりつつあります。コンサルティング会社が人員を絞る動きも出ています。
一方で、組織開発コンサルタントのニーズは増えています。人が辞める時代になり、人の取り合いが起きている。それなのに、組織の中がうまくいっていない会社が数多くあるからです。
作業はAIが担う時代になっても、人間同士の泥臭い領域は残ります。むしろ、この領域の価値は上がっていきます。だからこそ、組織開発という仕事の認知が少しずつ広がってきました。
もう一つの背景が、社内では扱いにくい問題の存在です。下からの声は上に届きにくく、言えば嫌われるかもしれないと考えて黙る。言っても聞いてもらえないという以前に、そもそも言えない、言わないというケースが多くあります。
あの人にはこれは言えない、喧嘩になったり嫌われたりしたら気まずい。そのリスクを取るより、言わずにやり過ごそうとなります。結果として、上の人の問題はいつまでも扱われません。
部署間の問題も同じです。この部署とあの部署の間の課題を社内の誰かが扱おうとすると、「お前に言われたくない」という反応が出ます。管理職と一般社員の間でも、言いにくさは生まれます。
トップダウンが強い組織では、この構造を内側から変えるのはとくに難しくなります。声を上げた人が孤立しかねないためです。
こうした場面で、中立的な立場の外部が入ると動き出します。偉そうに正論を言うのではなく、社内の人が何を感じているかをファシリテーションで引き出し、上の人が受け取りやすい形にして届ける。これで組織のコミュニケーションの質が上がります。
この領域の重要性は、長い時間をかけて高まってきました。就職活動の頃、人材関係の仕事といえば人材紹介会社しかありませんでした。入社した後に活躍できる組織を作りたいという考えから、この領域にこだわり続けています。
30年ほど続けてきて、その重要性は右肩上がりで高まり、認知も広がっています。人や組織の課題がない会社はほとんどなく、困っている会社は数多くあります。ただ、それを解決できる職業があることがまだ知られていません。
社内でできることと、外部だからできること
外部がすべてを担うわけではありません。社内でできること、社内だからこそやるべきことも数多くあります。重要なのは役割の違いを理解することです。
| 領域 | 社内の強み | 外部の強み |
|---|---|---|
| 日常の運用 | 継続的に関わり続けられる | 短期間で集中的に介入できる |
| 上層部への提言 | 立場上、言いにくい | 利害が薄く、率直に伝えられる |
| 部署間の対立 | どちらかの当事者に見られる | 中立の立場で場を作れる |
| 制度の整合性 | 実態を把握している | 他社の事例と比較できる |
社内に組織開発のスキルを持つ人が増えることにも大きな意味があります。人が生きる仕組みを企画できる人、本音のコミュニケーションを引き出すファシリテーションができる人が社内にいれば、日常の中で組織は変わっていきます。
外部が入る場合も、手法を伝えて社内でできる状態にしていくことが支援の一部になります。外部に依存させ続けるのではなく、社内に残る力を増やす関わり方が望ましい形です。
そしてこのスキルは、独立だけでなく社内のキャリアにも生きます。進む道は大きく3つに分かれます。
| 道 | 働き方 | 特徴 |
|---|---|---|
| 独立・フリーランス | 社外から複数の企業を支援する | 研修講師と兼ねる人も多い |
| コンサルティング会社 | 組織を扱う会社に所属する | 案件を通じて経験を積める |
| 社内(人事部など) | 自社を中から変える | 戦略人事やCHROへの道につながる |
人事部にいて採用だけを担当している、研修の企画はしているがカルチャーを変える仕事まで踏み込めない。そうした状況でも、このスキルを身につけると扱える範囲が一気に広がります。
年収については、他の人にはできない仕事であるため1,000万円を超えるのは珍しくありません。3,000万円に届く人もいますが、そこまで行くには相当の売れっ子になる必要があります。
収入が安定しやすい理由もあります。組織開発のコンサルティングは長いスパンで付き合うことが多く、単発の仕事より継続性があります。加えて、企業研修の講師としての単価も高めに設定されます。
この仕事のやりがいと厳しさ
独立した当時、組織開発コンサルタントという職業は存在しませんでした。アクセンチャーで最初に配属されたのはチェンジマネジメントグループで、人と組織を扱う部門でしたが、組織開発という言葉は使われていませんでした。独立後は、自分で経験を重ねながら仕事の形を作ってきました。
まず、感謝される仕事です。人の成長に関われますし、上が聞いてくれない、人間関係がうまくいかないと諦めかけている人たちの状況を動かせます。喜ばれる場面が多くあります。
一方で、タフな仕事でもあります。社内の人たちで解決できない問題を扱うため、相応のプレッシャーがかかります。知らない会社に行き、高い金額を請求して成果を出す必要があります。
社内の人から見れば、外から来た人は警戒の対象です。その状態から始めて価値を提供し、最後に「来てもらって良かった」と言われる。この会社が良くなったと感じられる瞬間に、仕事の意味が実感できます。
年齢の壁もあります。27歳で独立した当時、クライアントは全員が年上でした。50代や60代の部長、社長を相手に研修やワークショップを行うことになります。それでも、ノウハウとメソドロジーを押さえていれば実施できます。
誰にでもできる仕事かというと、そうは言えません。ただし再現性はあります。型を身につけ、経験を積めば形になる仕事です。
耳の痛いことを伝える場面もあります。相手が気分を害することもあり、そこからどうするかは人間同士のやり取りです。そうしたドラマを含めて、乗り越えたときの手応えが大きい仕事です。
組織開発コンサルタントに必要な7つのスキル
| No | スキル | 扱う対象 |
|---|---|---|
| 1 | コーチング | 個人、経営者 |
| 2 | ファシリテーション | 会議や場 |
| 3 | 人事制度の設計と運用 | 仕組み |
| 4 | 対話型組織開発(ダイアログ) | 関係性と対立 |
| 5 | ミッション・ビジョン・バリューの言語化支援 | 志と方向性 |
| 6 | ラーニングデザイン | 研修・ワークショップの設計 |
| 7 | デリバリー | 研修の実施と受講者の動機づけ |
1. コーチング
コーチングは個人に対するアプローチです。目の前の一人に向き合い、思いを引き出していきます。エグゼクティブコーチングであれば対象は経営者になり、経営者が変われば組織が変わるという意味で影響力は非常に大きくなります。
ただし、組織開発コンサルタントが扱うのは組織です。コーチング的な要素は必要ですが、それだけでは組織を変えられません。ここを混同しないことが出発点になります。
組織開発を目指す人がコーチングから学び始めるケースは多くあります。入口としては有効ですが、そこで止まると個人の支援にとどまります。
2. ファシリテーション
社内の人が何を感じているかを引き出し、上の人が受け取りやすい形で場に出す。この力が組織のコミュニケーションの質を左右します。
コンサルタントが前に出て意見を述べるのではなく、社内の全員が本音を言い合える場を作る。トップダウンの強い組織ほど、この役割の価値が大きくなります。
3. 人事制度の設計と運用
人事制度がメンバーに与える影響は非常に大きくなります。どう設計するか、そしてどう運用を徹底するか。ここに関する知識と経験は身につけた方がよい領域です。
制度と現場の運用が食い違っていると、どれだけ良い研修をしても行動は変わりません。制度を扱えるかどうかで、提案できる範囲が変わります。
4. 対話型組織開発(ダイアログ)
コミュニケーションによって組織を育んでいく手法です。本音を出して対立を緩和したり、対立している両者の間に新たな道筋を見つけたりします。
AとBという対立する立場に対し、こういう進め方があるという第三の案が見えてくる。この対話を設計し、進行できるスキルが求められます。
5. ミッション・ビジョン・バリューの言語化支援
会社にとっての北極星であり旗印になる部分です。志で自走する組織開発では、ここを作る支援を重視しています。
こちらが作って渡すのではなく、顧客と一緒にディスカッションし、引き出しながら言葉にしていきます。ミッション、ビジョン、バリュー、パーパスを形にできるようになると、組織開発コンサルタントとしてかなり上位に位置づけられます。
6. ラーニングデザイン
組織開発の過程では、研修やワークショップを実施する場面が多くあります。そのため、研修をどう設計するかという力が必要です。
1日の研修、3日間のプログラム、1週間の日程、毎月実施する継続型。形式によって設計は変わります。参加者が飽きず、体験しながら学びを深められる構成にする必要があります。
講義を一方的に続ける形では、参加者の集中は続きません。1日の研修であっても、興味を持ち続けられる流れを設計できるかどうかが問われます。
7. デリバリー
設計したものを実際に届ける力です。受講者をどう動機づけるか、言いにくいことを嫌われないように伝えてどう気づいてもらうか。ここが結果を分けます。
一方的に話すだけでは、参加者はすぐに関心を失います。興味を持ち続けてもらいながら、できるようになるところまで導くことが求められます。
身につけるための進め方
体系的に学べる場を使う
必要な領域は多岐にわたるため、本を読んだだけでは身につきにくくなります。知識を体系的に学べるスクールなどを活用する方法が有効です。
スクールによっては、実際の仕事に同席する機会や、さまざまな体験をさせてもらえる場があります。こうした場で経験値を積むことが近道になります。
いまの職場で小さく実践する
人事部にいるなら、学んだ手法を社内でやらせてほしいと申し出ます。管理職であれば、会社全体ではなく自分の部署の中で実験してみます。
会議の進め方を変えてみる、ファシリテーションを試してみる。小さな範囲で繰り返すことで、実践知が蓄積されます。
社内で担う道も視野に入れる
このスキルは、独立しなくても生きます。人事部への異動を希望する材料になりますし、すでに人事にいる人であれば扱える範囲が広がります。
採用だけ、研修の企画だけという状態から、カルチャーを変える提案ができる立場へ移っていけます。いわゆる戦略人事と呼ばれる役割につながり、CHROになる方もいます。
顧客理解の型を身につける
会社によって課題はまったく違います。新卒で入社した当初は業界の経験がなかったため、顧客を知るためにインタビューやヒアリングを重ね、毎日オフィスに通って現場を見ました。
どうすれば顧客に価値が出せるかを考え、その会社に合った企画を作る。この繰り返しの中で、こういう状況ならこういう課題があり、こう提案すれば仕事になるという型ができてきます。
型が身につくと、別の課題に出会っても同じ手順で進められるようになります。独立後に扱うテーマが変わっても、手順そのものは応用できます。
期待値のコントロールを設計する
組織開発の難しさは、納品物が見えにくいことにあります。人事制度やミッション・ビジョン・バリューのように形になるものは分かりやすい一方、A部署とB部署の関係を良くしますという提案は評価しにくくなります。
A部署とB部署の関係がどれくらい良くなるのか、それにいくらの価値があるのか。顧客の側からは判断しにくい領域です。
そこで、エンゲージメントサーベイを取り、ビフォーアフターでどれだけ変わるかを示します。どういうプロセスで良くしていくのかを提案書に書き、費用はいくらなのかを明確にします。ここが曖昧だと、成果の判断が気分の問題になってしまいます。
最初は業界を絞る
何でもできますと間口を広げると、準備の負担が大きくなります。業界をある程度絞っておくと、A社で経験したことがB社で生きる割合が高まります。
経験が増えてきたら、未経験の業界に挑戦する形で広げていきます。その都度、勉強とインタビューが必要になります。
新しい業界について学び、顧客へのインタビューを重ねること自体を楽しめると、対応できる領域も広がっていきます。
営業とマーケティングを早めに学ぶ
大手ファームでは、若手に営業の機会があまり回ってきません。上の立場の人がトップ営業で案件を取ってくるためです。独立して初めて、見積書や請求書といった基本から手探りになりました。
提案書は書けても、どう営業してどうクロージングするかは別の技術です。どれだけ良いスキルを持っていても、マーケティングと営業をしなければ仕事は来ません。独立を考えるなら、ここは早めに学んでおく価値があります。
正論ではなく、相手が動く形で伝える
改善策を提案しても片端から潰されるという場合、正論を言いすぎている可能性があります。正しいことを言えば人が受け入れるとは限りません。相手には相手の感情やプライドがあり、否定されたと受け取られることもあります。
まずは何が起きているのかをファクトとして捉え、「こういう問題が起きていて何とかしたいのですが、少しディスカッションさせてもらえますか」と切り出します。そこから少しずつ味方を増やしていきます。
この人が難しいならこちらの人から、この人はあの人の意見に動かされやすい。多少は政治的な動きも含みますが、組織が良くなるならそれも大事な工夫です。重要なのは正しさではなく、組織が動くことです。
明日から着手する順番
- 組織開発に関する本や動画で、仕事の全体像をつかむ。
- 7つのスキルのうち、自分がすでに持っているものと不足しているものを仕分ける。
- いまの職場で試せる小さな実践テーマを1つ決める。
- 自部署の会議でファシリテーションを試してみる。
- 自社の人事制度と、現場で求められている行動の矛盾を書き出す。
- 体系的に学べるスクールや講座を比較し、実践機会の有無を確認する。
- 独立を視野に入れるなら、営業とマーケティングの学習を並行して始める。
- 支援したい業界を1つか2つに絞る。
- 成果をどう測るか、エンゲージメントサーベイなどの指標を調べる。
- 社内で提案するときは、正論ではなくファクトと相談の形から入る。
よくある質問
組織開発コンサルタントとはどんな仕事ですか?
組織そのものを扱う仕事です。コミュニケーションの質を変え、仕組みを作り、カルチャー変革まで踏み込んで組織をより良くします。
なぜいまニーズが増えているのですか?
人の取り合いが起きているためです。人が辞める時代になった一方、組織の中がうまくいっていない会社が数多く残っています。
AIの影響でコンサルの仕事は減りませんか?
組織開発の領域では増えています。作業はAIが担う時代でも、人間同士の泥臭い仕事は残り、価値はむしろ上がります。
社内の人では組織開発はできませんか?
できます。社内だからこそやるべきこともあり、企画やファシリテーションができる人が社内に増えること自体に価値があります。
外部のコンサルタントが入る意味は何ですか?
上の人の問題を扱えることです。下からは言えない、言っても届かない内容を、中立の立場から場に出せます。
部署間の問題はなぜ社内では扱いにくいのですか?
当事者に見られるためです。社内の人が言うと「お前に言われたくない」となり、角が立ってしまいます。
どんなキャリアの選択肢がありますか?
3つあります。独立・フリーランス、コンサルティング会社への所属、人事部など社内で自社を変える道です。
年収はどのくらいですか?
1,000万円を超えるのは珍しくありません。他の人にはできない仕事であるため、専門性が報酬に反映されます。
年収3,000万円は可能ですか?
可能です。ただし3,000万円に届くには、相当の売れっ子になる必要があります。
収入が安定しやすいのはなぜですか?
長いスパンで付き合うためです。単発の仕事より継続性があり、企業研修の講師としての単価も高めに設定されます。
コーチングを学べばなれますか?
それだけでは足りません。コーチングは個人へのアプローチで、組織開発は組織を扱うため、別のスキルも必要になります。
必要なスキルは何ですか?
7つあります。コーチング、ファシリテーション、人事制度、対話型組織開発、理念の言語化支援、研修設計、デリバリーです。
人事制度の知識は必要ですか?
必要です。人事制度がメンバーに与える影響は大きく、設計と運用の両面を扱えると提案の幅が広がります。
対話型組織開発とは何ですか?
対話で組織を育む手法です。本音を引き出して対立を緩和し、対立する両者の間に新たな道筋を見つけていきます。
ミッション・ビジョン・バリューの支援はなぜ重要ですか?
会社の北極星になるためです。こちらが作るのではなく、顧客と対話して引き出し、言葉にする支援が求められます。
研修の設計力はなぜ必要ですか?
研修やワークショップを実施する場面が多いためです。1日でも飽きさせず、体験しながら学べる構成にする必要があります。
独立前に学んでおくべきことは何ですか?
営業とマーケティングです。大手ファームでは若手に営業機会が少なく、見積書や請求書の基本から手探りになりがちです。
業界は絞るべきですか?
最初は絞るべきです。A社の経験がB社で生きる割合が高まり、間口を広げすぎると準備の負担が大きくなります。
成果が見えにくい仕事はどう提案しますか?
指標で示します。エンゲージメントサーベイのビフォーアフターと改善プロセスを提案書に書き、価格の根拠を明確にします。
未経験からどう学べばよいですか?
体系的な学びと実践を組み合わせます。スクールなどで知識を学びつつ、自部署の会議などで小さく試す方法が有効です。
まとめ
- 組織開発コンサルタントは、AIの時代にむしろ価値が上がる仕事です。人の取り合いが起き、組織の中が整っていない会社が多く残っています。
- 外部が入る意味は、社内では扱えない上層部の問題や部署間の対立を、中立の立場で場に出せることにあります。
- キャリアは独立、コンサルティング会社、社内の3つに分かれ、年収1,000万円を超えるのは珍しくありません。
- 必要なスキルは7つあり、コーチングだけでは足りません。制度、対話、理念、研修設計まで扱う必要があります。
- 独立を目指すなら、営業とマーケティングを早めに学び、成果の測り方を提案書に落とし込めるようにします。
まずは7つのスキルのうち、自分に足りないものを1つ書き出すところから始めてください。
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