現場で成果を上げた優秀な人を昇格させたのに、そのポジションでは思うようにパフォーマンスが出ない。チームが混乱し、部下が育たず、優秀な人ほど辞めていく。「なぜこの人を選んでしまったのか」と後から悔やむ。管理職や役員の登用で、こうした失敗に心当たりのある経営者や人事担当者は少なくありません。
この問題の原因は、昇格した個人の能力ではなく、昇格の基準と仕組みという構造にあります。課長として優秀な人が部長として優秀とは限らず、プレイヤーとして優秀な人が管理職として優秀とも限りません。求められる適性が役割ごとに違うのに、明確な昇格基準を持たないまま「成果を出したから上げる」と運用することが根本原因です。本記事では、独立から26年間で国内外1,000社以上の組織に関わってきた森田英一が語る、昇格させると後悔する管理職の7つの特徴と、その背景にあるピーターの法則、そして打ち手を解説します。
優秀な人がダメ上司になる現象のメカニズム
現場で成果を上げた人が昇格した途端にダメ上司になる。この現象は、社会学者ローレンス・J・ピーターが提唱した「ピーターの法則」で説明できます。階層型の組織では、人はあるポジションで成果を出すと昇格します。課長で優秀なら部長に上がりますが、部長として不適格ならそこで昇格が止まります。
つまり人は、自分が有能でいられるポジションを超え、無能になるポジションまで昇格し、そこで固定されます。その結果、マネジメントができない元スーパー営業マンや、課長としては超優秀だったが部長の器ではない人が組織に増えていきます。忙しさや混乱は個人の努力不足ではなく、この昇格構造が生み出しているのです。
昇格した本人のチームは、崩壊するケースもあれば、部下が育たない、部下がかわいそうな状態になるケースもあります。今のポジションでは良かったのに、次のポジションに行くと部下にとって好ましくない上司になる。これは、上に立つ人が明確な昇進昇格基準を持っていないために起きる現象です。求められる適性が役割ごとに違うという物差しを持てるかどうかが分かれ目になります。
卒業方式と入学方式のフレーム
ピーターの法則が起きる根本には、昇格の考え方の違いがあります。多くの日本企業は「卒業方式」で昇格させますが、本来は「入学方式」にする必要があります。両者の違いを整理します。
| 方式 | 考え方 | 結果 |
|---|---|---|
| 卒業方式 | 現ポジションで成果を出したから自動的に上げる | 適性を問わず昇格し、ピーターの法則が起きる |
| 入学方式 | 次のポジションの入学要件を満たすかで判断する | 役割に必要な適性を持つ人だけが昇格する |
卒業方式は「課長を卒業したから部長へ」という発想です。しかし役割ごとに求められる適性は異なるため、課長で優秀でも部長で優秀とは限りません。入学方式は「部長の入学要件を満たしているか」で判断します。昇格基準が明確でないと、卒業方式に流れてしまいます。
背景にある心理とハロー効果
卒業方式が生まれる背景には、日本企業に強い年功序列的な発想があります。「課長を10年やっていてかわいそうだからそろそろ上げよう」といった、入学要件と関係のない人事が起こりやすいのです。若手から見れば、実力がないのに昇格した理由が分からず、納得感を得られません。
もう一つの背景がハロー効果です。ハロー効果は人事評価でよく起きる心理的バイアスで、ある一つの目立つ特徴があると他のこともできるはずだと感じてしまう傾向です。営業成績が突出していると、人徳も戦略的思考もリーダーシップもあるだろうと想像してしまい、昇格させてしまいます。この認知の歪みが組織の崩壊のきっかけになります。
昇格させると後悔する管理職の特徴7選
森田が現場で見てきた、昇格させると後悔する管理職に共通する7つの特徴です。まず一覧で確認してください。当てはまる場合も伸びしろであり、変えることができます。
| 特徴 | 内容 |
|---|---|
| 1. 感情で指示する | その時の感情を部下にぶつけ、心理的安全性を壊す |
| 2. 説明が抽象的すぎる | 「なんとかしろ」だけで具体的な指示やサポートがない |
| 3. 役割期待値を言語化しない | 何を期待しているかを伝えず、後出しじゃんけんになる |
| 4. 個別対応ばかりでチーム開発がゼロ | 1対1はできるがチーム全体を機能させられない |
| 5. 権限をコントロールと勘違い | 肩書きで従わせようとし、本質的な影響力がない |
| 6. 現状維持しかできない | ルーティンは回せるが変化をリードできない |
| 7. 育成力がゼロ | ストレッチな機会とサポートを与えず部下を育てない |
感情で指示する
感情を表現すること自体は問題ありませんが、むやみに怒る、圧をかける、否定しまくるとなると破壊力があります。部下は上司の機嫌に意識が向き、Z世代をはじめとする若い世代には受け入れられません。心理的安全性が崩壊すると、悪い情報を報告しない、反論しない、何も言わなくなる静かな退職モードに入ります。
心理的安全性が崩壊した組織では、本当の課題が上に見えなくなり、どんな地雷が埋まっているか分かりません。メンバーは自立的に動くのをやめ、指示待ちになります。感情をぶつける人を上司につけると、部下の可能性が一気に狭まります。
部下は安全に過ごすことを優先し、悪い情報を隠し、反論を諦め、静かに仕事をしながら実は転職サイトを見ているという状態に陥ります。上司の機嫌をうかがう時間そのものが組織の無駄であり、若い世代にとってはなおさら受け入れがたいものです。感情表現自体は否定されませんが、それを部下への圧や否定に変えてしまうと破壊力を持つ点に注意が必要です。
説明が抽象的すぎる
「とりあえずやれ」「なんとかしろ」「いい感じにしろ」「もっと頑張れ」といった抽象的な指示ばかりで、具体的な指示やサポートがない状態です。上からの指示をただ伝える伝言ゲームになり、部下が何を聞いても欲しい答えが返ってきません。
目的や判断基準を教えてもらえないため、アウトプットがずれ、手戻りが増えます。管理職には言語化力と翻訳力が求められ、上司の仕事をいかに分かりやすく部下に伝えるかが中間管理職の重要な役割です。これができない人を昇格させ、プッシュするだけの状態にしてはいけません。
役割期待値を言語化しない
個々の仕事の指示が曖昧なだけでなく、そもそも部下に何を期待し何を任せたいのかを明確に伝えないケースです。人は期待されているからこそ応えようとします。期待が分からないと、若手ほどキャリアに不安を感じます。
本来は「このプロジェクトでこういうリーダーシップを発揮してほしい。なぜならあなたにこの強みがあるから。これは次のグレードの要件にもつながる」と具体的に伝えるべきです。後出しじゃんけんは納得感が出ないため、先に握ることが重要です。役割が曖昧だと声の大きい人が評価されて見え、地味に成果を上げる人が評価されなくなります。
部下から期待役割を質問された時に「細かい」「面倒だ」という態度をとる上司もいますが、これは責任放棄です。海外ではそうした説明をしない上司はダメ上司とされ、すぐに問題視されます。日本では上司が言語化せず、部下が空気を読んでやるべきだと押し付け、部下の責任にしてしまう構造があります。これは手戻りを生み、モチベーションを下げる無駄であり、上司自身の責任だという自覚が欠かせません。
個別対応ばかりでチーム開発がゼロ
一見丁寧に見えますが、1対1のワンオンワンや個別フォローばかりで、チーム全体の一体感や大事なことの発信をしないリーダーです。情報が上司に集中し、メンバーの横のつながりが希薄になり、リーダー依存が進みます。
これは属人化であり、自分のコミュニケーション能力で何とかしようとしている状態です。本来はメンバーが自律的に動く仕組みづくりが必要です。個別対応も大切ですが、チーム全体をどう機能させるかを考える志向のある人でないと、昇格後にチームが混乱します。
この背景には上司自身の自信のなさもあります。1対1なら相手に合わせて別々のことを言えますが、全員の場では共通のことを伝えなければなりません。その時に「こちらには合わない、あちらには合わない」と考えて何も言えなくなり、結局すべてを個別対応で処理し、情報がクローズになります。全体を引っ張るリーダーシップの欠如とも言える状態です。
権限をコントロールと勘違いしている
役職が上がると「俺の言う通りに聞け」と急に偉そうになるタイプです。こうした人ほど人間的影響力が弱く、肩書きや権限に頼ります。それは形式的な権限であって、本質的な影響力ではありません。
直属の部下は評価権を持つ相手なので従いますが、他部署や専門性の高いプロフェッショナルは動きません。部長には部門調整や他部署との折衝が求められますが、信頼がなければ周りは動いてくれません。下には強く上には態度を変える人は上からは見えにくいため、360度サーベイで周囲からの見え方を把握すべきです。
現状維持しかできない
日常のルーティン業務は回せるものの、環境が変わり新しいことをやらなければならない時に崩れてしまうタイプです。上の立場ほど変化をリードし、先を見越して先手を打つ必要があります。現状を器用に回す優秀さと、新しいことを仕掛ける優秀さはまったく別物です。
特に課長までは現状を回すことでなんとかなりますが、部長レベルには戦略的な動きと新しい仕掛けが求められます。未来思考がない人が上に行くと、若手が提案してもリスクを挙げて潰し、優秀な人が辞めていきます。改革の場面では反対勢力になり、組織全体を停滞させます。
管理職には、今をしっかり回して結果を出す側面と、未来を作る側面の両方があります。この2つは相反する場合もあり、未来を作るタイプは現状を回すのが雑なこともあります。だからこそ役割を分けて考える視点が必要です。現状維持タイプの反対は「昔はこうで今はこうだから」と現在の視点に偏りがちで、3年後に競合や環境が変われば前提が変わるという未来思考が弱い傾向があります。この見極めが人材登用では重要になります。
育成力がゼロ
研修に行かせる、本を読ませるといった対応だけで、真の育成をしていないタイプです。本当の育成は現場でストレッチな体験をさせることです。今できることではなく、できるかどうか分からない挑戦の場を与え、失敗してもサポートし、振り返りとフィードバックを行います。
一度失敗したことが次にできるようになる、これが成長です。スーパープレイヤーほど「自分でやってきた」という自負から意図的に育成しない場合があります。「見て学べ」という姿勢で育成を丸投げすると、部下が育たず、部下の可能性を潰すことにつながります。部下を信じ、向き合えるかどうかが、育成力の有無を分ける本質的なポイントになります。
適性に合った登用を実現する打ち手
これらの問題を防ぐ核となる施策は人事制度の改革です。昇格のルールそのものを変えます。ポイントは3つあります。
複線型人事制度を導入する
向いていない人が上に上がるのは、単線型の人事制度になっているからです。給料を上げるためにはマネジメントをやるしかない構造だと、適性のない人がしぶしぶ管理職になり、本人も部下も不幸になります。そこで、昇格をマネジメントコースとスペシャリストコースに分けます。
マネジメントコースは課長・部長と役割が変わっていきますが、スペシャリストコースは専門性を極める道です。マネジメントに興味や適性がなくても専門スキルが高い人は、成果を上げて給料が上がる仕組みにします。管理職にならなくても役員級の報酬を得られるようにすれば、適性のない上司の下で部下が苦しむことがなくなります。
単線型の制度では、スーパープレイヤーを「せっかく成果を上げたのだから上げないとかわいそう」という理由でマネジメントポジションに就けてしまいます。本人はマネジメントをやりたいわけではなく、給料を上げるためにしぶしぶ引き受け、力を発揮できず、部下も苦しみます。適性に応じてコースを選べるようにすることは、こうしたスペシャリスト型の人材を救済する意味も持ちます。
360度など多面的なアセスメントを入れる
上司1人が評価すると、ハロー効果などで偏りが生じます。上には良い顔をして下には偉そうな態度をとる人は、上からは見えません。360度評価を入れると、こうした見え方が数値やコメントで明確になります。匿名で行えば率直な評価が集まります。
あわせて、昇進昇格の前に候補者として1段上の仕事を半年から1年チャレンジ期間として任せる方法も有効です。「今の業務は卒業したが、入学できるかはこの期間の成果で決める」という形です。部長候補者研修で期待役割を学ばせ、実務の一部を担わせて見極めます。時間をかけられない場合は、外部機関が言動を観察して意思決定力や問題解決力を点数化するアセスメントテストという選択肢もあります。
降格の制度を作る
一度昇格したら一生その地位という既得権益にすると、ピーターの法則が起きます。役職は特権ではなく一時的な役割です。成果が出なかったり組織に悪影響を及ぼしたりする場合は、元の役割に戻す降格制度をルールとして作っておくべきです。
たとえば360度サーベイや人事評価が一定回数続けて基準を下回ると降格候補になる、PIP(パフォーマンス改善プログラム)に入り半年でKPIを達成できなければ降格になる、といった形で明文化します。事前にルール化しておけば、本人も納得しやすく、ミスマッチの本人もスペシャリストコースへ移るなどの選択ができます。
ルールがないまま突然「役割を外れてほしい」と告げられると、本人は「聞いていない」と受け止め、納得感が得られません。制度としてあらかじめ組み込んでおくことは、組織を守るためにも、ミスマッチに苦しむ本人のためにも重要です。合っていないのに上がってしまい、かわいそうだから下げられないという状態を避けることが、複線型人事制度や降格制度を整える目的です。
明日から着手する順番
- 自社の管理職・役員に7つの特徴が当てはまらないかを点検する。当てはまる場合も伸びしろとして捉え、変えられる前提で見直します。
- 昇格が卒業方式になっていないかを確認する。成果を出したから自動的に上げる運用を、入学要件で判断する入学方式に切り替える発想を持ちます。
- 360度評価など多面的なアセスメントを導入し、上司1人の評価に偏らない見え方を把握する。ハロー効果や下に強い上司を可視化します。
- 昇進昇格の前に、1段上の仕事を半年から1年任せるトライアル期間や候補者研修を設ける。実務で適性を見極めます。
- 複線型人事制度と降格制度を整備する。マネジメントコースとスペシャリストコースを分け、役割は一時的なものと位置づけます。
よくある質問
昇格させると後悔する管理職の特徴はいくつありますか
7つあります。感情指示、抽象的な説明、期待値を言語化しない、個別対応偏重、権限の勘違い、現状維持、育成力ゼロです。
なぜ優秀な人が昇格後にダメ上司になるのですか
ピーターの法則が原因です。人は有能なポジションを超えて無能になる地位まで昇格し、そこで固定されるためです。
ピーターの法則とは何ですか
社会学者ピーターが提唱した法則です。階層組織で人は無能になるポジションまで昇格し、その地位で固定されるという理論です。
卒業方式と入学方式の違いは何ですか
判断基準が違います。卒業方式は現職の成果で自動昇格させ、入学方式は次の役割の要件を満たすかで判断する方式です。
ハロー効果とは何ですか
1つの目立つ特徴で他も高評価する心理的バイアスです。営業成績が高いとリーダーシップもあると想像し昇格させてしまいます。
感情で指示する上司の何が問題ですか
心理的安全性が崩壊することが問題です。部下は悪い情報を報告せず反論もやめ、静かな退職モードに入ってしまいます。
説明が抽象的な上司はなぜ危険ですか
手戻りが増えることが問題です。目的や判断基準が伝わらずアウトプットがずれ、部下のモチベーションも下がります。
役割期待値の言語化はなぜ重要ですか
部下の挑戦を引き出すためです。何を期待するかを先に握らないと後出しじゃんけんになり、納得感が得られません。
個別対応ばかりだと何が問題ですか
属人化とリーダー依存が問題です。1対1はできてもチーム全体を機能させられず、昇格後にチームが混乱します。
権限とコントロールの違いは何ですか
権限は形式的な役職で、影響力は本質的な信頼です。肩書きに頼る人は他部署やプロフェッショナルを動かせません。
現状維持しかできない上司の問題は何ですか
変化をリードできないことが問題です。特に部長レベルには戦略的な動きが必要で、未来思考がないと組織が停滞します。
育成力ゼロとはどういう状態ですか
ストレッチな機会を与えない状態です。研修や読書だけで、現場での挑戦・サポート・フィードバックを行わない状態を指します。
7つの特徴に当てはまったら終わりですか
終わりではありません。当てはまる項目は伸びしろであり、本人や周囲が意識して変えていくことができます。
問題を防ぐ打ち手はいくつありますか
3つあります。複線型人事制度の導入、360度など多面的アセスメント、降格制度の整備が核となる施策です。
複線型人事制度とは何ですか
昇格を2つのコースに分ける制度です。マネジメントコースとスペシャリストコースを設け、専門職でも高報酬を得られます。
360度評価はなぜ必要ですか
上司1人の評価の偏りを防ぐためです。上に良い顔をし下に偉そうな人など、上からは見えない実態を可視化できます。
昇格前のトライアル期間はどれくらいですか
半年から1年が目安です。1段上の仕事を任せ、入学できるかをその期間の成果で見極める方法が有効です。
アセスメントテストとは何ですか
外部機関が適性を評価する仕組みです。言動を観察し意思決定力や問題解決力を点数化し、管理職適性を見極めます。
降格制度はなぜ作るべきですか
既得権益化を防ぐためです。役職を一時的な役割と位置づけ、成果が出ない場合は元の役割に戻すルールを明文化します。
仕事ができない人が管理職なのは納得できません
昇格基準のずれが原因です。複線型人事でスペシャリストコースへ移せば、適性のない管理職の下で部下が苦しみません。
まとめ
- 昇格させると後悔する管理職には、感情指示・抽象的な説明・期待値を言語化しない・個別対応偏重・権限の勘違い・現状維持・育成力ゼロの7つの特徴があります。
- 優秀な人がダメ上司になる背景には、無能なポジションまで昇格して固定されるピーターの法則があります。
- 原因は個人ではなく、成果で自動昇格させる卒業方式にあります。次の役割の要件で判断する入学方式に切り替える必要があります。
- ハロー効果により、1つの目立つ成果で他の能力も高いと誤認して昇格させてしまう認知の歪みが生じます。
- 打ち手は複線型人事制度・360度など多面的アセスメント・降格制度の3つで、役職を一時的な役割と位置づけます。
まずは自社の管理職に7つの特徴が当てはまらないかを点検し、昇格が卒業方式になっていないかを確認することから始めてください。
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