部下に指示してもなかなか動いてくれない。何度言っても分かってくれない。「もっと主体性を出せ」と言っても、部下はますます受け身になっていく。指示したことだけを最低限こなし、お客様の要望への対応も遅れがちで、変化のスピードに追いつけない。こうした指示待ちの組織に悩む管理職は少なくありません。
指示待ち社員が生まれる原因は、部下の性格ややる気ではなく、上司が作っている「構造」にあります。部下が自分で考えて意見や行動をすると怒られる、嫌な顔をされる。そうなると部下は受け身にならざるを得ません。「主体性を出せ」と言うほど逆効果になり、部下は萎縮します。本記事では、独立から25年間で国内外1,000社以上の組織に関わってきた森田英一が語る、指示待ち社員を生む3つの構造と、主体性を引き出す関わり方を解説します。原因を人ではなく構造に向けることが出発点です。
指示待ちが起きるメカニズム
社員が指示待ちか、主体的に工夫して動くかは、エンゲージメントの高低に直結します。指示待ちはエンゲージメントが低く、最低限のことだけをやる状態です。市場環境がAIの登場や競合の増加、顧客要望の多様化で変化する中、上司にいちいち確認していては対応が1泊2泊3泊と遅れ、競合に負けてしまいます。
勢いのある会社は仕事のスピードが速く、社員が熱量を持って自分から主体的に動きます。発注する側から見ても、迅速に動き思いを持って対応してくれる相手は付き合っていて気持ちよく、逆に「上司に確認します」とやりたくなさそうな反応は伝わってしまいます。仕事のスピードが遅いことは、金銭的にも大きな損失につながります。
指示待ちの背景には、やる気がないケースだけでなく、もう一つのケースがあります。それは、自分で考えて意見を言ったり行動したりすると上司に怒られる、嫌な顔をされるために受け身になる構造です。上司から見ると「部下にやる気がない」と映りますが、「主体性を出せ」と言うほど部下は萎縮します。主体性を出せと言われて意欲が湧いた人はいません。これは部下の問題ではなく、受け身になる構造を上司が作っていることに気づく必要があります。この罠に多くの上司がはまっています。
成功の循環モデルというフレーム
主体性を考える土台となるのが、MITのダニエル・キム名誉教授が提唱した「成功の循環モデル」です。関係の質が思考の質に影響し、思考の質が行動の質に影響し、行動の質が結果の質に影響する。そして結果の質がまた関係の質に影響するという循環構造です。
| 質の種類 | 内容 |
|---|---|
| 関係の質 | 上司と部下、メンバー同士の人間関係が良好か |
| 思考の質 | 関係が良いとポジティブに「やってみよう」と考える |
| 行動の質 | ポジティブな思考が大胆なチャレンジを生む |
| 結果の質 | 行動が結果を生み、それがまた関係の質に返る |
結果を良くするには行動を変える必要があり、そのためにはポジティブな思考が必要で、それは良い関係から生まれます。「お前はポジティブじゃない」「行動が遅い」と結果や行動ばかりに焦点を当てがちですが、関係の質が盲点になっています。部下がネガティブ思考で行動が遅いなら、関係の質が高くないのかもしれないと気づくことが大切です。
関係が悪いと、部下は「上司は自分を認めてくれない」と感じ、命令だから最低限だけやるという受け身思考になります。すると行動も中途半端になり、結果が出ず、また関係が悪化する悪循環に陥ります。逆に、上司と一緒に未来の話やプライベートの話もして「この上司といると楽しい」という関係ができると、部下はポジティブに考え、怒られることを気にせずチャレンジし、良い結果が出てさらに応援される好循環が生まれます。部下が悪いと思った時、自分も問題の一部かもしれないと構造を俯瞰することが重要です。
背景にある上司の心理と前提
指示待ちを生む上司には、「自分が正しい答えを持っている」という前提があります。答えを持つこと自体は必要ですが、「俺が正しいから従え」となると、部下は上司の答えを探るゲームをするようになります。コーチングのつもりで「どうしたらいいと思う」と聞いても、実際は自分の答えに誘導する誘導尋問になっているケースが多く見られます。
もう一つの前提が、優秀な管理職をプレイヤーとしての優秀さで捉えてしまうことです。優秀さには、自分が答えを出すハイパフォーマーとしての優秀さと、部下の思いを引き出しチーム全体を導く優秀さの2種類があります。管理職の一番の仕事は後者、つまり部下の力を引き出してチーム全体の成果を最大化することです。この前提を持てるかどうかが分かれ道になります。
日本はプレイングマネージャーの比率が高いため、プレイヤーとしての優秀さを管理職の優秀さと勘違いしやすい傾向があります。しかしプレイヤーとして答えを出せる優秀さと、部下の力を引き出す優秀さは別物です。前者に偏った管理職は部下の主体性を引き出せず、ここが管理職としての分かれ道になります。自分がどちらのタイプかを自覚することが、関わり方を変える第一歩です。
指示待ち社員を生む3つの構造
指示待ち社員を作り出してしまう構造は3つあります。まず一覧で確認してください。いずれも部下ではなく上司側に矢印を向ける視点です。
| 構造 | 内容 |
|---|---|
| 1. 上司が答えを持ちすぎている | 自分の答えに誘導し、部下が上司の答えを当てにいく |
| 2. 関係の質が低い | 本音を話せず、結果と行動ばかりに焦点が当たる |
| 3. コミュニケーションが浅い | レベル1〜2にとどまり、対話が生まれていない |
上司が答えを持ちすぎている
上司が答えを持つのは当たり前ですが、持ちすぎて「これしかない」と思い込むと部下はやりにくくなります。部下は本当に思った意見ではなく、「上司が喜ぶ答え」を当てにいくようになります。答えは仮に持っていても、部下の意見やアイデアをもとにフレキシブルに進化させる余白を持つ。「面白いね、やってみよう」という幅のあるスタンスが、部下を主体的にします。
上司が自分の答えに早く到達させようとする上から目線の構造では、部下は意見を言うより上司の答えを探ることに向かいます。コーチングのつもりで「どうしたらいい」と聞いても、自分の答え以外を受け入れないと、それは誘導尋問です。上司がこれが正解だと分かっていても「もしかしたら違う考えもあるかもしれない」という余白を持つスタンスでいると、部下はアイデアを言いやすくなります。
関係の質が低い
ワンオンワンでも距離があって本音を話せない、指示出しだけで人間としての話をしていない上司部下は多く見られます。自分がどんな思いで入社したか、趣味は何かといった人間対人間の関わりで関係が円滑になると、成功の循環モデルが良い方向に回り始めます。関係の質は遠回りに見えますが、思考・行動・結果の質を左右する起点です。
上司部下も人と人であり、この人を尊敬できるといった人間関係が土台になります。関係の質やコミュニケーションは、結果を急ぐと遠回りに見えます。しかし「ダメだ、指示待ちだ」と言うほど部下は指示待ちになっていきます。それで発奮する人はごく少数です。関係性を高めることこそ、思考と行動と結果を変える近道だと捉え直す必要があります。
コミュニケーションが浅い
コミュニケーションにはレベル1から4まで深さがあります。浅いレベルにとどまると心理的安全性が低く、部下は意見を言えません。レベルを上げることで、部下が意見を言いやすい状態を作ることができます。次の章で具体的な4つのレベルを解説します。
上司が自分は本音で話しているつもりでも、部下は当たり障りのないレベル1しか返していないこともあります。あるいは議論はしていても、お互い一歩も譲らずレベル2にとどまっていることもあります。上司は「部下側から見て今どのレベルか」を意識し、レベル3・4の対話が日々起こる場を作れているかを見つめる必要があります。
コミュニケーションの4つの深さ
コミュニケーションの深さは、指示待ちか主体的かを分ける重要な要素です。レベル1から4まであり、上司は自分が今どのレベルにいるかを意識する必要があります。
| レベル | 内容 |
|---|---|
| レベル1 | 当たり障りのない表面的な会話。関係を壊さないことを重視 |
| レベル2 | 議論。どちらが正しいかをぶつけ合う |
| レベル3 | 内省的対話。違う意見を面白がり、相手から学ぶ |
| レベル4 | 生成的対話。その場から新しいアイデアが生まれる |
レベル1とレベル2
レベル1は当たり障りのない表面的な会話で、関係を壊さないことを最優先にします。レベル2は議論で、どちらが正しいか、どこにロジックの穴があるかをぶつけ合います。レベル2は「俺が正しい」というスタンスになりがちで、一方が引き下がっても納得していない状態が残ります。
レベル3の内省的対話
レベル3は内省的対話で、違う意見が出た時に「面白いな、自分にはなかった観点だから教えて」と相手をより深く知ろうとするコミュニケーションです。自分が正しいだけでなく、相手から学べることがある、みんなで一緒に作り出そうという感覚と、まだ全てを知らないという謙虚さがあります。この深さがあると、上司部下でも部下が意見を言いやすく、心理的安全性が高い状態になります。
たとえば意見が対立した時、レベル2は「なぜそう考えるのか」と論破しようとしますが、レベル3は「面白いな、そんなことは考えたことがなかった。盲点があるかもしれないから教えて」と受け止めます。相手の考えから自分が学び、自分の考えも伝え、みんなで一緒に良いものを作り出そうという姿勢です。この姿勢が、部下が安心して意見を出せる土台を作ります。
レベル4の生成的対話
レベル4は生成的対話で、いわゆるフロー状態です。もともとAさんBさんが持っていた意見ではなく、話しているうちに誰も思いつかなかったアイデアがその場から生まれる状態を指します。場の一体感が強く出て、「このメンバーだからこそ生まれた」という感覚になります。レベル3・4のコミュニケーションが日々行われていると、部下の主体性は自然に湧いて出てきます。
職場で主体性を引き出すアクション
今すぐ使える、主体性を引き出すアクションが3つあります。上司の関わり方や言葉を具体的に変えるものです。
正解より納得を一緒に作る
上司は忙しいとすぐ正解を教えたくなりますが、緊急性が高い仕事や新人以外の中堅社員には、相手が納得して動いているかが重要です。主体的に動くかやらされ感かの分かれ目は納得感にあります。「これをやる目的は何か」を一緒に考え、「この仕事の目的だと思うが、他に何かあるか」と余白を残してすり合わせると、徐々に自分ごとになります。部下から上司に「なぜこれをやるのか」と問いかけてよいという関係が理想です。
正しいことに人は必ずしも納得するわけではありません。自分で考えるプロセスがないまま答えだけ与えられると、「よく分からないが言われたからやる」という状態になりがちです。目的を自分で考え、これがあるからやるのだと腹落ちするプロセスこそが、自分ごと化の入り口になります。判断の根拠や背景も含めてすり合わせることが大切です。
指示より考えさせる問いを出す
指示で答えを教えるだけでは部下の思考力が高まりません。部下の思考の幅を広げるのが上司の役割です。目的の方に思考を寄せる問いと、「具体的にどうやるか、他にないか」と幅を広げる問いを使います。「選択肢を3つ出してみて」と考えてもらい、その上で本人に決めてもらう。部下が自分で決めることを重視したコミュニケーションを意識します。
「これが正しい」「これをやるべきだ」と思い込みで決めつけるのは避けたいところです。目的は何か、それを果たす手段は本当にこれだけか、他のやり方もあるのではないか。こうした問いで部下の視野を広げると、部下は自分で考えて決める力を身につけていきます。上司がうまくサポート役に回ることが、主体性を育てる関わりです。
失敗を成長イベントに変える
人が成長する時には失敗が伴います。バスケの3ポイントシュートも、いきなり失敗ゼロで入るようにはならず、失敗を重ねて確率が上がります。失敗の許容度がゼロだと部下は成長しません。「このくらいの失敗なら後でカバーする」と上司がどんと構え、致命的な失敗にならないようコントロールするのが上司の仕事です。「あなたが決めてやったことがうまくいかなくても、任せた私の責任だ。応援している」というスタンスが部下のチャレンジを後押しします。
「絶対に失敗するな」と言われると、部下は身動きが取れなくなります。「まずやってみよう、うまくいかなければ修正しよう」というスタンスの方が、部下は気が楽で動きやすくなります。部下が「どうしたらいいか」と聞いてきたら、「どうしたらいいと思う」と返し、複数のアイデアが出てきたら「決めるのはあなたの役割だ」と本人に委ねる。この関わりが主体性を育てます。
役員クラスの主体性を引き出す関わり方
主体性の課題は現場の部下だけでなく、役員やエグゼクティブにも当てはまります。優秀な人ほど上の人の顔色をうかがい、上に合わせることに長けているケースが多く見られます。役員は自分の役割の範囲内では主体性を発揮していても、会社全体を考えて領域外まで含めた全体最適で主体性を発揮できていないことがあります。
役員向けのワークショップでは、「自分の範囲内ではやっているが、本当に全社最適か、長期最適か」を問い直してもらいます。部分最適でなく全体最適、短期最適でなく長期最適の主体性が求められます。優秀であるがゆえに空気を読みすぎ、「ここまで言うのは失礼だ」と遠慮しがちです。会社は一つのシステムであり、自分のところだけやればよいというスタンスでは強くなりません。目的に向かってレベル3・4の対話で言いたいことを言い合う。この遠慮を突破することが、役員クラスの主体性を引き出す鍵になります。
明日から着手する順番
- 部下が受け身だと感じたら、自分が受け身になる構造を作っていないかと矢印を自分に向ける。人の問題でなく構造の問題として捉え直します。
- 自分のコミュニケーションがレベル1〜2にとどまっていないかを確認する。レベル3の内省的対話ができているかを点検します。
- 結果や行動ばかりでなく関係の質に目を向ける。ワンオンワンで人間対人間の話をし、関係の質を高めます。
- 指示を出す前に「これは何のためにやるのか」と目的を一緒に考える。正解を与えるのではなく納得を一緒に作ります。
- 選択肢を部下に出してもらい本人に決めさせる。致命的でない失敗は許容し、成長イベントとして応援します。
よくある質問
指示待ち社員が生まれる原因は何ですか
上司が作る構造が原因です。部下の性格ややる気でなく、意見を言うと怒られる受け身の構造が指示待ちを生みます。
指示待ち社員を生む構造はいくつありますか
3つあります。上司が答えを持ちすぎている、関係の質が低い、コミュニケーションが浅い、が指示待ちを生む構造です。
「主体性を出せ」と言うと効果はありますか
逆効果です。主体性を出せと言われて意欲が湧いた人はおらず、部下はどう出せばよいか分からず萎縮していきます。
上司が答えを持ちすぎると何が問題ですか
部下が答えを当てにいくことです。上司が喜ぶ答えを探るゲームになり、本当に思った意見を言わなくなります。
コーチングのつもりが逆効果になるのはなぜですか
誘導尋問になるからです。自分の答えに誘導すると、部下は自分に合った答え以外を受け入れない人だと感じます。
成功の循環モデルとは何ですか
MITのダニエル・キム氏の理論です。関係の質が思考・行動・結果の質に影響し、結果がまた関係に返る循環構造です。
関係の質はなぜ重要ですか
すべての質の起点だからです。関係が良いとポジティブな思考が生まれ、行動と結果が良くなる循環につながります。
優秀な管理職とはどういう人ですか
部下の力を引き出す人です。プレイヤーとしての優秀さでなく、チーム全体の成果を最大化するのが管理職の仕事です。
コミュニケーションの深さは何段階ありますか
4段階あります。レベル1の表面的な会話、レベル2の議論、レベル3の内省的対話、レベル4の生成的対話です。
レベル2の議論の特徴は何ですか
正しさをぶつけ合う点です。どちらが正しいかを議論し、引き下がっても納得していない状態が残りやすくなります。
レベル3の内省的対話とは何ですか
相手から学ぶ対話です。違う意見を面白がり、自分にない観点を教わろうとする謙虚さを持つコミュニケーションです。
レベル4の生成的対話とは何ですか
フロー状態の対話です。誰も思いつかなかったアイデアがその場から生まれ、場の一体感が強く出る状態を指します。
心理的安全性が高い状態とは何ですか
レベル3の対話がある状態です。違う意見を歓迎し合い、部下が意見を言いやすい状態が心理的安全性の高い状態です。
主体性を引き出すアクションはいくつありますか
3つあります。正解より納得を一緒に作る、考えさせる問いを出す、失敗を成長イベントに変える、が有効です。
正解より納得を作るとはどういうことですか
目的を一緒に考えることです。答えを与えず、なぜやるのかを余白を残してすり合わせると自分ごとになります。
考えさせる問いはなぜ有効ですか
思考力が高まるからです。選択肢を3つ出してもらい本人に決めさせると、部下の主体性が引き出されます。
失敗を許容すべきなのはなぜですか
成長に失敗が伴うからです。許容度がゼロだと部下は育たず、致命的でない失敗は成長イベントとして扱います。
新人にも納得を優先すべきですか
新人には正解提示が有効です。緊急性が高い仕事や新人には答えを伝え、中堅社員には納得を優先すると効果的です。
役員クラスの主体性はどう引き出しますか
全体最適の視点を促します。自分の領域内でなく、全社最適・長期最適で主体性を発揮しているかを問い直します。
優秀な人ほど遠慮するのはなぜですか
空気を読みすぎるからです。相手に失礼だと遠慮しがちで、目的に向かってレベル3〜4の対話で突破する必要があります。
まとめ
- 指示待ち社員が生まれる原因は部下の性格でなく、上司が作る受け身の構造にあります。
- 指示待ちを生む構造は、上司が答えを持ちすぎている・関係の質が低い・コミュニケーションが浅いの3つです。
- 成功の循環モデルでは、関係の質が思考・行動・結果の質を左右し、関係の質が盲点になりがちです。
- コミュニケーションには4つの深さがあり、レベル3の内省的対話とレベル4の生成的対話が主体性を引き出します。
- 主体性を引き出すアクションは、正解より納得を一緒に作る・考えさせる問いを出す・失敗を成長イベントに変えるの3つです。
- 役員クラスも自領域では主体性を発揮しても全体最適では遠慮しがちで、レベル3〜4の対話で遠慮を突破することが求められます。
人は環境や構造に影響される存在です。採用時に主体性の低い人を選んでいるわけではないなら、身の周りに主体性のない人が多いと感じた時、自分がその芽を摘む原因の一部かもしれません。まずは部下が受け身だと感じたときに、自分が受け身になる構造を作っていないかと矢印を自分に向けることから始めてください。
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