人を増やしたのに、以前より仕事が回らない。メンバーが受け身になり、これくらいでいいかという空気が広がる。会議は増えたのに決まらず、誰かが動いているようで誰も責任を持っていない。人数が増えるほど、一体感が薄れていくという実感を持つ経営者は少なくありません。
この変化は、集めた人の質やモチベーションの問題ではありません。組織のサイズが、コミュニケーションの取り方も、必要なルールの量も、トラブルの起きやすさも決めてしまうという構造の問題です。今回は、在宅医療のクリニックを運営する医療法人輝きの代表を迎え、森田英一が組織を分割しながら強くする7つのステップを解説します。
サイズが組織のすべてを決める—現象のメカニズム
2人で仕事をするなら、話は分担で済みます。3人になると、定期的なミーティングが必要になります。5人、6人、7人と増えていくと、次の段階が始まります。
最初は仲間同士なので、この前のあれでいいよねという阿吽の呼吸で進みます。しかし友人ではない人を採用する段階になると、このチームが何を大事にしているのかを共有しなければなりません。理念を言葉にする必要が出てきます。
規模が大きくなるほど、やらなければならないことは増えます。トラブルの起こりやすさも上がり、どこまでルールで縛るかという判断も必要になります。つまり、規模が組織運営のほぼすべてを規定します。
実際の現場でも同じことが起きます。医師1人、看護師2人で動いていたところに事務職が加わったとき、医療者と非医療者という文化の差が生まれました。医療者は今やると言えばすぐ動きますが、事務の担当者は今週中かという感覚で受け取ります。
この差に気づかず、定期ミーティングを設けなかったため、後から加わった人が疎外されたような状態になりました。文化の違いは人数の変化とともに現れます。
さらに人数が増えると、意見を理解していない人の割合が増えます。一般的な組織論でも、6人から7人程度が上限とされています。それを超えるとコミュニケーションコストが跳ね上がり、意思決定も難しくなり、貢献せずに成果だけを共有するフリーライダーが生まれます。
マジックナンバー3と、2つの安定点
適正サイズを考えるときの基準になるのが、3という数字です。仕事量を人数で割ったときの負担率を見ると、その意味が分かります。
| 人数 | 1人あたりの負担 | 前の人数からの減少幅 |
|---|---|---|
| 2人 | 100÷2=50% | — |
| 3人 | 100÷3=約33% | 約17ポイント減 |
| 4人 | 100÷4=25% | 約8ポイント減 |
2人から3人への変化では負担が大きく下がりますが、3人から4人ではその半分以下しか減りません。数を増やしても効果が小さくなる境目が、ここにあります。
3人が安定する理由はもう一つあります。1人と1人の意見が割れたとき、3人目がバランスを取ってくれるからです。三人寄れば文殊の知恵、三本の矢という言い方も、この構造を指しています。
ただし3人ちょうどでは、誰かが抜けたときに回りません。そこでバッファを加えた3+1、つまり4人が実務上の目安になります。
在宅医療の現場では、医師1人、看護師2人、事務職1人の4人が最初の安定点でした。遊びはまったくなく、誰かが休めば大変ですが、情報共有も意識統一もしやすく、最も質が高くなります。守りは弱いものの、攻めは最も強い形です。
第2の安定点は、医師4人の体制です。4人の医師それぞれに事務や看護のメンバーが付き、4人チームが4つある形になります。1拠点目を作るならミニマムに少し足した規模、2拠点目以降は他拠点で補えるため、より絞った形でも成立します。
背景にある前提—ボトルネックと蜂の分封方式
拠点を分けるときに最初に考えるのは、何がボトルネックかという点です。医療の現場では、人が最大のボトルネックになります。
そのため、いきなり目的地に拠点を作りません。まず人口の多いエリアに拠点を作り、人材の供給路を確保します。岐阜と名古屋では人口が6倍違うため、名古屋に拠点を置けば6倍の人的資源にアプローチできます。そこで教育活動を行いながら、地元が目的地の人が出てきたら現地へ、という3段階の設計です。
分け方にも考え方があります。参考にしているのが、蜂の分封方式です。春に新しい女王蜂が生まれると巣を2つに分けますが、自然界では古い女王が出ていきます。
これは合理的な仕組みです。これまで大丈夫だった巣は安全が確保されているため、より長い生命を持つ新しい側に残します。出ていく側には旅もリスクもあるため、経験のある古い側が担います。
そして、元の巣からは上位の役割の人が抜けることになります。すると残ったメンバーの能力がストレッチされ、権限委譲が自然に起こります。今回の分割でも、代表自身が新拠点へ移る判断をしています。
もう一つの前提が連邦制です。州知事が自分の地域を治め、その経験を経て次のポジションに進むように、拠点のトップという地位があって初めてできる仕事があります。全体最適になるかという議論はありますが、リーダーを作れるという一点だけでも取り組む価値があります。
組織を分割して強くする7つのステップ
サイズを保ったまま成長するためのプロセスを、7つに整理します。
| ステップ | やること | ポイント |
|---|---|---|
| 1 適正サイズを見極める | 事業が回る最小単位に余力を少し足す | 3+1が目安 |
| 2 分割のタイミングを掴む | 大きくなりすぎる前に拠点を分ける | 人が余り始めた時点 |
| 3 古い側が出ていく | 経験のある側が新拠点を立ち上げる | 残る側は権限委譲で育つ |
| 4 全体最適を学ぶ場を作る | 次世代経営者を育てる勉強会を設ける | 2週間に1回、2年コース |
| 5 定期ミーティングを設計する | 間隔と人数を意図的に決める | 3人、2週間に1回、1時間半 |
| 6 プロデューサーを置く | やりたい人を支える役割を作る | 未来を担当する機能 |
| 7 利益を山分けする | 利益の3分の1を頭割りで分配する | 役職による傾斜をつけない |
1 適正サイズを見極める
適正な人数は事業によって変わりますが、基準は明確です。その業務が回る最小のサイズが最も良く、そこに少しだけ余力を足します。
ぴったりの人数では、誰かが体調を崩して抜けた時点で回らなくなります。1拠点目であれば余力が必要ですが、2拠点目以降は他の拠点でカバーできるため、より絞った形でも成立します。
人数が少ないほど、情報共有はしやすく、意識の統一も容易になり、質は高くなります。守りは弱くなりますが、攻めの力は最大になります。
2 分割のタイミングを掴む
このクリニックでは2009年に開業し、13年後の2022年に分割を決めています。医師が5人になり、6人目が入る段階で、1拠点では大きすぎるという判断です。
患者数の面でも限界が見えていました。100人や200人であれば、あの方ですねと分かりますが、400人規模になるとコントロールが難しくなります。
どこまでも大きくするのではなく、分割していくという発想です。働く環境が良く人が集まる状態になると、人が余っていくため、そのタイミングでチームを2つに分けます。
3 古い側が出ていく
分割の際、誰が出ていくかという議論になります。ここで採用したのが蜂の分封方式の考え方で、新拠点を任せる人ではなく、代表自身が出る選択をしました。
元の拠点に残るメンバーは、上位の役割が抜けた分だけ役割が広がります。権限委譲が自然に起き、能力が引き上げられます。
新拠点にはもう一つの利点があります。前の拠点でやりたかったができなかったことを、ゼロから始められる点です。そこで、前拠点で成功したやり方を踏襲しないというルールを設けました。実際に3つの拠点でそれぞれ別の電子カルテを使い、最終的に最も良かったものを全体で採用しています。
この方法が機能するのは、一度立ち上げて成功体験を持つ人が動くからです。経験のない人がいきなり新しいことを求められると混乱しますが、一巡している人であれば、さらに良い形に挑戦できます。
4 全体最適を学ぶ場を作る
分割すると、それぞれの拠点が自分たちのことだけを考えるようになり、対立やタコツボ化が起きます。あの拠点は勝手にやっている、あちらは稼いでいないという構図です。
これを防ぐため、次世代の経営を担う人を集めた勉強会を設けています。2週間に1回、2時間。参加者は6人から7人で、経営的な視点と全体最適に必要な要素を扱います。
扱うのは、チームの歴史と理念、ドラッカーのマネジメント、コーチング、事業ポートフォリオの考え方、業界構造の分析、財務の読み方です。導入には、経営理論を物語として描いた映画を使い、ここで何が起きているか、この場面で理論は何と言うかを議論します。
これを2年コースで運営し、1年目は受ける側、2年目は教える側に回ります。教えることで身につくためです。4年ほどで一巡し、この視点を持った人が10人ほど組織内にいる状態になります。なぜこうなっているのかと現場が疑問を持ったときに、その場で説明できる人がいることが強さになります。
5 定期ミーティングを設計する
任せたと言って一切関与しないのは危険です。かといって細かく介入しても機能しません。そこで、定期的に話す場をあらかじめ確保します。
実務に支障が出ないよう、朝7時から1時間半、2週間に1回という設計です。テーマは決めず、最近どうかという入り方をします。
間隔の設計にはセンスが問われます。組織の大きさと変化の速さによって適切な間隔は変わり、間違えると後手に回ります。1時間半という長さを取ることで、短期だけでなく中期や長期の話もできます。
人数も1対1にしません。3人で行う形にしています。2人だと言いにくいこともありますが、3人であれば視点が増え、実行の分担もしやすくなります。ここでもマジックナンバー3が効いてきます。
6 プロデューサーを置く
ドラッカーはリーダーシップを、フォロワーがいればそれはリーダーだと定義しています。そこで、リーダーになれと求めるのではなく、能動的なフォロワーを付ける仕組みを作りました。この役割をプロデューサーと呼んでいます。
求められる要件は、面白がれること、プロジェクトを設計し進められること、ゼロから1を作れること、そして全体最適が見えることです。一つの職種の視点ではなく、地域全体で何があればよいかを考えられる人が向いています。
出身も多様です。調理、銀行、学生、まちづくり、ゲーム制作、人材と、医療とは異なる背景を持つ人が集まっています。業務の半分ほどは自分の専門を活かした実務を担い、残りを他のメンバーの支援に充てています。
役割を一言で表すと未来担当です。現在は医師や看護師が対応し、過去は医療事務が請求として処理する。では未来を担当するのは誰かと考えると、本来は経営者だけになってしまいます。その機能を分散させたのがこの役割です。
実例もあります。飼い主が亡くなった後のペットの行き先に心を痛めた医師の相談を受け、プロデューサーが定期的な話し合いの場や仕組みづくりを支援しました。そこから勉強会が開かれ、報道番組で取り上げられるところまで広がっています。一般的な会社では、思いついた人がやれと言われて止まってしまう話です。
7 利益を山分けする
利益の3分の1を、頭割りで分配しています。役職や給与による傾斜はつけません。新入社員も同じ条件で、理事は対象外としています。
唯一の調整は勤務形態で、夜勤がある人は3ポイント、夜勤がない人は2ポイントという形です。全員のポイントを合計し、1ポイントあたりの金額を出して分けます。
頭割りにする理由は、金額の意味が人によって違うからです。もともと給与水準が高い人にとっての1万円と、そうでない人にとっての1万円では重みが異なります。
この設計は、全体最適の視点を育てる施策でもあります。自分の拠点でこれをやるべきか、全員の分配を減らしてまで行う価値があるかという問いが生まれます。実際に、事務が忙しくなった際、採用を提案したところ、もう少し効率を上げられるという声が現場から出てきました。経営や財務の視点が自然に育ちます。
解決策・打ち手
ここからは、他の業種でも応用できる形に整理します。
まず2拠点にする
拠点を多く作る必要はありません。たとえばパン屋であれば、1店舗が存続する状態まで到達したら2店舗目を作るという考え方です。
2つにするだけで効果が生まれます。自分の代わりに運営する人にポジションを与えられ、経営者としての実地訓練ができます。リスクの分散にもなり、片方で問題が起きても事業を継続できます。人間関係の相性も、配置で調整できるようになります。
ボトルネックを先に外す
拠点展開では、何がボトルネックかを特定してから順番を決めます。人が制約になるなら、人材が集まる場所に先に拠点を作ります。
目的地にいきなり出すのではなく、供給路を確保してから進む。この段取りがあるだけで、立ち上げの難易度は大きく変わります。
立ち上げは経営者自身が行く
新しい拠点の立ち上げでは、決裁権を持つ人が現地にいるかどうかが結果を分けます。その場で決められる体制であれば、判断は速く進みます。
逆に、部下だけを送り市場調査をさせるという形では、うまくいかないケースが多くなります。ゼロから1を作る段階では、想定外のことが次々に起きるためです。創業者自身、あるいは起業家としての感覚を持つ人が行くことが条件になります。
ミーティングの間隔と人数を見直す
会議体は一度決めたら固定するものではありません。拠点が増えれば、参加者の構成も変わります。
拠点が4つになれば、拠点長3人と本部2人で話すという形も考えられます。今どの形が最適かを、そのつど設計し直してください。同じ立場の人同士が集まると、悩みも似ているため共感と工夫が生まれます。
やりたい人を支える役割を作る
多くの組織では、やりたいことがあっても忙しくて進みません。これをやった方がよいと言えば、ではあなたがやれと返ってくるため、口に出さなくなります。
そこで、思いを持った人を支える役割を置きます。いいですねと受け止め、進め方を整理し、頻度や予算やゴールを一緒に設計する人がいれば、やってみようという気持ちが動きます。結果としてリーダーが育ちます。
分配の設計で視点を変える
報酬の配分方法は、行動と視点を変える仕掛けになります。利益の一部を全員で分ける形にすると、コストや採用の判断が自分ごとになります。
これをやると全員の分配が減るが、それでもよいか。福利厚生を増やす代わりに賞与が減るが、それをどう考えるか。こうした問いを現場が持つようになります。経営視点は、説明よりも仕組みで育ちます。
明日から着手する順番
- 自社の事業が回る最小のチーム構成を書き出します。
- そこに余力を1人分足した形を、標準の単位として定めます。
- 現在のチームが6人から7人を超えていないかを確認します。
- 超えている場合、どの単位で分けられるかを検討します。
- 分割する際、経験のある側が新しい場に出る形を検討します。
- 全体最適を学ぶ場を設け、次世代の担い手を集めます。
- 定期ミーティングの間隔と人数を見直し、3人での実施を試します。
- 思いを持つ人を支える役割を1人置けないか検討します。
よくある質問
組織の適正サイズはどう決めますか?
事業が回る最小単位です。そこに少し余力を足した形が基準になり、1拠点目ほど余力が必要になります。
なぜ3人が安定するのですか?
意見が割れたときに3人目が調整できるからです。負担率も100÷3で約33%となり、4人にしても8ポイントしか減りません。
3+1とは何ですか?
3人にバッファを1人足した形です。3人ちょうどでは誰かが抜けたときに回らないため、4人が実務上の目安になります。
最初のチーム構成の例はありますか?
在宅医療では4人です。医師1人、看護師2人、事務職1人という構成が最初の安定点になっています。
人数が増えると何が起きますか?
フリーライダーが生まれます。6人から7人を超えるとコミュニケーションコストが上がり、意思決定も難しくなります。
文化の違いはいつ生まれますか?
職種が混ざったときです。スピード感や前提が異なるため、定期的に話す場を設けないと疎外が起きます。
分割のタイミングはいつですか?
人が余り始めた時点です。この事例では開業から13年後、医師が5人になり6人目が入る段階で分割しています。
顧客数の目安はありますか?
400人規模が一つの境目です。100人や200人であれば把握できますが、400人ではコントロールが難しくなります。
蜂の分封方式とは何ですか?
古い側が巣を出ていく方式です。安全が確保された巣を新しい世代に残し、経験のある側が新天地を担います。
なぜ経験のある側が出るのですか?
残る側が育つからです。上位の役割が抜けることで権限委譲が自然に起き、メンバーの能力が引き上げられます。
新拠点では何を変えますか?
前拠点のやり方を踏襲しません。3拠点で別々の仕組みを試し、最も良かったものを全体で採用するという進め方をしています。
拠点展開の順番はどう決めますか?
ボトルネックから決めます。人が制約なら、人口が6倍あるエリアに先に拠点を作り、供給路を確保してから進みます。
分割後の対立はどう防ぎますか?
全体最適を学ぶ場を作ります。次世代の担い手を集め、2週間に1回、2時間の勉強会を2年コースで運営します。
勉強会では何を扱いますか?
経営の基礎です。理念と歴史、マネジメント理論、コーチング、事業ポートフォリオ、業界分析、財務の読み方を扱います。
なぜ2年コースなのですか?
1年目は受ける側、2年目は教える側になるからです。教えることで身につき、次の世代へ引き継げます。
定期ミーティングの設計で重要な点は何ですか?
間隔と人数です。2週間に1回、1時間半、3人という形にすると、短期から長期まで扱え、視点も増えます。
プロデューサーとはどんな役割ですか?
未来を担当する役割です。現在は現場、過去は事務が担うため、未来を考える機能を経営者から分散させています。
プロデューサーに向いているのはどんな人ですか?
4つの要件を満たす人です。面白がれること、プロジェクトを進められること、ゼロから1を作れること、全体最適が見えることです。
利益の分配はどうしていますか?
利益の3分の1を頭割りします。役職による傾斜はつけず、夜勤がある人は3ポイント、ない人は2ポイントで調整します。
なぜ頭割りにするのですか?
金額の重みが違うからです。給与水準が高い人と低い人では同じ1万円の意味が異なり、全体最適の視点も育ちます。
まとめ
- 組織の課題の多くは人の問題ではなく、サイズが運営のすべてを規定するという構造から生まれます。
- 負担率の計算では3人から4人で約8ポイントしか減らず、3+1が実務上の目安になります。
- 6人から7人を超えるとコミュニケーションコストが上がり、フリーライダーが生まれます。
- 拡大ではなく分割で成長し、経験のある側が新拠点へ出ることで残る側が育ちます。
- 分割後の対立は、全体最適を学ぶ場、プロデューサーという役割、利益の頭割りで防ぎます。
まずは自社の事業が回る最小のチーム構成を書き出し、今のチームが7人を超えていないかを確認してください。
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