「管理職になりたいけれど、自分が向いているのか分からない」「今すでに管理職だが、部下の育成がうまくいかない」。あるいは経営者として、「どんな人を管理職に選び、どう育てればよいのか」と悩む方も多いのではないでしょうか。管理職はなりたい人が減り、「罰ゲーム」とまで言われる立場になっています。
結論から言えば、管理職がうまくいかない原因は本人の能力不足ではなく、プレイヤーとして優秀だった成功体験が「任せられない」「自分のコピーを作りたがる」といった罠を生む構造にあります。プレイヤーで優秀な人と管理職で優秀な人はまったく違うため、思考を180度転換する必要があります。本記事では、25年間で1,000社以上の組織づくりに関わってきた森田英一が語った内容を整理して解説します。
管理職がうまくいかないメカニズム
管理職の数と質が、組織の成長度合いを決めます。良い管理職がいれば組織は成長し、育たなければメンバーのモチベーションが下がって離職につながります。人が辞める理由は直属の上司による部分が大きいため、管理職は組織の要です。
問題の起点は、仕事ができる人がそのまま管理職になることにあります。結果を出した人は自分に自信があるぶん、部下を自分の物差しで判断し、下に見がちになります。「なぜできないんだ」「俺がやった方が早い」となり、自分で抱え込んでしまいます。
プレイヤーは自分で成果を出し、最後まで諦めないことが大事です。一方、管理職はメンバーに成果を出してもらう立場であり、求められる力が根本的に異なります。この違いを理解しないまま昇進すると、スーパープレイヤーほど管理職としてつまずく罠にはまります。
管理職が機能しないと、組織にはさまざまな悪影響が出ます。部下を育てない、モチベーションを上げられない管理職のもとでは、組織全体のパフォーマンスが上がりません。最悪の場合は組織の崩壊につながります。優れた事業計画があっても、実行力が追いつかない状態に陥りがちです。だからこそ、管理職の育成と選抜は組織にとって最重要のテーマになります。
管理職に必要な力の全体像
管理職に向く人が持つ力は、大きく6つに整理できます。まず一覧で確認してから、後半で1つずつ解説します。
| 力 | 内容 |
|---|---|
| 任せる力・人への興味 | メンバーの個性に興味を持ち、得意やりたいことを見て任せる |
| 部下育成力 | タイプや成長段階に応じて育て方を使い分ける |
| 問題発見・解決力 | ボヤのうちに問題を見つけ、マイルストーンで異変を察知する |
| 決断力 | 現場で決めるべきことを先延ばしにせず決める |
| 責任感 | 難しい状況でも逃げず、なんとかしてやり遂げる |
| 戦略的思考 | 戦術レベルで上位目標と連動させ、自分の言葉で語る |
管理職が陥りやすい3つの罠
管理職になりたての人が陥りやすい罠は3つあります。いずれもプレイヤー時代の成功体験が原因で起こります。
任せられない罠
スーパープレイヤーほど、自分でなんとかする癖がついています。その基準で見るため、部下のできないところが目につき、「あいつには任せられない、俺がやった方が早い」と抱え込みます。
結果として他のメンバーも下に見てしまいます。メンバーからは「信用してくれない」「任せてくれない」「相談するとバカにされる」と映り、関係が悪化します。責任を自分で抱え込みすぎる罠です。
自分のコピーを作る罠
優秀な人ほど「俺はこうやってうまくいった、お前もこれをやれ」と、自分のコピーを作りたがります。しかし「私のコピーになれ」と言われてモチベーションが上がる人はいません。
人にはそれぞれ個性があり、あなたと私は違います。仕事のスキルの一部は共有できても、すべてをコピーさせようとするとモチベーションが下がります。個性を見て、任せる仕事を割り振る必要があります。
いい人になりたい罠
部下に嫌われたくないという気持ちから、厳しい指導を避ける罠です。ハラスメントと言われることを恐れ、評価を甘めにしたり、褒めるだけで厳しいことを言えなくなったりします。
褒めることは大切ですが、必要なときに言うべきことを言えないままでは、管理職としての役割を果たせません。人気投票ではないという意識を持つことが重要です。
管理職に向く人が持つ6つの力
任せる力と人への興味
管理職に向くのは、自分でやるのではなく任せられる人です。その前提として、相手の個性に興味を持つことが欠かせません。何が得意か、何をやりたいのかに関心を向け、共感しながら仕事を任せます。人に興味を持つことが、管理職として最初に必要な力です。
部下育成力
育て方は人のタイプによって使い分けます。指示命令で1つずつ積み上げる方が合う人もいれば、細かく管理されたくない人もいます。後者にマイクロマネジメントをすると、信用されていないと感じてモチベーションが下がります。相手に合わせた育成が重要です。
特に難しいのは、自分と違うタイプの部下です。自分がガンガン意見を言う人だと、静かな部下に「なぜ言わないんだ」と感じてしまいます。ロジカルな人は、抜け漏れのある部下が許せなくなります。自分基準で見ると、なぜできないのかと責めがちです。
しかし、意見をよく言う人は地道な仕事が苦手なこともあり、静かな人はロジックを着実に積み上げられることもあります。相手が持っていて自分にはない強みは何かに目を向けることが、育成の質を大きく左右します。
問題発見・解決力
言われたことをやるプレイヤーと違い、管理職は広い業務範囲で起きる問題を早めに発見する必要があります。大火事になってから消すより、ボヤのうちに潰す方が大切です。「なんだかおかしい」というセンサーを高めておきます。
センサーを勘で終わらせないために、まず計画を立て、うまくいくかどうかを測るマイルストーンを決めます。1週間や1か月で区切り、順調かどうかをチェックします。異変があれば、メンバーが抱える取引先との問題などが隠れている可能性があります。
決断力
中間管理職には上からのミッションがありますが、すべてを上に相談する必要はありません。「Aに任せるかBに任せるか」など、自分のレベルで決めるべきことがあります。ここで決められず、ずるずると先延ばしにする人は管理職に向きません。
ズバッと決めて動き、うまくいかなければ「ごめん、間違えていた」と修正する方が、メンバーは動きやすくなります。日常でも、ランチの店を「どこでもいい」で終わらせず起点を出せるかなど、決断力は鍛えられます。
責任感
中間管理職は英語でマネージャー、つまり「なんとかする人」です。上から無理を言われ、下からは「やりたくない」「辞めたい」といった問題が起こる中で、逃げずにやり遂げる責任感が求められます。採用ができない、人が来なくなったといった問題も重なります。バイタリティやストレス耐性も大切な要素です。
戦略的思考
戦略そのものは役員が考える面もありますが、管理職には少なくとも戦術レベルの思考が求められます。上位目標や戦略と連動させ、どうやれば効果的かを考えます。どこに集中し、何を捨てるかを見極める思考です。
加えて、戦略を自分の言葉で語れることが重要です。「上が言ったからやれ」ではなく、「自分はこう考えた、この戦略で行くのがいい」と伝えます。人間は意味の動物であり、意味が分かるとモチベーションが湧くからです。会社の戦略を自分の部署向けにブレイクダウンし、何のためにやるのかを添えて語ることで、部下の納得感が変わります。
「管理職は罰ゲーム」への向き合い方
近年、管理職になりたくない人が増えています。上に上がっても残業代が出ず、責任とプレッシャーが増える割に合わないと言われるためです。短期で見れば、その考えにも一理あります。
しかし長期で見れば、管理職は成長のプロセスです。1人でやっていたところから、いろいろな人を巻き込んで進める。慣れないうちはやりにくく感じますが、これは成長痛だと捉えられます。乗り越えれば、チームでやりたいことをスムーズに実現でき、できることの幅が広がります。
この成功体験は今後のキャリアにも効いてきます。将来、経営や独立を考えたときにも、チームを作ってマネジメントできる経験があるかどうかで、選べる道は大きく変わります。1人でやっても上がらないモチベーションが、メンバーと成果を出すと大きな喜びになる。その先には、いろいろなドラマや面白さがあります。
管理職に求められる自己成長
日本では、管理職になったら完成した人だと誤解されがちです。しかし管理職はどんどん変わっていかなければなりません。自分のコピーを作りたがる発想に気づいて自己認識を改め、市場環境や競合の変化で通用しなくなった勝ちパターンを更新する必要があります。
最も身近に成長を感じられるのは、相性の悪い部下と向き合う場面です。「あいつがやる気がない」と部下のせいにすることもできますが、自分の関わり方が相手の成長や自信を奪っている可能性を振り返れると、声のかけ方や見方を変えられます。
弱みばかり見ていた相手の強みは何かを考える。こうした人へのものの見方を変えることが、管理職として日々鍛えられる自己成長です。これができる人ほど、マネジメントは上達していきます。
管理職を育て・選ぶための打ち手
本人の意向と適性を見極めながら育てる具体策を整理します。多くの会社が「昇進後にお祝い研修をする」という間違いを犯していますが、これでは効果が3分の1程度まで下がります。前提として、本人が管理職になりたいかどうかも重要です。なりたくない人を無理に登用しても定着しないため、意欲の確認から始めます。
候補者段階で研修を行う
効果的なのは、昇進前に候補者として研修を行うことです。半年から1年かけて、プレイヤーとの違いを教え、部下マネジメントを職場で試してもらいます。本人の意欲と適性の両方を見極める期間になります。
トランジション期間を設ける
スーパープレイヤーのマインドから管理職のマインドへは180度の転換が必要で、急には変わりません。半年から1年のワンサイクルで、チームマネジメントの成果、メンバーのやる気、本人の手応えを試す転換期間を作ります。
360度サーベイを活用する
上司には優秀に見える人が、部下からは高圧的で嫌われている場合があります。360度サーベイで多面的に把握します。実施前に「育成のために行う」「統計的に扱い個人は特定されない」と説明し、正直に書いてもらうことが重要です。
結果を本人に返して面談する
サーベイはやりっぱなしにせず、本人にフィードバックして面談します。リーダーシップは他者への影響力であり、自分がどう見られ、どんな影響を与えているかを知ることが、必要な自己認識につながります。
森田氏自身も、役員から6時間ぶっ通しでフィードバックを受けた経験があります。「口は笑っているが目は笑っていない」「見る目が怖い」と言われ、人に厳しい目を向けていたと気づいたそうです。上の立場になるほど、周囲は本音を言ってくれなくなるため、サーベイのような仕組みが自己認識を助けます。
ここで間違えてはいけないのは、嫌われないようにするという話ではない点です。ときにはメンバーが嫌がる意思決定も必要で、人気投票ではありません。大切なのは、自分がどんな影響を与えているか、盲点はないかを客観視することです。
研修で扱う育成・チームづくりの手法
役割認識のマインドチェンジ
ファーストステップは役割認識です。主役はメンバーであり、いかに任せるかが仕事だと転換します。メンバーがどうしてもできないときに最後に自分が出る、という順序を徹底します。
部下育成カルテ
部下の趣味、やりたいこと、目指す方向、過去にやりがいを感じた仕事などをメモしてカルテに落とします。何人も部下がいると忘れてしまうため、面談前に見返します。書けない人が多く、部下を知らないことに自覚を促すワークにもなります。
ポジティブとチャンスのフィードバック
フィードバックは2種類です。良かった点や感謝を伝えるポジティブフィードバックと、伸びしろを伝えるチャンスフィードバックです。ネガティブと呼ばず、リアルタイムで遠慮せず伝える力をロールプレイで鍛えます。
会社のミッション・戦略を自分の言葉で語る
会社と現場の橋渡しが管理職の役割です。ミッション・ビジョン・バリューや戦略を、背景や目的まで理解して自分の言葉で語れるようにします。「上が言ったから、俺は反対だがやって」は最悪であり、今すぐやめるべき伝え方です。
チームビルディング
部下育成は1人ずつですが、チームとして機能させることも重要です。メンバー同士がサポートし合い、教え合う状態になれば自走する組織になります。生い立ちや入社の原点を話す場をつくり、本音で話せる関係を育てます。
課長から部長へ視座を上げる
課長レベルからさらに部長を目指す場合、求められるものが変わります。戦略的思考はより高度になり、自部署だけの戦略ではなく、他部門とどう連携するかという思考が必要です。部分最適ではなく、全体最適の視点が問われます。
もう1つは長期的視野です。課長は半期や1年の結果で評価されがちですが、部長は3年後に花が咲くものを今仕込む発想が求められます。1年単位では無駄に見えても、中長期で成果が出ることを決めて進める思考です。
長期視野を養うには、長期的なトレンドにアンテナを立てます。AIの進歩、日本市場の縮小とグローバル市場の拡大、国内で増える外国人など、大きな流れを踏まえて自分の部署や仕事がどうなるかを重ね合わせます。1人で抱えず、上司や周囲と話すことで新たな視点が見えてきます。
社内での影響力も、部長には欠かせません。自分の部下だけでなく、他部門への影響やカルチャー形成に意識を向けます。長期的な視点で「これからこうした方がいい」と提案を重ねると、全体を考える人だと認識され、影響力が広がっていきます。
明日から着手する順番
- プレイヤーと管理職は求められる力が違うと認識し、任せる前提に立つ
- 部下1人ずつの得意・やりたいこと・目指す方向をカルテにメモする
- 計画にマイルストーンを設定し、1週間や1か月で順調さをチェックする
- 現場で決めるべきことを先延ばしにせず、その場で決める習慣をつける
- 良かった点と伸びしろを、リアルタイムで遠慮せずフィードバックする
- 会社の戦略を背景まで理解し、自分の言葉で部下に語る
- 360度サーベイで自分がどう見られているかを客観視する
- 部長を目指すなら、他部門連携と3〜5年の長期トレンドに視野を広げる
よくある質問
管理職に向く人と向かない人の違いは何ですか
任せられるかどうかが最大の違いです。自分で抱え込む人ではなく、メンバーの個性に興味を持ち成果を出してもらえる人が向いています。
スーパープレイヤーが管理職でつまずくのはなぜですか
自分でなんとかする癖が原因です。その基準で部下を見て「任せられない」と抱え込む罠にはまるため、優秀な人ほどつまずきます。
管理職が陥りやすい罠はいくつありますか
3つあります。任せられない罠、自分のコピーを作る罠、いい人になりたい罠で、いずれもプレイヤー時代の成功体験が原因です。
プレイヤーと管理職はどう違いますか
成果の出し方が違います。プレイヤーは自分で成果を出し、管理職はメンバーに成果を出してもらう立場であり、思考の転換が必要です。
部下に任せられません。どうすればよいですか
相手の個性に興味を持つことが第一歩です。何が得意で何をやりたいかを見て、自分の物差しではなく相手に合わせて仕事を割り振ります。
部下の育て方は全員同じでよいですか
タイプによって使い分けます。指示命令が合う人もいれば、マイクロマネジメントを嫌う人もおり、成長段階でも変える必要があります。
問題を早く見つけるにはどうすればよいですか
計画にマイルストーンを設定します。1週間や1か月で区切って順調さをチェックし、異変のセンサーを高めることでボヤのうちに潰せます。
決断力はどう鍛えればよいですか
日常の小さな選択から鍛えられます。ランチの店を「どこでもいい」で終わらせず、起点を出して決める習慣が判断力につながります。
管理職に責任感が必要なのはなぜですか
マネージャーは「なんとかする人」だからです。上からの無理と下からの問題の板挟みでも、逃げずにやり遂げる力が求められます。
戦略的思考はどこまで必要ですか
戦術レベルは必須です。戦略は役員が担う面もありますが、上位目標と連動させどう進めるかを考える力は管理職に求められます。
管理職の育成でよくある間違いは何ですか
昇進後のお祝い研修です。効果が3分の1程度まで下がるため、昇進前に候補者として半年から1年かけて研修する方が効果的です。
管理職研修はどれくらいの期間が必要ですか
半年から1年が目安です。ワンサイクル回してチーム成果やメンバーのやる気、本人の手応えを見極める転換期間として設けます。
360度サーベイは何のために行いますか
育成と自己認識のためです。上司には見えない部下からの評価を多面的に把握し、自分の影響を客観視する材料として活用します。
360度サーベイで正直な回答を得るには
事前説明が重要です。育成目的であること、統計的に扱い個人は特定されないことを伝えると、適当ではなく正直な回答が集まります。
部下育成カルテとは何ですか
部下の趣味やりたいこと目指す方向を記録するメモです。何人も部下がいると忘れるため、面談前に見返して認識のズレを防ぎます。
フィードバックにはどんな種類がありますか
2種類あります。良かった点を伝えるポジティブフィードバックと、伸びしろを伝えるチャンスフィードバックをリアルタイムで行います。
「上が言ったから、俺は反対だがやって」はなぜダメですか
三重に損だからです。上司も尊敬されず、会社への信頼も部下のモチベーションも下がるため、今すぐやめるべき伝え方です。
管理職は罰ゲームだと聞きますが本当ですか
短期では大変ですが成長のプロセスです。チームで成果を出す成功体験を得れば、やりたいことの幅が広がる長期的な投資になります。
管理職になっても成長は必要ですか
必要です。自分のコピーを作る発想から抜け、市場や競合の変化に合わせて勝ちパターンを更新する自己認識と自己変革が求められます。
課長から部長になるには何が必要ですか
全体最適の視点と長期的視野です。自部署だけでなく他部門と連携し、3〜5年の長期トレンドを踏まえて今から仕込む思考が求められます。
まとめ
- 管理職がつまずく原因は能力ではなく、プレイヤー時代の成功体験が生む「任せられない」「コピーを作る」「いい人になりたい」の3つの罠です。
- 管理職に向く人が持つ力は、任せる力・部下育成力・問題発見解決力・決断力・責任感・戦略的思考の6つです。
- 育成は昇進後のお祝い研修ではなく、昇進前に半年から1年の候補者研修と転換期間を設ける方が効果的です。
- 360度サーベイと部下育成カルテを使い、自分がどう見られているかと部下の個性の両方を把握します。
- 部長を目指すなら、自部署の成果から全体最適と3〜5年の長期視野へ視座を上げます。
まずは自分の部下1人ずつの得意・やりたいこと・目指す方向を、カルテに書き出すことから始めてみてください。
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