日本人の給料はなかなか上がらない。海外は上がっているのに、なぜ自分たちの給料は増えないのか。経営者がケチなだけなのか、それとも別の理由があるのか。真面目に働いているのに報われないと感じる社員も、給料を上げたくても上げられないと悩む経営者も、この問いに答えを見つけられずにいます。
給料が上がらないのは、個人の努力不足や経営者のケチだけが原因ではありません。日本企業に埋め込まれた構造の問題です。人材が流動化せず外の世界が見えない、生産性が低く儲ける力が弱い、管理職が多すぎて組織がメタボ化している。こうした構造を理解し手を打てば、給料は上げられます。本記事では、シンガポールやタイでも会社を経営し、独立から26年間で国内外1,000社以上の組織に関わってきた森田英一が語る、給料が構造的に上がらない7つの原因と、爆上げする処方箋を解説します。
給料が上がらないメカニズム
給料が上がらない大きな要因の一つは、人材が流動化しないことです。海外で給料が上がるのは、社員がより高い給料の会社へ転職するからです。人材獲得競争が加熱すると、辞められないように給料を上げる競争が始まります。日本では新卒で入社してそのまま在籍し続けるため、給料の相場がブラックボックス化し、上がりにくくなります。
もう一つの要因は生産性の低さです。日本企業の生産性は先進国の中でかなり下位にあり、無駄な仕事が多いことが儲ける力を弱めています。社員目線でできることは、生産性を上げることと、人材の流動性を高めること、つまり上がらないなら辞めるという選択です。経営者は、高い給料を払っても十分儲かる体質に変え、安く売りすぎている商品・サービスの価格を上げていく必要があります。
シンガポールやタイでは人件費の上がり方が激しく、経営者にとっては大変ですが、社員の給料は毎年数%ずつ上がっていきます。世界全体でインフレが進む中、日本だけが上がらないのは、そもそも儲かっていないこと、経営者がリスク回避でキャッシュを貯めたがること、そして社員が辞めないことが重なっているためです。日本のサービスは質が高いのに安すぎるという状態が、給料の上がらなさと表裏一体になっています。
組織のメタボ構造というフレーム
給料を上げる原資がないのは、組織がメタボ構造になっているからです。贅肉がつきすぎた組織を、ダイエットしてスリムな筋肉質の体質に変える必要があります。この考え方を軸に、7つの原因を捉えると対処が明確になります。
| 体質 | 状態 |
|---|---|
| メタボ体質 | 管理職過多、無駄な仕事、忖度、時間主義で贅肉が多い |
| 筋肉質体質 | 価格を上げ、生産性を高め、成果で評価し、原資を生む |
組織の現在地を測るには、カルチャーや社員のエンゲージメント、離職の兆候などを見る組織総合診断が有効です。人間の健康診断と同じで、どこに問題があり、どんな習慣を変えればよいかを把握することが、体質改善の出発点になります。
背景にある日本企業の前提
給料が上がらない背景には、日本企業に根づいたいくつかの前提があります。一つは、経営者がリスク回避のためキャッシュを貯めておきたいという心理です。もう一つは、安く売ることが正義で、値上げは申し訳ないという価格観です。世界的にはインフレで価格も給料も上がる中、日本だけがガラパゴス化し、20〜30年上がらない状態が続いてきました。
さらに、時間をかけて働くことを美徳とする時間主義や、上司に忖度することを良しとする文化も前提として残っています。これらは個人の問題ではなく、組織全体で共有された前提です。だからこそ、一人だけが変えようとすると損をする構造になっており、変革には全員での意識転換が必要になります。
給料が上がらない7つの原因
給料が構造的に上がらない原因は7つあります。まず一覧で確認してください。
| 原因 | 内容 |
|---|---|
| 1. 管理職が多すぎる | 役職を作りすぎ、部下のいない管理職が生まれる |
| 2. 評価が曖昧で降格がない | 頑張っても変わらず、成果を出す人が馬鹿らしくなる |
| 3. ブルシットジョブの増殖 | 利益を生まない社内向けの無駄な仕事が増える |
| 4. 忖度とコントロール欲求 | 部下が本音を言わず、上司の能力が上限になる |
| 5. 時間主義という呪い | 長時間働く人が評価され、生産性向上が損になる |
| 6. 低価格戦略のやりすぎ | 安売りが正義とされ、値上げできず原資が生まれない |
| 7. AIリテラシーの格差の放置 | AI活用の差が広がり、生産性の差が拡大する |
管理職が多すぎる
日本企業は管理職の数が多く、役職も多くあります。部長、副部長、部長代理、部長補佐など肩書きを作りすぎ、組織構造がいびつになっています。海外はジョブ型で先に組織図を作り、そこに人をはめますが、日本は人に紐づけて役職を作ります。その結果、部下のいない部長や部下1人の部長が生まれ、責任や権限が少ないため給料が低くなります。管理職の数が適正かを見直す必要があります。
森田が関わった会社では、管理職が多すぎるとして数を3分の1にしたケースがあります。管理を外れた人は専門職として自分のスキルで貢献する形にし、専門スキルのKPIを高く設定しました。管理職を3分の1に減らした分、残った管理職の給料を大きく上げ、部下の数を増やしています。管理職はマネジメントのプロであるべきで、役割が曖昧なまま「管理職と言っているが管理職の仕事をしていない」状態が、給料の上がらなさにつながっています。
評価が曖昧で降格がない
降格がなく評価が曖昧だと、頑張っても頑張らなくても給料が変わりません。成果を出して成長しても1%しか変わらないなら、頑張る気になりません。頑張らずやる気がなくネガティブな影響を与える人がそのまま居続けると、成果を出す人ほど馬鹿らしくなり、ぬるま湯化するか辞めていきます。一律平等的な不公平が、やる気をそぎ生産性を落とします。
ブルシットジョブの増殖
ブルシットジョブとは利益を生まない無駄な仕事です。綺麗に作り込む社内向け資料や、聞いているだけの全員出席の定例会議などが典型です。社内が内向きだと儲かりません。60点でよい社内資料に100点を求めると時間がかかり、手戻りも増えます。内向きの仕事と外向きの仕事に使う時間を色分けして分析し、外向きに時間を使う体質にすることが給料を上げる会社の条件です。
忖度とコントロール欲求
部下は忖度し、上司はコントロールしたがる。この欲求により、部下は上司の顔色をうかがい、本音を言わなくなります。会議で「これはうまくいかない」と分かっていても上司が言うから従う。これは大きな無駄です。上司の能力が上限になり、部下の力が生かされません。忖度は日本企業の生産性が低い大きな問題であり、一人だけがやめると損をするため、全員での変革が必要です。
忖度をなくすと、上司にとって耳の痛い話が聞こえてきますが、それが組織を強くします。森田は上司の教育から始め、一斉に下の人にも本音を言ってもらい、その際に上司が逆ギレせず聞く耳を持つことを体験してもらうワークショップを行います。「言ってもいい、これから変わる」と部下が信じられると、忖度は一気になくなっていきます。みんなが無駄だと分かっているのにやめられないのは、自分だけがやめると損をするゲームになっているためで、全員で一斉に変えることが組織開発の役割です。
時間主義という呪い
成果主義を掲げていても、残業する人が頑張っていると評価される呪いが残っています。同じ成果でも長く働く人の評価が上がりやすいのです。ホワイトカラーの仕事はAIで時間を短縮できますが、早く終えると暇そうだと仕事が増えるため、忙しいフリをするインセンティブが働きます。海外は成果で評価し、成果を上げて早く帰る人がかっこいいという文化です。この文化と制度への転換が必要です。
シンガポールでは、残業している人は生産性が低くダサい、家族を大事にしない人だという見方が根づいています。日本では「忙しい中で頑張っている」と美徳として語られがちですが、早く帰る人がかっこいいという文化に変える必要があります。工場や24時間体制の病院勤務など時間に対する対価が必要な仕事もありますが、時間に縛られず成果を出せる仕事は、成果主義に移行すべきです。業務委託契約の活用も、時間でなく成果で評価する一つの方法です。
低価格戦略のやりすぎ
日本企業は安売りを正義とし、値上げを申し訳ないと考えてきました。しかし世界的には価値を上げて価格を上げるのが当たり前です。グローバル企業の決算書を見ると、海外事業の利益率は日本国内より高いのが一般的です。中小企業やベンチャーが低価格戦略をとるべきではなく、付加価値戦略で高い金額でやっていくことが、社員に給料を払える好循環を生みます。
実際、身近なサービスも段階的に値上げしています。東京ディズニーランドは以前5,000円台で入れましたが、今は9,000円ほどで約1.5倍になっています。牛丼チェーンも以前は200円台だったものが今は500円近くになり、QBハウスも1,000円から1,200円、さらに値上げされています。値上げは今や普通のことで、物価高や円安など理由もそろっています。値上げを恐れず、値上げして給料を上げる意識を経営者は持つべきです。
AIリテラシーの格差の放置
AI活用の格差が大きく、特に上の世代ほどAIのすごさに気づいていません。1人で3人分、10人分の仕事ができる時代になっています。しかし日本ではAIで効率化すると自分の仕事がなくなると感じ、導入が進みません。時間に縛られる評価制度がその一因です。成果で給料が上がる仕組みにし、AIを使いこなして新しいビジネスを生み出す人を増やす必要があります。
プログラミングも、かつては一行ずつ書く人手が大量に必要でしたが、今はAIが一瞬で書く時代になり、アメリカではリストラが起きています。指示を出す上流の仕事ができる人は残りますが、そうでないと仕事がなくなります。AIの進化はチャンスでもあり、新しいアイデアやビジネスを生み出せます。AIリテラシーの格差を放置せず、AI教育を進めて生産性を高め、新しいチャレンジに取り組むことが、経営者にも社員にも求められます。
給料を上げる処方箋
給料を上げる打ち手を、経営者向けに3つ、社員向けに4つ紹介します。
経営者は権限を手放す
経営者が全てをコントロールし続けると、社員のパワーが引き出されません。AIに情報感度の高い若手を「AI大臣」に任命するなど、権限委譲を進めます。これは成人発達理論でいう自己主導段階から自己変容・相互発達段階への移行にあたります。自分の見方は偏っていて盲点があるという立ち位置に立ち、他者の意見を受け入れて器を広げることが求められます。
権限が自分に集中すると、社員は指示待ちになり、一人ひとりの強みが生かされません。組織のこの部分はこの人に任せる、という形で権限委譲を進め、一人ひとりが強みを生かして活躍できる組織形態にしていきます。自分が全部決めて思う通りにするという考え方から、いろいろな人の意見を受け入れつつ自分を拡大していく。この器の広げ方が、社員の力を引き出す経営者の条件になります。
非対称な評価を許す
一律平等的な報酬と評価を捨て、成果を出した人には報い、そうでない人には叱るべきアクションを取ります。成果に基づいて報酬を払い、時間に縛られないようにします。頑張った人の投資効果が見えない状態を変え、勇気を持って差をつけることが必要です。差をつけると辞める、モチベーションが下がるという懸念で一律にしてきた結果、逆にやる気のある人のモチベーションを奪い離職を増やしてきました。
生産性を上げろと言われながら、残業代を払ってもらった方が個人としては儲かるという矛盾した構造が、社員の生産性を奪っています。頑張って高い成果を上げたのに給料がほとんど上がらないなら、投資効果が見えず頑張るインセンティブが働きません。この一律的な評価から脱却し、成果に応じた報酬に切り替えることが、やる気のある人を報いる仕組みになります。
AI活用を評価軸にする
AIでできることが圧倒的に増えており、中小企業ほど導入で大きく変わります。1人で起業しAIと業務委託で回す利益率の高い会社も増えています。作業はAIに任せ、指示や「立ち上げよう」という意思は人間が持つ。AIを使いこなせる人を評価し育て、1人当たりの付加価値と生産性を高める組織づくりを進めます。
社員はブルシットジョブをやめる
無駄だと諦めている仕事を、社内で「変えられないか」と話し合います。この仕事の目的は何か、他に良いやり方はないかと、目的と手段を問い直します。無駄な仕事をやめ、お客様に向く付加価値の高い仕事に時間を使うことが、給料を上げる第一歩です。
社員は忖度を減らす
忖度は個人だけでやめるのが難しいため、部署の人や上司と話します。「忖度の文化があるが会社としてプラスか、変えたい」と、話が分かりそうな人から相談します。人を見極める必要はありますが、忖度をできる限り減らすことを意識します。これをしないと、5年10年20年先に生き残るのが難しくなります。
社員は成果主義に変える
時間主義から真の成果主義へ、自分の仕事の仕方を変えます。だらだらしていないか、成果のために何に集中すべきか、大事な仕事は何かを見極めます。「この時間でどんな成果を上げたか」を常に問い、振り返る習慣をつけると、付加価値を上げる思考法が身につきます。
森田自身、コンサルティング会社に入った際に「この時間でどんな成果を上げたか」を常に問われる訓練を受けました。今日はどんな時間配分で何をやり、どんな成果を出すのかを先に書いてから仕事をし、実際との差を振り返る。この習慣によって、時間をかけただけでなくどんなパフォーマンスを上げたかを問う癖がつきました。こうしたトレーニングは、付加価値を上げることに集中する思考法を育てます。
社員はAIを使い倒す
AIは役に立つ相棒であり、忠実な部下です。すねたり病気になったりせず、指示に忠実に動きます。このAI部下を使いこなすと生産性が爆上がりし、給料も上がっていきます。それでも上がらないなら経営者に伝え、それでも変わらないなら次の会社へ。人材の流動性が給料を上げます。
明日から着手する順番
- 内向きの仕事と外向きの仕事に使う時間を色分けして分析する。ブルシットジョブがどれだけあるかを可視化します。
- 目的と手段を問い直して無駄な仕事をやめる。「この仕事の目的は何か、他に良いやり方はないか」を社内で話し合います。
- 「この時間でどんな成果を上げたか」を毎日振り返る習慣をつける。時間主義から成果主義へ思考を切り替えます。
- AIを相棒・部下として使い倒し、生産性を高める。作業をAIに任せ、指示や意思決定に集中します。
- 経営者は管理職の数の適正化、非対称な評価、権限委譲に着手する。値上げで原資を生み、成果に差をつけます。
よくある質問
給料が上がらない原因はいくつありますか
7つあります。管理職過多、評価の曖昧さ、無駄な仕事、忖度、時間主義、低価格戦略、AI格差の放置が原因です。
なぜ日本の給料は上がらないのですか
構造の問題が原因です。人材が流動化せず相場が見えにくく、生産性が低く儲ける力が弱いことが大きな要因です。
海外はなぜ給料が上がるのですか
人材が流動化するからです。社員が高い給料の会社へ転職し、人材獲得競争が加熱して給料が上がっていきます。
組織のメタボ構造とは何ですか
贅肉がついた組織です。管理職過多や無駄な仕事で肥大化した状態で、スリムな筋肉質に変える必要があります。
管理職が多すぎると何が問題ですか
給料が低くなります。役職を作りすぎ責任や権限が少ないため、部下のいない部長などが生まれ原資が分散します。
海外の組織づくりは何が違いますか
ジョブ型で組織図が先です。先に組織図を作り人をはめるため、部長は何十人もの部下を持つのが主流です。
評価が曖昧だとどうなりますか
やる気をそぎます。頑張っても1%しか変わらないと成果を出す人が馬鹿らしくなり、ぬるま湯化か離職を招きます。
ブルシットジョブとは何ですか
利益を生まない無駄な仕事です。綺麗に作る社内資料や聞くだけの全員定例会議など、内向きの仕事が典型です。
社内資料は何点を目指すべきですか
60点で十分な場合が多いです。100点を求めると時間と手戻りが増えるため、内容が分かればよいと割り切ります。
忖度はなぜ問題ですか
上司の能力が上限になるからです。部下が本音を言わず、日本企業の生産性が低い大きな要因になっています。
忖度はどう解消しますか
全員での変革が必要です。一人だけやめると損をするため、上司の教育から始め全員で一斉に変えていきます。
時間主義とは何ですか
長時間働く人を評価する呪いです。同じ成果でも残業する人の評価が上がりやすく、生産性向上が損になります。
海外の残業に対する考え方は
成果主義です。ヨーロッパは金曜午後に人が減り、成果を上げて早く帰る人がかっこいいという文化があります。
ホワイトカラーエグゼンプションとは何ですか
残業規制からの除外制度です。一部の職種を残業時間規制から外し、基本的に成果で評価する仕組みです。
低価格戦略はなぜ問題ですか
原資が生まれないからです。安売りでは給料を払えず、中小企業やベンチャーは付加価値戦略をとるべきです。
海外の利益率は日本と違いますか
海外の方が高いのが一般的です。グローバル企業の決算書では、同じサービスでも海外事業の利益率が高くなります。
値上げに社員が反対するのはなぜですか
お客様に言いにくいからです。しかし値上げしないと給料も上がらないため、社員は値上げに賛成すべきです。
AIリテラシーの格差はなぜ放置されますか
導入インセンティブがないからです。効率化で自分の仕事がなくなると感じ、時間主義の評価が導入を妨げます。
経営者が給料を上げる打ち手は何ですか
3つあります。権限を手放す、非対称な評価を許す、AI活用を評価軸にすることが経営者向けの打ち手です。
社員が給料を上げる打ち手は何ですか
4つあります。無駄な仕事をやめる、忖度を減らす、成果主義に変える、AIを使い倒すことが社員向けの打ち手です。
まとめ
- 給料が上がらないのは個人の努力不足だけでなく、人材の非流動性と生産性の低さという構造の問題です。
- 組織はメタボ構造になっており、管理職過多・無駄な仕事・忖度・時間主義が贅肉として原資を奪っています。
- 給料が上がらない原因は、管理職過多・評価の曖昧さ・ブルシットジョブ・忖度・時間主義・低価格戦略・AI格差の7つです。
- 経営者は権限を手放し、非対称な評価を許し、AI活用を評価軸にする3つの打ち手に取り組みます。
- 社員は無駄な仕事をやめ、忖度を減らし、成果主義に変え、AIを使い倒す4つの打ち手で付加価値と生産性を高めます。
- それでも給料が上がらない会社は人材の流動性が上げる力となり、人が抜けることで経営者が給料を上げる必要に気づきます。
まずは内向きの仕事と外向きの仕事に使う時間を色分けして分析し、無駄な仕事がどれだけあるかを可視化することから始めてください。
動画特典
この動画では2つの特典がプレゼントされます。受け取りに必要なキーワードは動画内で案内していますので、ぜひ動画をチェックしてみてください。