人事評価制度は多くの会社で形の上では存在します。しかし「これは本当にちゃんと評価されているのか」と疑問に感じている方は少なくありません。頑張っても頑張らなくても給料も評価も変わらないなら、頑張っている人が馬鹿らしくなって辞めていきます。
結論から言えば、人事制度がうまく機能しないのは人事担当者個人の能力の問題ではなく、制度の設計と運用という構造の問題です。特に人事制度は運用が9割で、いい制度を作っても運用でグダグダになれば逆効果になります。この記事では、人事制度の目的と3つの要素、そして運用でこけやすいポイントを解説します。
現象のメカニズム
人事制度が機能しない根本には、日本の年功序列の歴史があります。長年やっていれば給料が上がる仕組みのもとでは、評価をしっかりしなくてもよいというムードがありました。しかし優秀な人に活躍して残ってほしいなら、人事評価制度は一番の肝になります。
頑張っても評価も給料も変わらなければ、組織はぬるま湯化します。やる気のある人が転職し、しみつく人だけが残る。これが日本企業の大きな問題点です。海外の現地法人でも、日系企業だけこの傾向が強く見られます。
さらに、制度が曖昧だと納得感が生まれません。「やる気がある」「コミュニケーション能力が高い」といった基準は、人によって解釈が変わります。人事評価制度は会社の物差しを合わせる作業であり、会社が思う優秀な人を定義するものであるべきです。
人事制度の3つの目的
人事制度には3つの目的があります。まず一覧を示し、そのあとで解説します。
| No. | 目的 | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | 給与決定・納得のツール | 公平に評価し納得感を生むコミュニケーションツール |
| 2 | 会社からのメッセージ | 何を期待し何を評価するかを社員に伝える |
| 3 | 人材育成 | 昇格や昇給の将来イメージで成長のゴールを見せる |
1つ目は給与を決めるツールですが、ブラックボックスだと納得感がありません。本来は公平に評価する納得感あるコミュニケーションツールです。2つ目は会社からのメッセージで、こういうことをやれば評価する、やらなければダメというメッセージを制度の形で伝えます。3つ目は人材育成で、こうなれば昇格・昇給できるという将来のイメージが湧き、成長のゴールが見えます。会社とのベクトルが合い、育成・成長につながり、報酬の納得感にもつながる3拍子が揃った会社が、人事制度をうまく使っています。
背景にある前提|人事制度は運用が9割
人事制度がうまくいかない最大の理由は運用です。ジョブ型や実力主義をなり物入りで導入した大企業でも、後で取材すると運用がグダグダでうまくいっていないケースが多いのです。いい制度を作っても運用で殺され、逆効果になることもあります。
問題は人事担当者だけではありません。現場の管理職が、年功序列時代の「評価は鉛筆なめなめで適当でよかった」という成功体験を持っていると、いい制度を作っても運用でグダグダになります。制度導入時に、1次評価者・2次評価者の意識転換をセットでやらないとうまくいきません。
人事制度は他社のコピペではうまくいきません。業界や組織のフェーズ、規模によって適切な制度は変わります。成長期と成熟期、社長が全社員を見れるベンチャーと数千人規模の会社では、あるべき制度が違うのです。
人事制度を構成する3つの要素
人事制度は3つの要素で構成され、これらが連動しているかが重要です。まず一覧を示し、そのあとでH3で1つずつ解説します。
| 要素 | 内容 | 役割 |
|---|---|---|
| 等級制度 | 職能等級・役割等級・職務等級 | 各グレードに何を期待するかを定義する |
| 評価制度 | 成果評価・プロセス評価・価値観行動評価など | 会社の物差しでどう評価するかを決める |
| 報酬制度 | 月給・賞与・インセンティブ・非金銭報酬 | 評価とリンクした納得感ある報酬を決める |
等級制度
等級(グレーディング)は、各グレードに何を期待するかを定義するものです。決め方には3つあります。職能等級は能力で決め、長年やれば能力が上がる前提の日本の伝統的な制度で、年功序列につながります。職務等級はジョブ型で、仕事に給料が紐づき、同じ仕事なら誰がやっても同じ給料という同一労働同一賃金の考え方です。
職務等級は運用のメンテナンスが大変で、日本のカルチャーと合いにくい面があります。今注目されているのが役割等級で、職能等級と職務等級の間のいいとこ取りです。課長・部長といった役割で緩やかに定義するため、ジョブほど細かく定義せず、職能ほど自動昇給せず、日本企業に移行しやすいのが特徴です。役割等級は、能力を持っているかでなく役割を果たす行動をしたかを見る点も重要です。
評価制度
評価制度は会社の物差しで、何で評価するかを決めます。成果評価は事前に目標設定して達成度で見るMBO(目標管理)が日本では主流です。プロセス評価は、能力を持っているかでなく、成果を生む行動をしたかを見る行動評価へシフトしています。持っていても発揮しなければ意味がないからです。
評価の範囲も重要で、個人・チーム・部署・会社全体のどこで評価するかを決めます。個人評価だけに偏るとチーム連携が起きにくくなり組織が崩壊しがちなため、部署や全体視点の評価を入れることが推奨されます。成果も、最終成果だけでなく、足の長いビジネスのプロセス成果、研究開発、仕組みづくり、人材育成、カルチャー変革なども成果として見ることが大切です。
報酬制度
報酬制度は、月給・賞与・インセンティブなどをどう払うかを決めます。上の役職ほど賞与の振れ幅を大きくし、経営者はハイリスク・ハイリターン、一般社員はミドルリスク・ミドルリターンにするといった設計があります。残業込みの見込み残業型も、在宅勤務の増加で使われるようになっています。
お金以外の非金銭報酬も重要です。誕生日休暇などの記念日休暇、家族を呼ぶイベント、そして新入社員の親に上司が手紙を書いて活躍を伝えるといった、お金では買えない報酬がエンゲージメントを高めます。また、昇給を一律のパーセンテージで決めると給料の高い人ほど差が開くため、同じグレード内の成長度に合わせて昇給率を変えるやり方も有効です。
解決策・打ち手|運用でこけやすい3つのポイント
人事制度は運用が9割です。運用でこけやすい3つのポイントと対処を、H3で1つずつ解説します。
目標設定の質を上げる
成果評価の目標設定でこける原因は3つです。曖昧(評価できないふわっとした目標)、ずれている(会社が求めることと違う目標)、甘い(達成率で評価されるため甘くつけがち)です。目標設定はスキルなので、目標設定研修や、立てた後の目標添削(赤ペン先生)で改善できます。生成AIに社外秘の数字を抜いて添削してもらい、5つ案を出してもらうといった壁打ちも有効です。
評価の甘辛を分析する
評価は人によって甘くなったり辛くなったりします。これは物差しが合っていない状態です。誰が甘いか辛いか、どの部署がどうなっているかの甘辛分析を必ず行います。評価をつけた管理職と面談し、その評価が妥当か、成果や行動のファクト(事実情報)で見ることが大切です。「頑張っているから」でなく、具体的な行動や成果の事実で評価します。
評価のフィードバックを行う
評価しっぱなしでフィードバックしない会社はまだ多くあります。ちゃんとフィードバックして本人に納得してもらい、部下の素晴らしいところや成長したところを言い、成果を伝えます。一方で、これから良くなる成長ポイントやチャレンジのポイントも伝え、次に目指すところをコミュニケーションします。曖昧なフィードバックでなく、しっかり向き合うことが大切です。
明日から着手する順番
人事制度を機能させる取り組みを、着手しやすい順に並べます。上から順に取り組んでみてください。
- 自社の等級制度を確認し、職能・役割・職務のどれで、各グレードの定義が曖昧でないかをチェックする。
- 評価項目が、その等級に求めることや会社のメッセージを表現できているか見直す。
- 目標設定が曖昧・ずれ・甘いになっていないか点検し、必要なら生成AIで添削・壁打ちする。
- 誰が甘いか辛いかの甘辛分析を行い、評価者と事実情報をもとに面談する。
- 評価しっぱなしにせず、良い点と成長点を伝えるフィードバック面談を実施する。
- 等級・評価・報酬の3要素が連動しているか、事業戦略と紐づいているかを経営陣と確認する。
よくある質問
人事制度の目的は何ですか?
3つあります。給与決定と納得のツール、会社からのメッセージ、人材育成の3つが人事制度の目的です。
なぜ人事制度がうまく機能しないのですか?
運用が原因です。人事制度は運用が9割で、いい制度を作っても運用でグダグダになると逆効果になります。
人事制度は他社のコピペでよいですか?
うまくいきません。業界や組織のフェーズ・規模で適切な制度は変わり、自社の事業やビジョンと合わせる必要があります。
人事制度を構成する要素はいくつですか?
3つあります。等級制度、評価制度、報酬制度の3つが連動しているかが重要です。
等級制度の種類は何がありますか?
3種類あります。能力で決める職能等級、役割で決める役割等級、仕事で決める職務等級(ジョブ型)の3つです。
職能等級とは何ですか?
能力で等級を決める制度です。長年やれば能力が上がる前提で、日本の伝統的な制度であり年功序列につながります。
職務等級(ジョブ型)の特徴は何ですか?
仕事に給料が紐づく制度です。同じ仕事なら誰がやっても同じ給料で、同一労働同一賃金の考え方に基づきます。
ジョブ型の難点は何ですか?
運用のメンテナンスです。ジョブが変われば書き直しが必要で、日本の何でもやる文化と合いにくい面があります。
役割等級が注目される理由は何ですか?
日本企業に移行しやすいからです。職能と職務の間で、細かく定義せず自動昇給もせず、いいとこ取りができます。
評価制度で何を評価しますか?
成果とプロセスが基本です。成果評価はMBOで達成度を見て、プロセス評価は持っているかでなく行動したかを見ます。
行動評価が重視されるのはなぜですか?
持っていても発揮しなければ意味がないからです。能力保有でなく、発揮して結果につなげた行動で評価します。
評価の範囲はどう決めますか?
個人・チーム・部署・全体から選びます。個人だけに偏ると連携が起きにくいため、全体視点の評価を入れます。
成果は最終成果だけで見ますか?
それだけではありません。足の長いビジネスのプロセス成果、研究開発、仕組みづくり、人材育成なども成果として見ます。
報酬制度には何が含まれますか?
月給・賞与・インセンティブなどです。上の役職ほど賞与の振れ幅を大きくする設計が一般的です。
非金銭報酬とは何ですか?
お金以外の報酬です。記念日休暇や家族イベント、新入社員の親への手紙など、お金で買えない報酬が該当します。
昇給率を一律にすると何が問題ですか?
差が開くことです。同じ率でも給料の高い人ほど金額が大きくなり、上の人ほど増え下の人が増えにくくなります。
目標設定でこける原因は何ですか?
3つあります。曖昧、ずれている、甘いの3つで、いずれも適切な目標設定スキルで防ぐことができます。
評価の甘辛はどう防ぎますか?
甘辛分析です。誰が甘いか辛いかを分析し、評価者と面談して成果や行動のファクトで妥当性を確認します。
評価フィードバックはなぜ必要ですか?
納得感のためです。評価しっぱなしにせず、良い点と成長点を伝えて次に目指すところをコミュニケーションします。
目標設定にAIは使えますか?
使えます。社外秘の数字を抜いて生成AIに添削や5案出しを依頼すると、目標をブラッシュアップする壁打ちができます。
まとめ
- 人事制度の目的は、給与決定と納得のツール、会社からのメッセージ、人材育成の3つです。
- 人事制度は運用が9割で、いい制度を作っても運用でグダグダになると逆効果になります。
- 人事制度は等級・評価・報酬の3要素で構成され、これらが連動しているかが重要です。
- 等級は職能・役割・職務の3種類があり、今は日本企業に移行しやすい役割等級が注目されています。
- 運用でこけやすいのは目標設定・評価の甘辛・フィードバックの3つで、ここをケアすることが成果につながります。
まずは自社の等級制度の定義が曖昧になっていないかを確認することから始めてみてください。
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