海外で働くことに興味はあるけれど、英語に自信がない。自分の実力が海外で通用するのか分からない。日本では評価されてきたのに、外に出た途端に何もできなくなるのではないか。グローバルキャリアを考えるとき、多くの日本人がこの不安の前で足を止めます。
ただ、海外で評価されるかどうかを決めるのは、英語力だけではありません。人としての信頼感を先に伝えられているかという、順番も重要です。今回は、マイクロソフト シンガポールでアジア圏の本部長を務め、シンガポール在住22年になる岡田兵吾さんをゲストに迎え、森田英一が対談形式でグローバルキャリアの築き方を聞いていきます。
なぜ日本で通用した人が海外で急に通用しなくなるのか
海外志向の出発点は学生時代にあります。インターネットのない世代で、海外の映画や洋楽に憧れ、バックパッカーとして中国やアメリカを回りました。英語はできなくても外国人とつながる中で、人生が一気に開けていく感覚を得ています。
当時は長髪で、周囲からは変わっていると見られ、教授からも注意を受けていました。ところが海外へ行くと、興味が強くやる気のある人間として歓迎されます。就職活動では「個性あふれる人が欲しい」と書かれた案内を信じて臨み、書かれていることと実態の違いを知りました。日本で居場所がなくなりつつ、海外で挑戦しようと考えるようになります。
ゲストは同志社大学工学部を卒業後、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社しています。最初の部下が日本人3名とイタリア人、アルゼンチン人という構成で、いきなりグローバルチームからのスタートでした。
入社2年目と4年目にはアメリカで半年ずつ働き、日本では15人の外国人メンバーをマネジメントしています。日本では叱られることも多かった一方、海外では評価されました。自分は海外の方が合うのではないか、と考えて30代前半でシンガポールへ渡ります。
ところが、現地に着いた途端に英語が聞き取れなくなりました。アメリカではある程度いけたはずなのに、シンガポール独特の発音や、オーストラリア系の英語が混ざる環境で、耳が追いつかなくなったのです。
理由を振り返ると、構造が見えてきます。アメリカでの仕事も、日本で15人をマネジメントした仕事も、すべて日本に絡む案件でした。日本人である本人が正確に理解しないとプロジェクトが進まないため、周囲は自然とゆっくり丁寧に話してくれていました。つまり、お客様扱いされていた状態です。
シンガポールのオフィスには60カ国以上のメンバーがいます。上司はアイルランド人、同僚にはドイツ人、アメリカ人、オーストラリア人。ここでは英語ができて当たり前という前提で会話が進みます。誰も速度を落としてくれません。
聞き取れなければ発言できません。会議で地蔵のように黙っているうちに、上司から「会議で発言しないのなら、次回は出なくていい」と言われます。実質的な戦力外通告です。
対談では、海外企業には3か月、会社によっては6か月ほどの試用期間があり、シンガポールではアメリカやイギリスと同様に、ポジションに合わなければ職を失うこともあると語られています。この緊張感の中で、聞き取れないという一点が致命傷になりかけました。
信頼関係の作り方が、日本と海外では逆になる
日本のビジネスでは、名刺交換から始めて役職や立場を説明し、怪しい者ではないと示し、そこから一段ずつ積み上げていきます。時間をかけて仲良くなるほど関係が強くなる、という前提です。
一方、対談で語られている海外のビジネス環境では、バックグラウンドが異なる人が集まっているうえ、時間の使い方をより効率的に考えます。そのため、最初から仲間のように信頼関係を固め、合わなくなったら別れる、という順番になります。
| 観点 | 日本のやり方 | 海外のやり方 |
|---|---|---|
| 出会い方 | 名刺交換と肩書きの説明から | 自分から握手し、すぐ距離を詰める |
| 信頼の築き方 | 時間をかけて積み上げる | 最初に固めてから確かめる |
| 関係の順序 | 仲良くなってから仕事 | まず価値を見せてから仲間になる |
| 合わないとき | 関係を維持しようとする | そこで別れる |
| 立場 | 肩書きが物を言う | フラットな横社会 |
この違いを知らずに日本のやり方を持ち込むと、関係が始まる前に機会が終わってしまうことがあります。相手が次の相手へ移っていくためです。
最初が肝心です。最初に気に入られ、仕事の面でも役に立ち、面白く、何かをしてくれそうな人物だと思ってもらえれば、そこから信頼されるようになります。外国人が集まるコミュニティにも呼ばれるようになります。
海外で前提になっている3つの感覚
1つ目が、判断の速さです。会話や議論の場で「この人はできるな」と相手が判断するのは、おおよそ最初の20秒です。日本人同士でも同じような感覚があるはずですが、海外ではその判断がその後の扱いに直結します。
2つ目が、自信の見え方です。対談では、英語ができない人に対して、周囲が不安や不信を感じるという研究結果が紹介されています。一方で、自信がある雰囲気を出している相手に対しては、ネイティブも耳を傾けて聞いてくれるといいます。
3つ目が、シャイであることの受け取られ方です。対談では、海外ではシャイな態度が、大人として十分に自分を表現できていないという印象につながることがあると語られています。小学校からショー・アンド・テルの形で、自分の好きなものを見せて説明する教育を受け、学年が上がるとストーリーテリングやビジュアルでの見せ方まで学びます。
その結果、多くの人が自然に自分を説明できるようになります。日本で「英語がまったくできないので」と黙っていると、この前提とのギャップが大きく開きます。できないなりに使える英語で、体も使って伝える姿勢が求められます。
とはいえ、全員が話し上手なわけではありません。対談では、アメリカ人の8割ほどはプレゼンテーションを嫌がるという話も紹介されています。それでも、大人として仕事の現場では話さなければならないという前提があるので、努力して話しています。
アジアで活躍する日本人がやっていること7選
| No | やっていること | 効果 |
|---|---|---|
| 1 | 英語力より先に信頼感を渡す | 英語以外の土俵で戦える |
| 2 | 「英語ができない」と前置きしない | 最初の印象を下げない |
| 3 | 最初の20秒で前向きな姿勢を見せる | 相手が聞く姿勢になる |
| 4 | 自分からキャラを作って距離を詰める | 短時間で仲間として扱われる |
| 5 | 分からないことを必ず質問する | 興味と理解度が伝わる |
| 6 | 役職に関係なく専門家として意見を出す | 会議での存在価値が生まれる |
| 7 | 基礎英語と2分間のプレゼンを準備する | 最初の接続点を確実に作る |
1. 英語力より先に信頼感を渡す
英語ができるかできないかよりも、まず人としての信頼感を与えることが先です。ノンネイティブであっても、英語以外の部分で価値を示せば評価されます。
実際、本部長を務めるいまでも英語は得意分野ではないと話しています。それでも、自分には価値がある人間だと見せ続けることで、英語以外のビジネス能力で戦ってきました。ビジネスで大切なのは、英語そのものだけではなく、英語以外の部分でも価値を示すことです。
2. 「英語ができない」と前置きしない
日本人がよくやるのが、話し始める前に「私は英語が話せないのですが」と断ることです。これは避けてください。
最初の20秒で判断されるため、この一言を聞いた瞬間に「この人は英語がうまくない」と結論づけられます。わざわざ自分から評価を下げる必要はありません。
3. 最初の20秒で前向きな姿勢を見せる
機会をもらったときに「この機会をありがとうございます」と言うより、「この機会を待っていました」と伝える方が響きます。前者は儀礼ですが、後者は熱量です。
背筋を伸ばし、自信がある雰囲気で話す。これだけで相手の聞く姿勢が変わります。話している内容より先に、態度が伝わるからです。
4. 自分からキャラを作って距離を詰める
場に行ったらすぐ自分から手を伸ばし、握手をして関係を作りにいきます。日本では「出しゃばりだと思われるのでは」と考えがちですが、海外ではルールが違うと割り切り、キャラを演じるくらいでちょうどよい距離感です。
大事なのは自分がどう思われたいかではなく、相手が求める形に自分を合わせていくことです。英語を話すときの自分のキャラを用意しておき、それに合わせて振る舞えば構いません。
5. 分からないことを必ず質問する
英語ができなかった頃、上司の話を真剣に頷きながら聞いていたところ、「あなたは私の話に興味もやる気もないんだね」と言われた経験があります。本人はやる気を見せていたつもりでした。
理由を聞くと、一切質問してこないからだと返ってきました。海外では、興味があれば聞く、分からなければ聞くのが当たり前です。聞き取れなくても「ここまでは分かりました」「私はこうしたいのですが、この理解で正しいですか」と返せば、意欲も理解度も伝わります。
6. 役職に関係なく専門家として意見を出す
日本では、事業部長や本部長になって初めて意見を言うという感覚が生まれることがあります。一方、対談で語られている海外の現場では、役職に関係なく、自分の領域の専門家としての意見を求められます。
英語の上手下手は関係ありません。自分の専門ではこう、自分の見解ではこう思う。それを出せば、相手は興味を持って質問してきます。何も出さないから質問も来ないのです。会話はキャッチボールなので、まず自分の手札を見せてください。
7. 基礎英語と2分間のプレゼンを準備する
最低限の英語は勉強する必要があります。とはいえ、中学レベルの基本構文と単語で構いません。文法が常に正しい必要もありません。
そのうえで、自分について2分間ほど話せるプレゼンテーションを丸暗記します。この準備なら1か月もかかりません。最初の接続点さえ作れれば、その後は実践の中で慣れていけます。
今日から取り組める打ち手
6割の理解で実践に出る
英語をマスターしてから出よう、と考える必要はありません。6割分かれば十分です。ベースとなる基本構文を押さえたら、あとは実践の中で伸ばしていきます。
話したい会話を想定し、必要な単語だけ覚える
どんな会話をするのかを先にイメージし、そこで必要な単語を覚えます。自分が話したい内容の単語をまったく知らなければ、いくら勉強しても使えません。まったくの初心者であれば、話したい会話の原稿を作り、それだけを暗記する方法が有効です。
生成AIを学習パートナーにする
生成AIを使えば、日本語をやさしい英語やビジネス英語に変換できます。会話すればスクリプトも残り、より自然な英語に書き換えてほしいと頼めば直してくれます。英語学習の環境は以前とは比べものにならないほど整っています。
原稿を見ながら話すことを許容する
プレゼンテーションで原稿を見るのは不自然だと考えがちですが、手元を確認しながら相手を見て話す形で問題ありません。まずは話す練習を重ねることが優先です。
言葉が出なければホワイトボードを使う
英語が話せないなら、ホワイトボードに書けば伝わります。体全体を使って伝える方法もあります。仕事の現場に関わる以上はプロなので、手段を選ばず意思を示すことが求められます。
第二言語話者のコミュニティを活用する
マイクロソフトでは、英語を第二言語とするメンバーが集まるESL(English as a Second Language)コミュニティの運営を担っていました。日本人、韓国人、中国人だけでなく、ネイティブとのコミュニケーションに悩むアメリカ人が参加することもあります。
会社に支援を求め、資金を得て勉強のサークルを作る形も取れます。完璧な英語を話すのは難しくても、同じ立場の仲間と情報を交換すれば前に進めます。
仕事以外の話で人間性を見せる
日本に好意を持つ外国人は多く、話題は仕事に限りません。自分の生い立ち、夢、これから何をしていきたいのか。前向きな話をされて嫌な気持ちになる人はいません。
対談では、海外では仕事も運動も本来は楽しむものだという感覚があり、仕事と遊びは同じだと考える人もいると語られています。英語の上手下手だけで人を判断するわけではないため、自分の魅力を出していくことが大切です。
自分でキャリアの舵を取る
日本企業ではジョブローテーションを会社が決めることが多い一方、対談で語られている海外企業では、自分でキャリアを決めることが求められるケースが多く、その分だけ経験が積み上がります。
海外で働くスキルがつけば、他の国でも働けるようになり、選択肢が広がります。デロイトコンサルティングへの転身と同じタイミングで、上海のPwCコンサルティングからオファーを受けた経験もその一例です。
日本企業のグローバル化支援の現場でも、ここ数年で各社が本気で力を入れ始めた実感があります。日本企業で働き続けるとしても、グローバルで活躍できるスキルがあれば選べる道は広がります。
人生は一度きりだと考えて動く
人生は一度きりです。だからこそ、自分がやりたいこと、好きなこと、得意なことで道を開拓していく価値があります。苦しい経験も、後から糧になります。
成功の反対は、挑戦しないことです。やった後悔は失敗してもすぐ忘れますが、やらなかった後悔は月日が経つほど大きくなっていきます。
日本人の丁寧で真面目な仕事ぶりは、海外で高く評価されています。ただ日本にいると、その価値は分かりにくいままです。外に出て初めて、自分の強みがどこにあるのかが見えてきます。
なお、グローバルキャリアから学んだ10の道しるべをまとめた新刊が、1月16日に発売されます。人生の岐路で悩んだときの決断について、自身の経験をもとに書かれた一冊です。
明日から着手する順番
- 中学レベルの基本構文と単語を、ざっと復習する。
- 自分が話したい会話の場面をイメージし、そこで使う単語を書き出す。
- 自己紹介や自分の仕事について、2分間のプレゼン原稿を作る。
- 生成AIで原稿を自然な英語に整え、音読して丸暗記する。
- 「英語ができないのですが」という前置きを封印する。
- 「この機会を待っていました」と言えるよう、最初の20秒の言い回しを決めておく。
- 分からないときの聞き方を3パターン用意する。
- 会議で1回は自分の専門領域の意見を出すと決める。
- 第二言語話者が集まる場やコミュニティを探し、参加する。
- 自分のキャリアをどこへ向けたいかを言葉にし、選択肢を調べる。
よくある質問
英語ができないと海外では働けませんか?
働けます。対談では、評価を分けるのは英語力だけではなく、人としての信頼感だと語られています。英語以外のビジネス能力で戦うことも十分に可能です。
海外で最初に判断されるのはどこですか?
対談では、最初の20秒が重要だと語られています。会話や議論の場で、相手はこの短時間で「この人はできるな」という判断を下します。
「英語ができない」と前置きしてよいですか?
避けてください。最初の20秒で判断されるため、その一言で英語が苦手だと結論づけられ、印象を自分から下げてしまいます。
日本で通用したのに海外で通用しなくなるのはなぜですか?
対談で紹介された経験では、日本に絡む案件では周囲がゆっくり話してくれていましたが、60カ国以上が働く現場では誰も速度を落としてくれませんでした。
会議で発言できないとどうなりますか?
出席の意味を問われることがあります。実際に「発言しないなら次回は出なくていい」と言われた経験が紹介されています。
海外の試用期間はどのくらいですか?
対談では、3か月、会社によっては6か月ほどの試用期間があると語られています。ポジションに合わなければ職を失うケースもあります。
日本と海外で信頼関係の作り方はどう違いますか?
対談では順番が逆だと説明されています。日本は時間をかけて積み上げる一方、海外では最初から信頼を固め、そこから関係を築きます。
海外では自分のキャラを変えるべきですか?
変えて構いません。自分がどう思われたいかではなく、相手が求める形に合わせて英語を話すときのキャラを用意します。
日本人は海外で不利ですか?
必ずしも不利ではありません。対談では、仕事を丁寧にきっちり進める日本人の姿勢は海外でも評価されていると語られています。
分からないときはどうすればよいですか?
必ず質問します。「分かりません、教えてください」「ここまでは理解しましたが、この理解で正しいですか」と返せば意欲も伝わります。
頷いているだけではだめですか?
質問をしないと、興味ややる気がないと受け取られることがあります。真剣に頷くだけでは、意欲が十分に伝わらない場合があります。
シャイであることは海外でどう見られますか?
対談では、大人として十分に自分を表現できていないという印象につながることがあると語られています。自分の考えを言葉にする姿勢が重要です。
プレゼンが苦手でも大丈夫ですか?
大丈夫です。対談では、アメリカ人の8割ほどはプレゼンテーションを嫌がるという話も紹介されています。それでも仕事では努力して話しています。
役職が低くても発言すべきですか?
発言することが重要です。対談で語られている海外の現場では、若手でも自分の領域の専門家として意見を求められます。
英語はどのレベルまで勉強すればよいですか?
対談では、中学レベルの基本構文と必要な単語を押さえることが勧められています。文法が常に正しくなくても実践には出られます。
どのくらいの理解度で実践に出てよいですか?
6割分かれば十分だと語られています。マスターしてから出る必要はなく、実践の中で伸ばしていく方が早く慣れます。
最初に準備すべきものは何ですか?
2分間のプレゼンです。自分について話す内容を丸暗記します。対談では、この準備なら1か月もかからないと説明されています。
生成AIは英語学習に使えますか?
使えます。日本語をビジネス英語に変換し、会話のスクリプトを残し、より自然な英語に書き換えることもできます。
海外で働くとキャリアにどんな利点がありますか?
選択肢が広がります。海外で働くスキルがつけば他の国でも働けるようになり、自分の武器と引き出しが増えます。
何歳からでも挑戦できますか?
対談では、40代・50代でも活躍の場はあると語られています。貢献したい、人の役に立ちたいという気持ちがあれば挑戦できます。
まとめ
- 海外で評価を分けるのは英語力だけではなく、信頼感も重要です。対談では最初の20秒が大切だと語られています。
- 日本は積み上げ型、海外は最初に信頼を固める型で、関係構築の順番が異なります。
- 質問しないことは、興味ややる気がないというメッセージとして受け取られることがあります。
- 英語は中学レベルの基礎と2分間のプレゼンを準備し、6割の理解で実践に出ます。
- やった後悔はすぐ忘れますが、やらなかった後悔は月日とともに大きくなります。
まずは自己紹介を2分間の英語プレゼンにまとめ、声に出して覚えるところから始めてください。
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