部下に何度言っても行動が変わらない。パワハラと思われるのが怖くて、当たり障りのないことしか言えない——。フィードバックの場面で、こうした難しさを感じている管理職や経営者の方は少なくないはずです。
この記事では、beyond globalグループの森田英一が解説する「フィードバック術」を紹介します。結論から言えば、何度言っても変わらないのは部下の能力ではなく、伝え方という「構造」が原因です。大事なのは上司が何を言ったかではなく、相手の行動が変わったかどうか。相手が自分で気づき、行動が変わることに焦点を当てることが、効果的なフィードバックの本質です。優秀な人材にも刺さるフィードバックの考え方を知ることは、組織の生産性を左右するビジネススキルになります。
現象のメカニズム:なぜ何度言っても伝わらないのか
フィードバックは本人に気づいてもらい、行動や意識を変えてもらうためのものですが、実は最後の手段です。まずは質問をしながら相手に自分で気づいてもらうのが先で、人から言われるより自分で気づいた方がパワフルだからです。アドバイスやフィードバックを受けるより、自分で気づく方が行動変容につながりやすいのです。
昭和の時代は「すぐ指示、こうやれ、お前は間違っている」というトップダウンが強い現場で育った上司が多く、コーチング的アプローチが有効と言われてもすぐアドバイスをしてしまいます。相手に響く伝え方を知らないと、言って終わりになり、「何回言っても変わらない」状態が続きます。
上司として部下との関わりで大事なのは、良かった行動はもっとしてもらい、悪かった行動は改善してもらうこと、つまり相手の行動が良い方向に変わることです。そのためにフィードバックが有効なときもあれば、質問やコーチングが有効なとき、傾聴して部下の話を聞くことで本人が気づくときもあります。上司がいくら言ったかではなく、相手の行動が変わったかどうかに焦点を当てることが重要です。上司はコミュニケーションの手札をいくつも持っておく必要があります。
何度言っても変わらないとき、相手の問題だけでなく、同じことを言い続けている自分の伝え方にも原因があります。パワハラを恐れて遠慮する上司や、年上部下に言いにくい上司も増えており、言うべきことを言えないと組織の生産性が落ち、上司も尊敬されなくなってしまいます。
いまいちな行動は、フィードバックや何らかのコミュニケーションをしないと続いてしまい、周囲やお客様、プロジェクトにも悪影響を及ぼします。コミュニケーションのミスや誤解、遠慮によって生産性が落ちるのは、大きな人的損失です。特に日本は忖度文化があり、「これを言ったら嫌われるかな」と相手に合わせがちで、最近は上司が部下に忖度するケースも増えています。
背景にある前提:2種類のフィードバックと強化理論
フィードバックは、相手に必要な情報を返すものです。ダメ出しがメインという誤解がありますが、本来はポジティブフィードバックとチャンスフィードバック(伸びしろを伝えるフィードバック)の両方を指します。
ポジティブフィードバックは、褒める・承認する・認めることです。人は自分のことを客観的に見られないため、「ここが成長したね」と外から伝えられて初めて成長を実感できます。日本人は照れ臭さから察してくれ文化になりがちですが、今の若手には言葉で伝えることが大切です。
自分の背が伸びたかどうかは自分では分からず、他の人に「背が伸びたね」と言われて気づくのと同じで、自分の強みや課題も自分では客観的に見えません。だからこそ、外からのフィードバックで「ここが成長したね」「前より考え方がポジティブになったね」と伝えられると、成長を実感できます。努力を見てくれて評価されると、「もっとやろう」という気持ちにもなります。
この土台にあるのが強化理論です。ある行動をしたときに褒められ承認されると、その行動は強化されます。逆に、いまいちな行動に「まずいのでは」と伝えられると、その行動は抑制されます。上司は意識・無意識にかかわらず影響を与えているため、言うべきことは言う必要があります。
フィードバックする内容は、結果だけでなく変化に注目することが大切です。かつては「プロは結果を出してこそ、そこまで行かなければ褒めない」という考え方もありますが、それでは褒めるハードルが高すぎて、超初心者や若手は途中で心が折れてしまいます。相手の過去と今を比べて、頑張ったこと・チャレンジしたこと・成長したことを褒めるようにすると、成長が加速します。
効果的なフィードバックの技術5選
効果的なフィードバックの技術を5つにまとめました。黄金比率とフレームワークを軸に構成されています。いずれも、一方的に伝えるのではなくキャッチボールしながら進めるのが共通のポイントです。まず一覧で示し、その後に1つずつ解説します。
| No. | 技術 | ポイント |
|---|---|---|
| 1 | ゴットマンの黄金比率 | ポジティブ4:チャンス1で伝える |
| 2 | DESC法 | 事実→感情→具体化→選択の順で進める |
| 3 | FBI+M | 事実・行動・影響を伝え、最後に提案する |
| 4 | アイメッセージ | 「あなたは」でなく「私は」で伝える |
| 5 | 期待で締めくくる | 最後は励ましと期待で終える |
ゴットマンの黄金比率
ワシントン大学名誉教授のゴットマン博士が示した、ポジティブとチャンスフィードバックの黄金比率です。上司と部下はポジティブ4:チャンス1が効果的とされます。関係性によって最適な比率は変わり、親子は3対1、夫婦は5対1、友達は8対1です。関係が遠いほど、より多く褒める必要があるという興味深い結果になっています。
4回褒めたり承認したりして1つダメ出しする、というイメージです。ダメ出しばかりだと「この人は自分を嫌いなのかな」と心のシャッターを下ろしがちですが、認めてくれる関係の中でのチャンスフィードバックは「確かにそうだな」とすっと入ります。ポジティブフィードバックはコストがゼロで、強みを一言伝えるだけでも行動が強化されます。
「あなたはここが素晴らしい、こういうところが強みだ、成長したね」と認めたうえで、「なりたい方向に向けてはここが良くなるといいと思うけどどう思う」と伝えると受け取りやすくなります。ダメ出しだけだと「あなたは私のことを知らないくせに」と言い訳したくなりますが、ポジティブ4があった上でのチャンス1なら、素直に入り行動変容が起きやすくなります。上の人の言葉の影響力は大きく、軽くダメ出したつもりでも部下には強いショックになることがあるため、その自覚も必要です。
DESC法
机(デスク)で覚えるフレームワークです。Dはディスクライブ(事実を描写)、Eはエクスプレス(影響や自分の感情を伝える)、Sはより具体化する、Cはチューズ(相手に選んでもらう)です。感情や思い込みではなく、まず事実を確認することから始めます。頭文字を取ったこのDESCという言葉を、机のデスクと結びつけて覚えると忘れにくくなります。
「こういうことがあったと聞いているけどどう」と事実を確認し、その行動がどんな影響を与え、自分がどう感じたかを伝えます。そのうえで、どんな行動が良かったかを一緒に具体化し、次に同じことがあったらどれをやるか相手に選んでもらいます。自分で選ぶことが内発的動機につながります。
感情でフィードバックしたり、思い込みで「あれをやったらしいな」と決めつけたりするのは避けるべきです。噂や誤解のこともあるため、まず事実を確認します。事実をすり合わせたうえで、「あの時お客様にこう発言したよね、あの発言でお客様の表情が曇って不審感を抱いたと思う、私はまずいと感じた」というように、事実と自分の感情を分けて伝えます。最後に相手が選ぶことで、内発的動機が生まれます。
FBI+M
F(事実)、B(行動)、I(影響)に、M(提案)を加えたモデルです。どんな事実があり、どんな行動をし、それが周囲やお客様、同僚にどんな影響を与えたかを伝えます。本人が悪気なく気づいていないケースがあるためです。FBIという偉そうな組織名のようで覚えやすく、そこにMを加えるのがポイントです。
影響について「どう思うか」を確認しながら進めます。周りへの影響は上司の方が広く見ているため、短期的・長期的な影響も含めて伝えます。上司が思う答えが出てこない場合は、Mのメッセージとして「自分だったらこうする」と伝えます。
たとえば会議での発言を、本人は正直に言ったつもりでも、お客様には不審感を持たせてしまうことがあります。本人は悪気がなく気づいていないため、その影響を伝えることに意味があります。「こういう影響があると思うけどどう」と確認し、そのうえで「どうしたらいいと思う」と聞くのも効果的です。上司が期待する答えが出なければ、自分の経験を交えてメッセージとして提案します。
アイメッセージで伝える
「あなたはこうすべき」というユーメッセージより、「私はこう感じた」「私は昔こうやってうまくいった」というアイメッセージの方が、相手は受け止めやすくなります。人は本能的にコントロールされたくない、人から言われたくないという気持ちを持っているためです。
「お前はこうしろ」と言うと押し付けられている感覚になりますが、「私はこう感じた」「私は昔こうやってうまくいった」と自分を主語にすると、相手は受け止めやすくなります。人は自分で意思決定した方が気持ちよく、モチベーションも上がります。上司は伝えたからいいのではなく、相手に届いているかを確認しながら、届いていなければ違うボールの投げ方に変えることが大切です。
期待で締めくくる
フィードバックされた相手は、表情に出なくてもショックを受けたり落ち込んだりしていることがあります。「今日の話は全然できると思うよ、前もこんなことをやっていたじゃない、期待しているから一緒に頑張っていこう」と、最後は励ましと期待で締めくくるのがおすすめです。得意なところを伸ばせばもっとパワフルになれる、と前向きに伝えると、相手も安心して受け止められます。
解決策・打ち手:相手の行動が変わる3つの前提
フィードバックの技術を活かす前提として、相手の行動が変わるために必要な3つの土台を解説します。前提は、関係性・コーチング的アプローチ・ビジョンの3つです。技術だけを使っても、この土台がなければフィードバックは相手に届きません。
関係性をつくる
自分のことを知らない人、嫌いな人からフィードバックされても響きません。「お前は俺のことを分かっていないくせに」となってしまうため、いい関係を作ることがベースのベースです。人は動物的に、会った瞬間に相手が敵か味方かを判断します。フィードバックの前に、自分ができていないことは言ってはいけない、と考えがちですが、フィードバックは相手のために言うものなので、自分ができているかどうかより相手基準で考えることが大切です。
「この人は自分を理解しようとしてくれている」「いいところを見出そうとしてくれている」と認知してもらうことが、上司のスタンスとして大切です。100%理解するのは無理でも、理解しようとし、味方であると伝わることが関係性の土台になります。
人は動物的に、パッと人と会った瞬間に相手が敵か味方かを脳で判断します。「この人は無害で、タイプは違うけれど応援してくれようとしている」と瞬時に感じ取るのです。だからこそ、上司が部下のことに興味を持ち、強みを見出し、成長のために真剣に考えている味方だと認知してもらうことが、日々のフィードバックが相手に伝わる前提になります。
コーチング的アプローチで気づいてもらう
いきなり「あなたはここがダメ」と言うより、「前のプロジェクトはどうしたら良かったと思う」と質問し、一緒に考えます。人はやろうと思っていたことをアドバイスされるとむかつくもので、指示されるより自分で気づいた方がパワフルで、自己効力感も上がります。近道に見えて実は遠回りなのが、答えを先に言ってしまうことなのです。
質問して部下から出てきたアイデアがいまいちなら、「他に何かあるかな」と深掘りします。いいアイデアが出たら「それいいね、やってみたら」と返す方が、上司が先に答えを言うよりモチベーションが上がります。本人が自分で気づくことを、まず第一ステップとして意識します。
身近な例で言えば、お皿洗いをしようと思って帰ったときに「お皿洗っといて」と言われると、やる気が下がるものです。人はやろうと思っていたことをアドバイスされるとむかつくという特性があります。上司が先に「こうやれ」と言うと、部下は「よし、やります」と返しても、自分で気づいたときとはテンションが違います。だからこそ、質問して相手の中から答えを引き出す方が有効なのです。
ビジョンと価値観を握っておく
部下のキャリアビジョンや夢、この会社で何を成し遂げたいか、大事にしている価値観を上司が把握しておきます。「これを目指すと言っていたよね、それを考えると今日の行動はまずくない」と、共通認識があるとフィードバックが響きやすくなります。これは最初に述べた「理解してくれている」という関係性の土台とも深くつながっています。
ビジョンを握っておくと、フィードバックは上司の基準の押し付けではなく、本人がやりたいと言ったことを上司がサポートする立ち位置になります。「あなたがこう言っていたよね」と伝えると、押し付けでなく共にゴールを目指す健全な関係になります。
把握すべきは、キャリアビジョンや夢だけでなく、価値観も含みます。お客様との信頼関係を大事にしたい、本音で言うことを大事にしたい、スピードを重視したい、無駄なことをやりたくないなど、価値観は人によって違います。「スピード重視でやりたいと言っていたのに、最近メールが遅くない」というように、価値観を握っておくと相手もドキッとし、フィードバックが自分ごととして受け止められます。
明日から着手する順番
- フィードバックの前に、部下と「この人は味方だ」と思える関係性をつくる。
- 部下のビジョン・夢・価値観を1on1などで把握し、共通認識にする。
- いきなり指示せず、「どうしたら良いと思う」と質問して自分で気づいてもらう。
- ポジティブ4:チャンス1の黄金比率を意識し、良い行動をこまめに褒める。
- ダメ出しはDESC法やFBI+Mで、事実→影響→提案の順に伝える。
- 「あなたは」でなく「私は」というアイメッセージで伝える。
- 伝えた後、相手に届いたかを確認し、最後は励ましで締めくくる。
よくある質問
フィードバックはいつすべきですか?
最後の手段です。まず質問で自分に気づいてもらうのが先で、自分で気づく方が人から言われるよりパワフルだからです。
何度言っても部下が変わらないのはなぜですか?
伝え方に原因があります。相手の能力だけでなく、同じことを言い続けている上司の伝え方も見直す必要があります。
フィードバックの本質は何ですか?
相手の行動が変わることです。上司が何を言ったかでなく、相手が気づいて行動が変わったかが本質になります。
2種類のフィードバックとは何ですか?
ポジティブとチャンスの2つです。褒めるポジティブと、伸びしろを伝えるチャンスフィードバックの両方を指します。
ポジティブフィードバックはなぜ大切ですか?
成長を実感させるからです。人は自分を客観視できず、外から伝えられて初めて成長や強みに気づけます。
強化理論とは何ですか?
行動が強化・抑制される仕組みです。褒められた行動は強化され、いまいちと伝えられた行動は抑制されます。
何をフィードバックすればいいですか?
結果でなく変化です。相手の過去と比べて頑張ったこと、チャレンジしたこと、成長した変化を褒めるのが有効です。
ゴットマンの黄金比率とは何ですか?
ポジティブとチャンスの比率です。上司部下は4対1、親子は3対1、夫婦は5対1、友達は8対1が効果的です。
ダメ出しばかりだとどうなりますか?
心のシャッターが下ります。「嫌われている」と感じて聞く耳を持たなくなり、行動変容が起きにくくなります。
DESC法とは何ですか?
4段階のフレームワークです。事実の描写、影響と感情、具体化、相手に選んでもらう、の順で進めます。
FBI+Mとは何ですか?
事実・行動・影響・提案のモデルです。F(事実)、B(行動)、I(影響)を伝え、最後にM(提案)を加えます。
アイメッセージとは何ですか?
「私は」を主語にする伝え方です。「あなたは」より、コントロールされる感じが薄く、相手が受け止めやすくなります。
相手の行動が変わる前提は何ですか?
3つの前提です。関係性、コーチング的アプローチ、ビジョンの共有を土台にすることが行動変容につながります。
できていないことを部下に言ってもいいですか?
言って構いません。フィードバックは相手のためのもので、自分ができているかでなく相手基準で考えるのが原則です。
関係性はなぜ大切ですか?
響き方が変わるからです。人は会った瞬間に敵か味方かを判断し、味方と認知されないとフィードバックが刺さりません。
コーチング的アプローチはなぜ有効ですか?
自分で気づけるからです。指示されるより、自分で気づいた方がモチベーションが上がり、行動につながりやすくなります。
ビジョンを握るとどう変わりますか?
押し付けでなくなります。本人がやりたいと言ったことのサポートになり、共にゴールを目指す関係になります。
年上部下にはどう伝えればいいですか?
役割として伝えます。年齢や感情を切り離し、配慮はしても遠慮はせず、チームの成果のために率直に伝えます。
嫌われたくなくて言えない時はどうしますか?
長期視点で考えます。短期の言いにくさより、相手の成長を願って伝える方が、信頼関係にも成長にもつながります。
言い訳や反発をされる時はどうしますか?
関係性に立ち戻ります。無理にフィードバックせず、相手の背景や原点を理解する長期戦で臨むのが有効です。
まとめ
- 何度言っても変わらないのは部下の能力でなく、上司の伝え方という構造にこそ原因があります。
- 大切なのは上司が何を言ったかでなく、相手が気づいて行動が変わったかどうかです。
- フィードバックにはポジティブとチャンスの2種類があり、強化理論で行動が変わります。
- 効果的な技術は、黄金比率4対1、DESC法、FBI+M、アイメッセージ、そして励ましの締めくくりです。
- 関係性・コーチング的アプローチ・ビジョンの共有が、行動が変わる3つの前提になります。
厳しいフィードバックは嫌われるのではと恐れがちですが、言わないことは相手の成長や可能性を奪うことにもなります。配慮はしても遠慮はしない、相手の成長を願って伝えることが大切です。特に年上の部下には言いにくさを感じがちですが、そこでも配慮はしても遠慮はしない姿勢が信頼につながります。まずは部下の良い行動を一つ見つけて、ポジティブフィードバックを言葉にして伝えるところから始めてみてください。
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