会議やワンオンワンをやっても、表面的で体裁のいい言葉を言い合って終わり、なんだか退屈だと感じていませんか。本音は会議の場では出ず、終わった後に飲み屋で愚痴として漏れる——。そんな会議のもやもやを抱えている方は少なくないはずです。
この記事では、beyond globalグループの森田英一が解説する「対話型組織開発」について紹介します。結論から言えば、会議の生産性が低いのは参加者個人の能力ではなく、本音が言えない関係性という「構造」が原因です。仕組みだけを整えても組織は変わらず、日々のコミュニケーションの質を変えることで、はじめて組織の文化と未来が変わります。会議で本音が言える関係性をつくることが、組織の生産性を高める起点になります。
現象のメカニズム:なぜ会議の生産性は低いのか
日本の会議は生産性が低く、本来はガチで議論し本音で話せるはずが、会議の場では綺麗に振る舞って終わり、飲み屋で愚痴を言う構造になっています。一昔前は上の人の話を聞くだけの会議や、事前の根回しでシナリオが決まっている会議が多く見られました。
日本の生産性が低いとよく言われますが、会議の生産性の低さもそこに影響しています。上の人にとって耳が痛くなるようなことを言える関係性、つまり心理的安全性の高い状態をつくらないと、会議は本来の力を発揮しません。つまらない会議を続けると、社員は「意味がない」「結局本音を言っていない」と感じ、エンゲージメントが下がります。諦めて演じる社員も生まれ、回り回って組織の生産性を落とすのです。
この背景には、制度や仕組みを整えても、人と人との関係性がいまいちだと組織の生産性が低いという原理があります。日々の会話でどんなコミュニケーションが起きているかが組織の常識になり、組織の行動様式・思考様式を規定します。だから仕組みを変えるだけでなく、コミュニケーションの質を変える必要があるのです。
組織はハード面(仕組み)とソフト面(関係性)の両方でできています。関係性を変えないと組織は本質的には変わりません。今まで本音を言えなかった人が、無意識に本音を言える人ほど優秀とされ、リーダーになってきた側面もあります。気に障るようには言わず、笑いでごまかしながら上の人にもズバズバ言う、という技を持つ一部の人しかできなかったことを、みんなができるようにするのが対話型組織開発の狙いです。みんなの声が会社の意思決定に生かされると、主体性が大きく高まります。
「そんなの無理だ」「うちの会社ではできない」というコミュニケーションが、「それ面白そうだね、やってみよう」という口癖に変われば、組織は変わります。組織のコミュニケーションが変わることは、組織の文化が変わることそのものなのです。本音が言える会議は、社員の主体性を引き出し、業績が上がる可能性を開きます。
背景にある前提:対話型組織開発とは何か
組織開発には診断型と対話型があります。組織はハード面(仕組み)だけでなく、ソフト面(関係性)を変えないと本質的には変わりません。会話の質・コミュニケーションの質を変えることで組織の未来を変えていく、という考え方が対話型組織開発で、主にアメリカを中心に発展してきました。
この会話の質を変えることで組織の未来を変えていくのが対話型組織開発の本質です。「そんなの無理だよ」というコミュニケーションが日常の口癖になっている組織と、「それ面白そうだね、やってみよう」が口癖になっている組織では、生まれる結果がまったく違います。会話の癖が組織のパフォーマンスに直結するからこそ、コミュニケーションの質に着目するのです。
手法にはワールドカフェ、AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)、OSTなどがあります。忖度して表面的なコミュニケーションで終わるのではなく、本音を語りたくなる場づくりやコミュニケーションの仕方を会得します。会議だけでなく、特別なワークショップを行い、「こんな会話をしていいんだ」「正しいか間違っているかでなく、相手が聞いてくれるんだ」という体験を積みます。
ここでいうAIは、生成AIのことではなく、アプリシエイティブ・インクワイアリーという聞き慣れない手法のことです。今までは「会社ではこういうコミュニケーションをしなければ」というお作法に日本企業がはまっている面がありました。プライベートで思っていることは仕事にも影響します。だからこそ、プライベートの話をしてもいい、という場をつくることが関係性を変える一歩になります。こうした対話型組織開発に慣れていくことで、会議の質も自然と上がっていきます。最初は気恥ずかしく感じるかもしれませんが、まず実践してみることが大切です。
人間はプライベートと仕事がつながっており、完全には切り離せません。日々の考え方や口癖、コミュニケーションの癖が会社のパフォーマンスにつながっています。対話型組織開発に慣れていくことで、会議の質も上がっていきます。
本音が言える組織にする3ステップ
関係性が硬直したり諦めが広がった組織を変えるプロセスを3ステップに整理しました。上下の対立や部署間の対立、経営陣同士の不和など、さまざまな場面で使える手法です。まず一覧で示し、その後に打ち手として1つずつ解説します。
| ステップ | やること | ねらい |
|---|---|---|
| 1 | わだかまりを匿名で場に出す | 問題構造を俯瞰して理解する |
| 2 | 相手の立場に立ち原点でつながる | 仲間意識を芽生えさせる |
| 3 | 共通の未来を共に描く | 建設的な議論の土台をつくる |
解決策・打ち手
本音が言える関係性をつくり、対話型組織開発を進めるための具体的な打ち手を解説します。手軽に始められる手法から、関係性を根本から変える3ステップまで、順に見ていきます。
チェックイン・チェックアウトで本音の入り口をつくる
最も手軽な手法がチェックインです。会議の前に、今の正直な気持ちや気になっていることを一人一言ずつ言います。「今朝、妻と喧嘩して気になっている」など仕事と関係ないことでも構いません。背景が分かるとお互いを許せたり、人としての距離感が縮まります。
「この人はそういうことがあって今ちょっと不機嫌そうなんだ」と背景が分かると、人はお互いを許せたりします。しかも、それを言える場になること自体が大切です。仕事のことしか言ってはいけない、という状態から一歩踏み出し、人としての一面を共有できると、関係性が変わり始めます。
頭の中でぐるぐる回っていることも、出せば流れます。会議の終わりにはチェックアウトで、「これをやってよかった」「ここはまだモヤモヤしている」と本音を言って終わります。会議の初めと終わりを本音でサンドイッチすると、いい会議になります。
チェックイン・チェックアウトは、会議の前後で自分の気持ちを言葉にするための時間です。会議に入るときに前のことが気になって集中できない、ということは誰にでもあります。チェックインで気持ちを出しておくと、頭の中でぐるぐる回っていたものが流れ、会議に集中できます。仕事のことしか言ってはいけない、という空気から、人としての距離感が縮まるのが大きな効果です。
ワールドカフェで多くの声を引き出す
次に手軽なのがワールドカフェです。模造紙にみんなで落書きしながら問いを立て、それに対してメモし、メンバーを入れ替えながらぐるぐる進めるワークショップです。誰か一人が一方的に発表し、他が聞いて質問する会議だけでなく、この手法を大きな会議に取り入れるのも効果的です。
通常の会議は、誰かが発表して誰かが聞き、質問する、という一方向の形になりがちです。ワールドカフェは、少人数のテーブルで問いを囲み、メンバーを入れ替えながら対話を重ねることで、多くの人の声が場に出てきます。まずはチェックインの次のステップとして取り入れやすい手法です。落書きしながら気軽に問いを深められる点も、本音を引き出しやすい理由の一つです。
ステップ1:わだかまりを匿名で場に出す
大人は会議の場で表立って言わず、手を変え品を変え反対します。これが会議の生産性を下げるため、まず思っていることを言ってしまうのがポイントです。ただし不満をそのままぶつけると人間関係が一瞬で崩壊するため、匿名で出すことが大切です。
回りくどく反対し合うことが、会議の生産性を下げています。だからこそ、まず思っていることを場に出すのが第一歩です。とはいえ、相手への不満をそのままぶつけると「お前、そんなことを思っていたのか」と亀裂が入り、その後の仕事にも支障が出ます。だからみんな言わないのです。そこで、誰が言ったか分からない形で匿名で出すことが重要になります。
事前アンケート、名前を書かないポストイット、似た属性のグループ(社員は社員、経営者は経営者)でまとめて出す、といったやり方があります。誰が言ったか分からず個人攻撃でもないけれど、「こんなことを思っている人がいる」「しかも一人ではなく、みんな思っている」と分かると、聞かなければと感じるようになります。
この手法は、上下関係だけでなく、部署と部署が仲が悪い、経営陣同士が仲が悪い、といったケースにも使えます。匿名で出すことで、聞く側は「そんなことを思っていたのか」とドキッとします。一人だけでなくみんなが思っていると分かると、無視できず、これは聞かなければという気持ちになるのです。匿名性を担保して不満を共有し、受け止めることがステップ1の要点です。
ステップ2:相手の立場に立ち原点でつながる
匿名の声を共有すると、誰か一人が悪いのではなく、両方が相まって構造的にこうなっている、と見えてきます。上司は「部下に主体性がない」と見え、部下は「意見を言ったら潰された」と感じている。両者の声が並ぶと、自分たちの働きかけがそうさせていたのかもと気づきます。
上司は「会議で意見が出ない、主体性がない、やる気がない」と見ています。一方、部下の声を聞くと「前に意見を言ったらすぐ潰された」「自分と違う意見はダメ出しされるだけ」「言っただけ損した」という言葉が並びます。両方を突き合わせると、やる気がないと思っていた部下が、実は自分たちの働きかけによってそうなっていたのかもしれない、と気づきます。ここで大切なのは、立場や部署がどこかでぶつかる構造になっている、と俯瞰して捉えることと、相手の立場に立つことです。
ここで有効なのが、オットー・シャーマー博士のU理論です。レベル1は従来のやり方、レベル2は観察、レベル3は相手を感じる段階で、レベル3に入ると視座の転換やイノベーションが起きやすくなります。さらに「なぜこの会社に入ったのか」という原点や、お金以外にここで働く理由を話すと、表面的に意見が違っても根本はつながっていると感じられ、仲間意識が芽生えます。
レベル1は「あいつはこうだ」という決めつけ、レベル2は「あの人はこうしているんだ」という観察、レベル3は「相手はこう感じているかもしれない」と感じる段階です。今までファイティングポーズで相手を何とかしてやろうとしていたのが、同じ釜の飯を食う仲間のような感覚に変わっていきます。他社に転職する選択肢もある中で、なぜここで働く選択をしているのか、その原点を話し合うと、対立していた人たちが和解していくプロセスが生まれます。
こうした本音を言い合う場は、最初はみんな怖がり、逆襲される可能性というリスクを感じます。これが心理的安全性が低い状態です。いきなり全員で一気にやるのは難しいため、1対1やペアなど少人数から徐々に始めていきます。最初は嫌がって逃げ出したくなる人もいますが、終わった後にはみんないい顔になり、「このメンバーでこんな話ができてよかった」という空気が生まれます。全員が魔法のように一気に変わるわけではなく、訓練を重ねることで少しずつ広がっていきます。こうして少しずつ土壌が耕されていくのです。
ステップ3:共通の未来を共に描く
問題を共有し相手の立場を感じ、原点でつながった後は、未来を共に描きます。立場の違いで構造上ぶつかることはあっても、「これを目指してやっているんだ」という共通のゴールが見えると、健全な形でやっていこうという合意が取れます。
自分たちで作った共通のビジョンや北極星を達成するために、日常の会議でチェックイン・チェックアウトをしながら建設的な議論をしていく。こうしてコミュニケーションがどんどん良くなっていきます。
立場が違えば構造上ぶつかる要素はあります。しかし「何を目指しているのか」を改めて自分たちで考え、共通のゴールを持つと、そのゴールに向かうための健全なぶつかり方に変わります。共通のゴールが決まれば、今ある問題をどう改善していくかは、日常の会議で対話しながら進められるようになります。対立の解消がゴールではなく、共に未来をつくることがゴールなのです。自分たちで描いた未来だからこそ、達成に向けたエネルギーが生まれます。
上司がちゃぶ台をひっくり返さないようにする
よくある失敗が、みんなが本音を言っている場に上の人が出てきて「何を無駄なことをやっているんだ、これをやれ」と言ってしまうことです。これでは台無しになります。上の人にプロセスの価値を理解してもらうことが必要で、エグゼクティブコーチングなどで上の人自身にも変わってもらうことが重要です。
上の人がちゃぶ台をひっくり返すと、「今まで話してきたのは無価値だったのか」という空気になり、それまでの対話が水の泡になります。だからこそ、このプロセスが主体性やコミュニケーションの質を変えるために大切なものだと、上の人に理解してもらう必要があります。上の人が全部決めつけて「これでやれ」という状態では、自走ではなくやらされ感になってしまいます。上の人のマネジメントの意識転換もあわせて重視すべきポイントです。メンバーが主体的に自走する組織になるには、上の人が今までのやり方を変えていくことが欠かせません。
明日から着手する順番
- 会議の冒頭にチェックイン、終わりにチェックアウトを取り入れ、本音の入り口をつくる。
- ワールドカフェを大きな会議に取り入れ、多くの声を引き出す。
- わだかまりや問題意識を、匿名で場に出せる仕組み(アンケートやポストイット)を用意する。
- 出てきた声から、誰かのせいではなく問題の構造を俯瞰して理解する。
- 相手の立場に立ち、なぜこの会社で働くのかという原点や思いを共有する。
- 共通の未来・ビジョンを一緒に描き、それを達成するための建設的な議論に移る。
- 上の人にプロセスの価値を理解してもらい、ちゃぶ台返しを防ぐ。
よくある質問
対話型組織開発とは何ですか?
会話の質を変えて組織を変える手法です。関係性というソフト面を変えることで、仕組みだけでは変わらない組織を変えます。
診断型と対話型の違いは何ですか?
アプローチが違います。対話型組織開発は、コミュニケーションの質や人と人との関係性を変えることで、組織を変えていく考え方です。
なぜ日本の会議は生産性が低いのですか?
本音が言えないからです。会議では綺麗に振る舞い、飲み屋で愚痴を言う構造になり、議論すべきことが後回しになります。
心理的安全性とは何ですか?
耳の痛いことも言える状態です。上の人にとって耳が痛いことも言える関係性が、心理的安全性が高い組織やチームです。
つまらない会議を続けると何が起きますか?
エンゲージメントが下がります。「意味がない」「本音を言っていない」と感じ、諦めて演じる社員が生まれてしまいます。
コミュニケーションを変えると組織は変わりますか?
変わります。日々の口癖やコミュニケーションが組織の常識となり、行動様式や思考様式そのものを規定するためです。
チェックインとは何ですか?
会議前に気持ちを共有する手法です。今の正直な気持ちや気になることを一人一言ずつ言い、距離感を縮めます。
チェックアウトとは何ですか?
会議後に本音を言う手法です。「やってよかった」「まだモヤモヤする」と伝え、初めと終わりを本音でサンドイッチします。
ワールドカフェとは何ですか?
模造紙を使う対話手法です。問いを立ててメモし、メンバーを入れ替えながら進め、多くの声を引き出します。
本音が言える組織にするステップは何ですか?
3ステップです。わだかまりを匿名で出す、相手の立場に立ち原点でつながる、共通の未来を共に描く順で進めます。
わだかまりを匿名で出すのはなぜですか?
人間関係の崩壊を防ぐためです。不満をそのままぶつけると一瞬で崩れるため、匿名で共有して受け止めます。
匿名で出すやり方には何がありますか?
3つあります。事前アンケート、名前を書かないポストイット、似た属性のグループでまとめて出す方法があります。
問題構造を俯瞰するとは何ですか?
誰かのせいにしないことです。両者が相まって構造的にこうなっていると理解し、対立を客観的に捉え直します。
U理論とは何ですか?
オットー・シャーマー博士が提唱した理論です。レベル3で相手を感じる段階に入ると、視座の転換やイノベーションが起きやすくなります。
原点でつながるとはどういう意味ですか?
働く理由を共有することです。なぜこの会社に入ったか、お金以外の理由を話すと、根本でつながっていると感じられます。
対話型組織開発の効果は何ですか?
主体性が高まります。現場の声が組織に生かされ、エンゲージメントやコミュニケーション、イノベーションも高まります。
心理的安全性はどう高まりますか?
受け入れの積み重ねで高まります。言って受け入れてもらう経験が重なると信頼が生まれ、心理的安全性につながります。
導入で失敗するパターンは何ですか?
上司のちゃぶ台返しです。本音を言う場に上の人が「無駄だ」と割り込むと、それまでの対話が台無しになります。
効果が出るまでどれくらいかかりますか?
3か月から1年ほどです。組織の規模により変わり、すぐに結果が出ると思わず取り組むことが大切です。
対話は最初から全員で始めるべきですか?
少人数から始めます。いきなり全員で行うのは難しいため、1対1やペアなどから徐々に広げていきます。
まとめ
- 会議の生産性が低いのは個人の能力ではなく、本音が言えない関係性という構造が原因です。
- 仕組みだけでは組織は変わらず、コミュニケーションの質を変える対話型組織開発が有効です。
- 本音が言える組織にするには、わだかまりを匿名で出す・原点でつながる・未来を共に描く3ステップで進めます。
- チェックイン・チェックアウトやワールドカフェは、今日から取り入れられる手軽な手法です。
- 上司のちゃぶ台返しを防ぎ、経営者にプロセスの価値を理解してもらうことが成功の鍵です。
関係性は一朝一夕には変わりません。土壌を耕すように、少人数やペアから徐々に本音を言い合える場を重ねていくことで、楽しそうな人が増え、周りも少しずつ変わっていきます。まずは次の会議の冒頭に、今の正直な気持ちを一言ずつ共有するチェックインから始めてみてください。
動画特典
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