AIの進化が速すぎてキャッチアップできない、どう付き合えばいいのか分からない、始めても時代遅れになりそうで不安——。業務効率化やAI活用をめぐって、こうした戸惑いを抱えている経営者やビジネスパーソンは少なくないはずです。
この記事では、beyond globalグループの森田英一が、住友商事でAI担当を務めた後に独立しコンサルティングファームを経営する中村氏を招いて解説した「AIとの付き合い方と業務活用法」を紹介します。結論から言えば、AIを使いこなせないのは個人の能力ではなく、役割分担の考え方という「構造」が原因です。問いを立てるのは人間、解決するのはAI。この線引きさえ押さえれば、大きくずれることはありません。欧米企業ではAIによる人員削減も進んでおり、不安を抱える人も多い今こそ、正しい付き合い方を知ることが重要です。
現象のメカニズム:なぜAI活用でつまずくのか
AIの進化は非常に速く、専門用語も次々に登場するため、「ついていけない」と感じて動けなくなる人が多くいます。しかし、あわてて情報を追いかけようとして結局動けないことが、いちばんの損です。キャッチアップに完璧を求める必要はありません。
大事なのは役割分担です。問い(質問)を立てるのは人間、解決するのはAI、という区分で考えると大きくずれません。会社を成長させたいという意思決定や、何を問うかを立てる部分は人間がやり、それを解決する部分はAIに一旦丸投げしても問題ないのです。
もう一つのイメージが「森と葉っぱは人間、真ん中はAI」です。最初に問いを立てる入り口と、最後のクオリティチェックという葉っぱの部分は人間が担い、その間の壁打ちや情報の分解はAIに任せます。ファクトチェックや文言、構成の最終確認、AIっぽいニュアンスの修正は、人間の目で見る必要があります。
コピペで出てきたようなAI文や、急に入った絵文字や記号は、受け取る側の温度感を下げます。最後は生身の人間として世に出すものだからこそ、人間の目で整えることが欠かせません。入り口の意思と最後の仕上げを人間が押さえ、間を大胆にAIへ任せる。この使い分けが、AI活用の土台になります。
背景にある前提:AIは空気を読めない天才
AIは論理が非常に得意で、人間がもはや敵わないレベルになっています。一方で、感情や空気を読むことは苦手です。肉体を持たないため、感情そのものを実感できないからです。ここがAIの弱点であり、人間が担うべき領域を分ける鍵になります。
たとえば「お前バカだな」という同じ言葉でも、口調によってニュアンスは全く違います。AIにはこの違いが分かりません。忖度や言外の意味、コンテクストで気づくといった人間の機微は、AIには概念として存在しないのです。空気を読めない天才に相談している、という認識が必要です。
この非言語の弱点は、日本の強みでも弱みでもあります。日本では空気を読む人が優秀とされますが、多様な文化が集まる環境では、空気を読むより言語化して確認する方が仕事ができるとされます。AIを使うことは、非言語に頼らず言語化するトレーニングにもなり、グローバルで通用する組織づくりにもつながります。
多国籍な環境では、空気を読んで先回りしても外すことが多く、かえって効率の悪いことをしていると見られます。だからこそ確認してから動く方が評価されます。AIが誤解しそうな伝え方をしてくることは、裏を返せば「こう言うと誤解される」という気づきになります。それをどう周りに分かってもらうかを考えることが、組織を強くする一歩にもなります。
AIとの付き合い方の注意点3選
AIとの付き合い方の注意点を、3つのポイントにまとめました。何を任せるか、非言語の解読、感情の扱いという観点です。まず一覧で示し、その後に1つずつ解説します。
| No. | 注意点 | ポイント |
|---|---|---|
| 1 | 何を任せるかを決める | 問いは人間、解決はAIに丸投げする |
| 2 | 非言語の解読は苦手 | 空気を読めない天才として扱う |
| 3 | 人間への熱量の伝播はできない | 感情のぶつかり合いは人間が担う |
何を任せるかを決める
問いを立てるのは人間、解決するのはAIという役割分担が基本です。会社を成長させたいという意思や、何を問うかという意思決定は人間が担い、それを解決する部分はAIに任せます。「これやっといて」「どうしたらいい」と聞くだけで、あとは寝ていてもよいほどです。
キャッチアップは、無理に頑張らなくて構いません。とりあえず目の前にあるAIを使えばよいのです。会社のインフラがGoogle WorkspaceならGemini、MicrosoftならCopilotというように、まず手元のAIに入り口の質問を投げ、出てきたものの責任は自分で持つ。この形でまず使い倒すことが、いちばんのキャッチアップ方法です。
AIはいくつもあり、ChatGPTがいいと思えばGeminiが良くなり、Claudeが良くなる、というように移り変わります。どれを使えばいいか迷いがちですが、まずは目の前にあるものを使い、必要に応じて乗り換えれば十分です。乗り換えるときも、今のAIに「記憶している内容を他のAIに移せるようプロンプトを出力して」と頼み、それをコピーして移せばデータを引き継げます。
非言語の解読は苦手
AIは空気を読めないため、非言語の解読が苦手です。上司から怒られた内容をAIにぶつけると、「その上司は間違っている、こういう反論をしてください」と論理的に正しいけれど角の立つ答えが返ってきます。それをそのまま上司に送ると、関係が壊れてしまいます。
AIは頭はいいけれど空気を読めない、少し嫌なタイプの天才に相談しているという認識で壁打ちをしないと事故が起きます。反論のメールを作りましょうかと、キレのある論理を提案してくることもありますが、そのまま使うのは危険です。人間関係や場の空気は、人間が判断する必要があります。
人間への熱量の伝播はできない
人間は理屈では動かず、感情で動く生き物です。AIは論理が得意ですが、感情は苦手で、嫉妬などの感情を本質的には理解できません。だからこそ、現場の人たちに熱量を伝えて行動を変えることは、AIには難しいのです。
仲のいい人から「一緒に頑張ろう」と言われると動きますが、AIが同じことを言っても熱は入りにくいものです。方向性やロジックを作った後、人間を動かしていく部分は人間がやるしかありません。感情と感情のぶつかり合いやコミュニケーションこそ、人間が磨くべき領域です。
AIでの業務活用法5選
明日から使える具体的なAIの業務活用法を、5つにまとめました。文章、Excel、分析、リサーチ、ナレッジ共有という業務ごとに整理しています。まず一覧で示し、その後に1つずつ解説します。
| No. | 活用法 | おすすめのAI |
|---|---|---|
| 1 | 文章の一次スクリーニング | Gemini・Copilotなど |
| 2 | Excelの細かい作業を任せる | Claude・Copilot |
| 3 | 分析の壁打ち | Gemini |
| 4 | リサーチ業務 | AIエージェント(Manusなど) |
| 5 | ナレッジ共有 | NotebookLM・Copilot |
文章の一次スクリーニングに使う
新入社員が最初に注意されるのは文章です。かつては人間が手直しするしかありませんでしたが、今はAIで調整できます。文章の癖は人それぞれ会社それぞれ異なるため、いつもの言い回しやエッセンスをカスタム機能に入れておき、先方への返信を一度AIに通すと、誤字も直り整った文章になります。
この使い方で、新入社員や転職者の文章教育コストが大きく減ります。一次スクリーニングをAIに通すと、9割ほどはいいものになります。ただし、先方に送る際の細かなニュアンスや気遣いの言葉は人間でないと分からないため、最後の確認は人間が行います。9割のチェックを削減できるイメージです。
新入社員の文章教育は、上司が一つひとつチェックすると時間がかかり、関係がぎくしゃくする原因にもなりがちでした。誤字や言い回しの調整をAIに任せることで、教育コストが下がり、上司はより本質的な指導に時間を使えます。入り口の依頼と最後の確認は人間、その間の調整はAI、という形が有効です。
Excelの細かい作業を任せる
Excelの細かい作業は、ClaudeやCopilotに任せられます。たとえば「わらび餅屋を始めたいので5カ年の事業計画を財務コンサルが作るレベルで」と依頼すると、的確な質問を返しながら損益計算書などを作成してくれます。ベタ打ちではなく、パラメーターを変えられる使いやすい形で出力されます。
初期投資の予算や立地などを伝えると、より具体的な計画になります。3年目まで赤字といった現実的な試算も出し、店舗型よりキッチンカー型やゴーストレストランを提案するなど、コンサルレベルの内容になります。ただし、そこから融資を引き、店舗を作り、お客様に来てもらう部分は人間の仕事です。
月数千円のAIが、世界中のインターネットに高速でアクセスできる優秀な参謀のように働いてくれる、いわば異常な状態が今起きています。同じことは世界中の誰でも使えるため、事業計画づくり自体では差がつきません。差がつくのは、リスクを取って実行するか、思いを他の人に伝播させてお客様に来てもらえるか、といった人間ならではの部分です。ここに人間の価値が残ります。
分析の壁打ちに使う
分析の壁打ちは、最も多く使われている王道の使い方です。Geminiなどに「こういうのはどうだろう」とどんどん聞いていきます。ポイントは、プロンプトの階層化です。自然言語で指示するだけでなく、記号を使って箇条書きの範囲を示すなど、AIに伝わる書き方を学ぶと精度が上がります。
AIにいくら言っても伝わらずイライラするのは、人間の伝え方に原因があります。子供には子供に伝わる言葉が要るように、AIにはAIに伝わる言葉が必要です。日々部下に指示を出して工夫しているマネジメント層ほど、AIの壁打ちもすんなり使いこなせる傾向があります。
逆に、人に指示を出すことに慣れていないプレイヤーの方ほど、期待通りのものが出てこず「AIは使えない」と止まってしまいがちです。相手に齟齬なく伝わるにはどうするかを日々考えている人であれば、AIへの指示も自然にできます。伝え方を工夫する力そのものが、AI時代に効いてくるスキルなのです。
リサーチ業務に使う
リサーチには2種類あります。一つは既存のインターネット情報をさっとさらって概要を取り出すもの(ChatGPTやClaudeなど)、もう一つはブラウザを自分で開いて一件ずつ細かく見ていくスクレイピング型のAIエージェント(Manusなど)です。用途で使い分けます。
「年商50億以上の物流会社の電話番号とホームページを全部リストアップ」のように細かく正確なリストが必要な場合は、AIエージェントが向いています。概要をさらうだけのAIでは、メモリの制約からハルシネーションが起きることがあるためです。使い分けの基準は、人間が調べる人件費とAIエージェントの費用の比較で、基本はAIエージェントが早くて安いといえます。かつてはリスト作成を外注する仕事もありましたが、その多くはAIに置き換わりつつあります。
ナレッジ共有に使う
NotebookLMのように、情報ソースを入れるとその中からのみ回答してくれるAIは、ハルシネーションが起きにくいのが特徴です。社内の暗黙知や社則を入れておけば、新人が「1,200円の経費申請はどこの誰にどう申請するか」といった質問に自分で答えを得られます。
特に有効なのがトラブルシューティングの事例を貯めることです。多くの仕事は7〜8割がトラブルシューティングに時間を割かれます。議事録や録音データを入れていくと、何か起きたときに「類似の事例でどうしていたか」を引き出せます。新人教育コストや質問対応コストを大きく下げられる、王道にして有効な使い方です。
定型業務が回っているときは問題になりませんが、イレギュラーな事態は暗黙知になりやすい領域です。かつては膨大な事例を一つずつ見ることが難しく、誰もやっていませんでした。録音ツールで会議データを取り、貯めていくことで、新人でも過去の類似事例を参照して対応できるようになります。何か起きたときに「こういう例を超えていたが、こうしていいか」と上司に相談できるのも大きな利点です。
解決策・打ち手:AI時代の生存戦略
実行ばかりしている仕事はAIに代替されやすくなります。Excel作業のような定型業務は、AIエージェントに任せられるようになってきているためです。AI時代を生き抜くための打ち手を解説します。
AIに代替されにくいスキルを身につける
生存戦略は大きく2つあります。長期目線では、人間が生産活動をする必要がなくなるという見方もあります。一方、目の前の生活を守る観点では、AIに代替されづらい領域のスキルをリスキリングして身につけていくことが必要です。技術的な代替と現場への浸透には時間差があるため、その間に備えることができます。
人間対人間のコミュニケーションを磨く
AIに代替されにくいのは、人間対人間のコミュニケーションそのものが価値である領域です。営業のように人間がやること自体に価値がある仕事や、感情のぶつかり合いを伴う関わりは、当面AIには置き換えられません。ここを磨くことが有効です。
現場仕事・ブルーワーク系に価値を見出す
肉体を使う現場仕事やブルーワーク系も、AIに代替されにくい領域です。実際、海外では工事や観光などの給料が上がっています。ロボットが人肌レベルまで進化すれば前提は変わりますが、当面はこうした領域に価値が残ります。
AIを使える外部をうまく活用する
社内でAIを浸透させようとしても、便利なものほど人間は使わない傾向があります。だからこそ、AIを使いこなせる外部にアウトソースする動きが増えます。人が現場に張り付いて定着を支援する泥臭い取り組みが、実は効果を生みます。効率化による個人のメリットがないと人は動かないため、そこを設計することが重要です。
明日から着手する順番
- 「問いは人間、解決はAI」という役割分担を意識して業務を見直す。
- 手元にあるAI(CopilotやGeminiなど)に、入り口の質問を投げてまず使い倒す。
- 文章の返信を一度AIに通し、一次スクリーニングを任せて最後は人間が確認する。
- Excelの試算や事業計画づくりを、ClaudeやCopilotに指示して確認する。
- 分析はプロンプトの階層化を学び、AIに伝わる書き方で壁打ちする。
- 細かく正確なリストが要るリサーチは、AIエージェントに任せる。
- トラブルシューティングの議事録や録音を貯め、ナレッジ共有に活用する。
よくある質問
AIと人間の役割分担はどう考えますか?
問いは人間、解決はAIです。意思決定や何を問うかは人間が担い、解決の部分はAIに一旦丸投げしても問題ありません。
森と葉っぱのたとえとは何ですか?
入り口と最終確認は人間という意味です。問いを立てる森と、最後のクオリティチェックの葉っぱを人間が担い、間はAIに任せます。
AIのキャッチアップはどうすればいいですか?
無理に追いかけなくて構いません。手元のCopilotやGeminiなど目の前のAIを、まず使い倒すのが有効です。
AIを乗り換えるとデータはどうなりますか?
移行できます。今のAIに「記憶内容を他のAIに移せるようプロンプトを出力して」と頼み、コピーして移せば引き継げます。
AIが空気を読めないとはどういうことですか?
ニュアンスが分からないことです。「お前バカだな」も口調で意味が変わりますが、AIは同じデータとしか認識できません。
AIの答えをそのまま使ってはいけませんか?
危険です。上司への反論など論理的に正しくても角が立つ答えが出るため、そのまま送ると関係が壊れます。
AIは感情を理解できますか?
本質的にはできません。肉体を持たないため嫉妬などを実感できず、感情のトレースはできても本当の理解は困難です。
熱量を伝える仕事はAIに任せられますか?
任せられません。人は理屈でなく感情で動くため、現場に熱量を伝えて行動を変えるのは人間の役割です。
文章作成でAIをどう使いますか?
一次スクリーニングに使います。返信を一度AIに通すと約9割はいい文章になり、最後の確認だけ人間が行います。
Excel作業にはどのAIがいいですか?
ClaudeやCopilotです。事業計画や試算をパラメーター付きで出力でき、Claudeの方が精度が高いとされます。
事業計画もAIで作れますか?
作れます。予算や立地を伝えると、赤字期間の試算や店舗形態の提案までコンサルレベルで出力してくれます。
分析の壁打ちのコツは何ですか?
プロンプトの階層化です。記号で箇条書きの範囲を示すなど、AIに伝わる書き方を学ぶと分析の精度が上がります。
マネジメント層はAIを使いやすいですか?
使いやすい傾向があります。日々部下に伝わる指示を工夫している人ほど、AIへの指示もすんなり使いこなせます。
リサーチのAIは2種類あるのですか?
2種類あります。概要をさらう既存AIと、ブラウザを開いて一件ずつ見るAIエージェント型を用途で使い分けます。
正確なリストが欲しい時はどうしますか?
AIエージェントを使います。Manusなどは一件ずつ調べるため、概要をさらうAIより正確なリストが得られます。
ナレッジ共有にはどのAIがいいですか?
NotebookLMなどです。入れたソースからのみ回答するためハルシネーションが起きにくく、社内知識の共有に向きます。
ナレッジには何を貯めるといいですか?
トラブルシューティングの事例です。仕事の7〜8割はトラブル対応に時間を割かれるため、議事録や録音を貯めると有効です。
機密情報はAIに入れていいですか?
バランスで判断します。日本の損に関わる機密は避けつつ、過度に気にして数千万円の投資になるならリスクを取る選択もあります。
AI時代の生存戦略は何ですか?
2つあります。人間対人間のコミュニケーションを磨くことと、現場仕事などAIに代替されにくい領域に価値を見出すことです。
今年で日本企業は大きく変わりますか?
大きくは変わりません。浸透には10年・20年かかるとされ、AIを使える外部へアウトソースする動きが増えると考えられます。
まとめ
- AIを使いこなせないのは能力でなく役割分担の問題で、問いは人間・解決はAIが基本です。
- 入り口と最終確認は人間、間はAIという「森と葉っぱ」の考え方が役立ちます。
- AIは論理が得意で空気は読めないため、感情や熱量を伝える仕事は人間が担います。
- 業務活用は文章・Excel・分析・リサーチ・ナレッジ共有の5つが実践しやすい入り口です。
- AI時代の生存戦略は、対人コミュニケーションと現場仕事など代替されにくい領域を磨くことです。
のんびりもしていられませんが、あわてる必要もありません。まずは手元にあるAIに、目の前の業務について「これはどうしたらいい」と一つ質問を投げてみてください。
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