初めてマネージャーになった。肩書きはついたものの、何から手をつければいいのか分からない。異動して現場の仕事もよく分からないまま、それでも何かやらなければと焦る。部下の側も「この人は何をしてくれるのか」と距離を取って様子を見ている。よくある立ち上がりの風景です。
ここでつまずく原因は、本人の能力ではありません。順番を間違えているだけです。チームのことを知る前に自分のやり方を持ち込めば、どれだけ優秀でも反発が生まれます。ここでは、起業から26年にわたり国内外の組織に関わってきた森田英一が解説した、最初の3ヶ月でやるべき5つのことと、やってはいけない3つのことを整理します。
なぜ最初の3ヶ月で決まるのか
新任マネージャーにとって、最初の3ヶ月、日数にすると100日が勝負どころです。この期間にメンバーとどれだけ信頼関係を作れるかで、その後の動きやすさが変わります。
部下の側から見れば、新しいマネージャーは未知の存在です。何をしてくれるのか、むしろ変なことをしないか。警戒もありますし、距離も縮まっていません。
人は初めて会った相手について、まず敵か味方かを判断します。これは動物として備わっている反応です。だからこそ、最初の時期に「この人は自分たちを尊重してくれる」と感じてもらえるかどうかが効いてきます。
この100日という期間には、世の中の共通認識もあります。政治の世界では、新しく就任した政治家や首脳に対して、最初の100日間はハネムーン期間と呼ばれ、ネガティブな報道を控えるのが暗黙の了解になっています。
つまり、この3ヶ月は様子見の期間です。だからこそ、この間に現場を正しく把握することが大事になります。ここで的外れなことを言えば、様子見は批判に変わります。
そして、最初でこじれると取り返すのに時間がかかります。評価が下がるだけでなく、立て直しの労力が本来の仕事を圧迫します。最初が肝心という言葉が、そのまま当てはまる場面です。
チームで成果を出す順番
新任マネージャーが陥りやすいのが、成果を急いで個人プレイに走ることです。しかしこれは、チームとしての成果を遠ざけます。順番があるからです。
| 段階 | やること | 得られるもの |
|---|---|---|
| 1 | チームのことを知る | 現状と課題の把握 |
| 2 | チームと信頼関係を作る | 味方だという安心感 |
| 3 | チームで成果を出す | 一緒にやったという実感 |
このプロセスを飛ばして、自分が動いて結果を出そうとすると、メンバーからは「自分たちを理解せずに勝手にやる人」という印象を持たれます。結果として、チームの成果はかえって上がりにくくなります。
マネージャーになる前はスーパープレイヤーだった人ほど、この罠にはまります。プレイヤーとして優秀だったからこそ抜てきされたわけで、動き方の癖がそのまま残るためです。
意識すべきは、メンバーが主役だということです。メンバーが気持ちよく働いて成果を出せるように動く人なのだと伝われば、チームは機能し始めます。
新任マネージャーが抱えやすい3つの心理
1つ目が、存在意義をアピールしたい気持ちです。前の人とは違う、自分はこれができる。そう示したくなるのは自然な感情ですが、出し方を誤ると敵を作ります。
2つ目が、上司からのプレッシャーです。自分が着任したからには変わったと言わせなければ、という気負いが、焦った動きにつながります。
3つ目が、現場を知らない不安です。異動して初めての業務領域でマネージャーになるケースもあります。分からないからこそ、何かやらなければと動いて空回りします。
新任マネージャーがやってはいけないこと3選
| 順位 | やってはいけないこと | 起きること |
|---|---|---|
| 1位 | 成果を急いで見える変化を起こそうとする | 個人プレイに走り、反発を生む |
| 2位 | 特定のメンバーと最初から距離を縮めすぎる | えこひいきと見られ、公平性を疑われる |
| 3位 | 前任者のやり方を公の場で否定する | メンバーも否定されたと感じる |
3位 前任者のやり方を公の場で否定する
新しく着任したマネージャーが、前任者の否定から始めるケースは数多くあります。国内でも、海外駐在員の着任時でも同じです。背景にあるのは、自分の存在意義をアピールしたいという気持ちです。
とくにやりがちなのが、過去にマネージャーを経験していて新しい部署に移った人です。前任者のやり方を見て、自分のやり方と違う部分が目につきます。そこで「ここは駄目だよね」と指摘し、自分の優秀さをアピールしようとしてしまいます。
しかしメンバーからすれば、前任者だけでなく、それをやってきた自分たちまで否定されたように感じます。「この人は自分たちのやってきたことを否定する人なのか」と受け取られ、心理的な距離が開きます。
本来は、前任者のやり方や現在の進め方について、どんな背景があったのかを理解することが先です。そのうえで変える必要があるなら、敬意を払いながら一緒に議論して変えていきます。
心の中で「ここは後で変えよう」と考えておくのは構いません。プランとして持っておくのは有効です。ただし、それを公の場で口にすると敵を作ります。
2位 特定のメンバーと最初から距離を縮めすぎる
新しい部署に着任すると、その部署のことを早く知りたくなります。そこで話しやすい人と一気に距離を縮めることがあります。
情報や状況を知るという意味では有効です。しかし、それが他のメンバーにも見える形になると、「あの人寄りに偏っている」「あの人の意見ばかり聞いている」と受け取られます。
「このマネージャーはあの人がお気に入りなのだ」というレッテルが貼られると、他のメンバーは面白くありません。フラットに付き合ってくれる公平な人なのか、という疑問符がつきます。
個別に情報を聞くのは構いませんが、あからさまに偏って見えないようにしてください。とくに最初の2週間から1ヶ月は、人間関係構築の時間だと位置づけるのが有効です。
1位 成果を急いで見える変化を起こそうとする
変化を起こそうと頑張ること自体は悪くありません。問題は、肩に力が入り「自分が来たからには成果を出さなければ」と焦ったときの動き方です。
この状態になると、メンバーと一緒にではなく、自分の個人プレイで結果を出そうとします。メンバーから見れば、自分たちを理解せずに勝手に動く人という印象になります。
さらに、言葉で否定していなくても、行動が前任者のやり方を否定しているように見えます。そうなるとメンバーの反発を生みます。
急いで成果を出そうとするほど、チームとしての成果が遠のく。このパラドックスを理解しておくことが大切です。
3つに共通しているのは、チームのこと、メンバーのこと、この部署の業務のことを正しく知らないまま、自分の考えと今までのやり方でやろうとしている点です。まずは知ること、そして関係を作ることを優先してください。
最初の3ヶ月でやるべき5つのこと
1. 最初の2週間は聞くことだけに集中する
よくある間違いが、早く自分の方針やビジョン、戦略を出さなければと焦ることです。現場が分からないまま所信表明のように語ってしまうと、それが前任者否定にもつながります。
まずは中に入り、現状を把握します。メンバー一人ひとりが何を考えているか、モチベーションは高いか低いか、前任者をどう思っていたか。メンバー同士の関係性、困っていること、心の底から変えてほしいと思っていること、それぞれの強みと弱み。
現状を知らずに理想論だけを語っても滑ります。いま何が起きていて、どんな問題があり、どんなメンバーがいるのかというリソースの把握が先です。
この2週間でメンバー一人ひとりの話をじっくり聞くと、「この人はちゃんと話を聞いてくれる」「自分たちを尊重しようとしてくれている」という安心感が生まれます。敵ではなく味方なのだと伝わることが、何より効きます。
注意点として、全員を集めて意見を聞いても本音は出ません。個別面談がおすすめです。一人ずつ話すと、他のメンバーをどう思っているかがこぼれ出て、人間関係も見えてきます。みんなの前では綺麗なことしか言わないけれど、実は、という話も出てきます。
人数にもよりますが、1人あたり少なくとも30分、できれば1時間ほどかけてください。聞く項目は次のとおりです。
| 聞く項目 | 分かること |
|---|---|
| いまどんなことをやっているか | 業務の実態 |
| 困っていること、難しいこと | ニーズと障害 |
| このチームの強み | 残すべきもの |
| このチームの弱点 | 変えるべきもの |
| 前任者のやり方で良かったところ | 継続すべき方針 |
| 新しいマネージャーに期待すること | 本人への要望 |
これを聞くと、メンバーが前任者をどう見ていたか、いまのチームを100点満点で何点と自己評価しているか、何に困っているかが分かります。着任直後だからこそフラットに答えてもらえます。聞いてくれる人だと分かれば、期待を込めて話してくれます。
2. 変えないことを先に決める
多くの人は、変えることを決めようとします。「ここは良くないから変えた方がいい」と。背景には、自分が来たからには、自分だからこそという存在意義を示したい欲求があります。
しかし先に考えるべきは、変えない方がいいことは何かです。変えるところばかり話していると、メンバーは不安になります。今までのことを全否定するのか、どこまで自分たちを尊重してくれるのか、と感じます。
そこで、着任から1ヶ月ほど経った時点で、この部署のここは素晴らしい、このやり方は変えるつもりはない、と言葉にして伝えます。これでメンバーは安心します。
メンバーの多くは、全否定されるのではないか、ちゃぶ台返しをされるのではないかとドキドキしています。良いことは続けるのだと示すことが、安心と信頼を生みます。
変えないことを決めると、逆に変えた方がよい部分も鮮明になります。ここは素晴らしいが、ここは面談でも変えたいという声があった、壁にぶつかっているという話もあった。だから向き合っていきたい。この伝え方なら共感が得られます。
なお、変えないことが3つで変えることが15個では、結局変えることの方が多いと受け取られて不安が生まれます。変えるべきことが多くても、まずは優先順位の高いものをいくつか挙げる程度にとどめてください。
3. チームの成功を最初の成果として定義する
最初の3ヶ月で、チームの誰かが成功する仕掛けをどう作るか。あるいはチーム全員で達成できることは何か。ここを考えます。
自分が成果を出すのではなく、メンバーが成果を出すことが自分の喜びだと伝え、行動でも示します。一緒に成果が出れば、「このリーダーは自分たちを見て応援し、一緒にやってくれる人だ」という印象が強く残ります。
効果的なのは、メンバーの個性を生かした役割分担です。個別面談で聞いた強み、やりたいこと、こだわりを踏まえて役割を組みます。
3ヶ月で大きな実績を出すのは難しくても、この期間にイベントを実施する、新しい施策を始めてみる、キャンペーンを行うといった形でチームでの成功を設計できます。メンバーを応援するために自分がいる、というスタンスで向き合うと、エンゲージメントも上がっていきます。
4. 上司・関係者との関係構築を忘れない
マネージャーになると、部下が主なステークホルダーだと考えがちです。部下はもちろん重要ですが、マネージャーの本質は組織のハブであることです。上と下をつなぎ、横をつなぎ、社内の他部署や社外ともつなぐ役割を担います。
部下だけを向いていては片手落ちです。上司とも認識をすり合わせ、他部署とも信頼関係を作り、社外の協力会社とも連携する必要があります。
上司とは、最初の3ヶ月をどう進めるつもりか、何を重視しているか、自分に何を期待しているかを確認します。さらに重要なのが優先順位のすり合わせです。マネージャーから見える優先順位と、上司が見ている優先順位はたいていずれています。
成功の定義も合わせておきます。これをしないと、部下の意見を聞いてニーズに応えたのに、上司が求めていたものと違うという事態になります。頑張って成果を出したのにずれていた、では残念です。
支援してほしいことがあれば上司に伝えてください。逆に、上司に対して「何かお手伝いできることはありますか」と聞くのも有効です。期待を確認するだけでなく、支え合う関係になれます。
他部署も同様です。ほとんどの仕事は自部署だけで完結しません。キーパーソンが誰かを押さえておきます。
横の連携では、メンバー同士では利害が合わずすり合わせできない場面が出ます。そこでリーダー同士が話し合い、全体最適の視点で意思決定することが求められます。営業は顧客に寄り添って早く対応したい、製造は品質を担保できないと反発する。こうした対立を調整する機能が、マネージャーの重要な役割です。
部下には最後は指示という形が取れますが、他部署に対しては命令できません。だからこそ信頼関係が重要になります。「あの部署の人と話をつけるから任せろ」と言える関係を作っておくと、メンバーからの信頼も高まります。
5. 自分のマネジメントスタイルを言語化して宣言する
何を大事にするのか、どんな判断基準で決めるのか、どんなチームを作りたいのか。個人が自立して動くチームなのか、情報共有しながら連携するチームなのか。メンバーに何を期待するのか。
これを言葉にして伝えると、メンバーは動きやすくなります。この人はこういうことを大事にしているのだから、こう動こうと判断できるからです。
逆に分からないままだと、メンバーは探り探りになります。報告や連絡をこまめにした方が喜ぶ人なのか、それより自分で動いてこいという自立性重視の人なのか。この見極めに時間を使うのは、双方にとって無駄です。
宣言することには、自分を律する効果もあります。この方針で行くと言えば、自分もそうあらねばならない状況に入ります。その場しのぎの対応を繰り返すより、一貫性が保たれます。
言わなくても、メンバーは上司の言動に一貫性があるかどうかを見ています。だからこそ言語化した方が安心されます。宣言する内容は多くなくて構いません。自分が大事にしていること、メンバーに期待すること、そして自分自身が何をやるのか。この3点を伝えるだけでも、リーダーとしての覚悟が伝わります。
様子見だけで終わらせない
肩に力が入りすぎるのも問題ですが、逆に何もしない人もいます。観察だけして動かないケースです。
それではメンバーから「来たけれど何もしてくれない」「やる気がないのか」と思われます。能動的に知りにいくことが大事です。そして、マネージャーが何を考えているのかを伝えることも欠かせません。
まず聞く、知る、そのうえで設計して伝える。この順番を踏めば立ち上がりは安定します。この原理原則は、初めてマネージャーになったときだけでなく、別の部署に異動したときや転職したときにも応用できます。
明日から着手する順番
- 着任からの100日を、週単位でカレンダーに区切る。
- 最初の2週間を個別面談の期間として確保する。
- メンバー1人につき30分から1時間の面談を設定する。
- 面談で聞く6つの項目を質問リストにまとめる。
- 面談で得た内容から、チームの強みと課題を整理する。
- 変えないことを3つほど決め、1ヶ月目に言葉にして伝える。
- 変えることは優先順位の高いものをいくつかに絞って伝える。
- 上司と、期待、優先順位、成功の定義をすり合わせる。
- 他部署のキーパーソンを特定し、関係を作りにいく。
- 3ヶ月で達成するチームの成功を定義し、役割分担を設計する。
よくある質問
新任マネージャーはなぜ最初の3ヶ月が重要なのですか?
信頼関係がこの期間で決まるためです。最初でこじれると取り返すのに時間がかかり、立て直しに余計な労力がかかります。
100日プランとは何ですか?
着任後3ヶ月と10日の行動設計です。この期間にメンバーを知り、信頼関係を作り、チームでの成果を設計します。
最初にやってはいけないことは何ですか?
3つあります。成果を急いで個人プレイに走ること、特定のメンバーと距離を縮めすぎること、前任者を公の場で否定することです。
前任者のやり方を否定するとどうなりますか?
メンバーも否定されたと感じます。それをやってきた自分たちまで否定されたと受け取られ、心理的な距離が開きます。
前任者のやり方を変えたい場合はどうしますか?
背景を理解してからにします。敬意を払い、一緒に議論しながら変えます。計画として持っておくのは問題ありません。
特定のメンバーと親しくなるのは問題ですか?
見え方が問題です。偏っていると見られると公平性を疑われます。個別に聞くのは構いませんが、あからさまにしないでください。
人間関係構築にはどのくらい時間をかけますか?
最初の2週間から1ヶ月です。この期間は関係づくりの時間だと位置づけ、えこひいきに見えない接し方を意識します。
成果を急ぐと何が起きますか?
個人プレイに走ります。自分たちを理解せずに動く人だと見られ、チームとしての成果がかえって遠のきます。
チームで成果を出す順番はどうなりますか?
3段階です。チームを知る、信頼関係を作る、そのうえでチームで成果を出すという順番になります。
最初の2週間は何をすべきですか?
聞くことに集中します。方針を出す前に、メンバーの考えやモチベーション、関係性、強みと弱みを把握します。
個別面談はどのくらいの時間が必要ですか?
1人あたり最低30分です。できれば1時間かけると、人間関係や本音まで見えてきます。
個別面談では何を聞けばよいですか?
6項目です。現在の業務、困っていること、チームの強み、弱点、前任者の良かった点、自分への期待を聞きます。
全員を集めて意見を聞くのではだめですか?
本音が出にくくなります。全体の場では綺麗なことしか出ないため、個別面談で一人ずつ話を聞く方が有効です。
ハネムーン期間とは何ですか?
就任から100日の様子見期間です。政治の世界では、この間はネガティブな報道を控えるのが暗黙の了解になっています。
「変えないこと」を先に決めるのはなぜですか?
メンバーが安心するためです。変えることばかり伝えると、今までを全否定されるのではないかと不安が生まれます。
変えないことはいつ伝えますか?
着任から1ヶ月ほどの時点です。ここは素晴らしいので変えるつもりはない、と言葉にして伝えます。
マネジメントスタイルはなぜ宣言するのですか?
メンバーが動きやすくなるためです。探り探りの時間が減り、自分自身の一貫性を保つ効果もあります。
チームの成功はどう定義しますか?
全員で達成できるものにします。個性を生かした役割分担を組み、3ヶ月で取り組めるイベントや施策を設計します。
上司とは何をすり合わせますか?
3つです。自分への期待、優先順位、成功の定義を確認します。ここがずれると成果の方向がずれます。
様子見に徹するのは安全ですか?
安全ではありません。観察だけでは何もしてくれない人だと見られます。能動的に知り、考えを伝える必要があります。
まとめ
- 新任マネージャーの成否は最初の3ヶ月で決まります。この期間はハネムーン期間であり、正しく把握する時間です。
- やってはいけないことは3つです。成果を急ぐ、特定のメンバーに偏る、前任者を公の場で否定することです。
- 最初の2週間は聞くことに集中します。1人30分から1時間の個別面談で、6項目を聞きます。
- 変えることより先に、変えないことを決めて1ヶ月目に伝えます。これが安心と信頼を生みます。
- マネージャーは組織のハブです。部下だけでなく、上司と他部署との関係構築も同時に進めます。
まずは着任からの100日をカレンダーに区切り、最初の2週間を個別面談の期間として押さえてください。
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