「事業を伸ばそうと組織を作ってきたが、なぜか社内が保守的になり、活力を失っている」「悪気なく進めているのに、組織が悪い方向の歯車で回っている気がする」。組織づくりの経験がないまま拡大に直面すると、こうした違和感を抱える経営者は少なくありません。とりあえず採用で人数を増やしても、うまくいかないと感じている方も多いのではないでしょうか。
結論から言えば、組織の停滞は個人の能力不足ではなく、成長を止める行動パターンが組織構造に埋め込まれていることが原因です。事業の成長と組織・人の成長は両輪で、片方が追いつかないと停滞します。本記事では、25年間で国内外1,000社以上の組織開発に関わってきた森田英一が、成長を止める組織破壊のルール7選を解説した内容を整理します。
組織が硬直化するメカニズム
組織は、事業の成長と人・組織の成長の2つがうまく回ることで伸び続けます。事業だけが先行して人の成長が追いつかない場合も、逆に人の成長が事業の足を引っ張る場合も、停滞が起こります。どちらのケースも数多く見られます。
危険なのは、過去の成功体験に縛られて保守化が進むパターンです。急成長した後に、上の人ほど活力を失う行動をとり、組織がじわじわダメになっていきます。悪気がなくても、調和型のマネジメントや大企業病的な保守化が組織を弱くします。
こうした問題は表沙汰になりにくいのが特徴です。「組織が崩壊して辞めます」とは言えず、事業がうまくいかなくなったと説明されがちです。しかし実際は、組織の不調が事業の不振につながるケースが多く、相談は組織課題が明らかになってから寄せられます。
人数を増やせば成長するという考えもありますが、社内の文化が骨太で筋肉質な組織になっているかどうかが重要です。ピープルマネジメントやカルチャーづくりは、経営者・管理職・人事担当者にとって欠かせないテーマです。ここに着手できない会社では、組織の不調が事業の破綻につながることも少なくありません。
最適な手段を決める方程式
7つのルールの背景には、原理原則があります。最適な手段は、目的・目標と状況という2つのパラメーターによって決まるという方程式です。過去に良かった手段には、その時の目的と状況がありました。
今は状況が変わっている可能性があります。だからこそ、前例踏襲や手段への固執が起きたときは、「これは何の目的でやっているのか」「どういう状況のときに入れたのか」という2つの問いを立てます。目的と状況を疑う癖をつけることが、硬直化を打破する鍵になります。
手段(ハウ)は、目的(オブジェクティブ)と状況(シチュエーション)という2つのパラメーターで変わります。昔はこの手段が良かったという場合、当時の目的と状況があったはずです。今の状況にその目的が本当に合うのかを問い直すことで、前例踏襲から脱却できます。この方程式を共通認識として持っておくことが、7つのルールすべてに効いてきます。
成長を停止させる組織破壊のルール7選
組織が硬直化し、生産性が落ちていくときには7つの兆候が現れます。まず全体像を確認します。
| ルール | 兆候 |
|---|---|
| 内向き | 顧客より社内・上の事情を重視する |
| 前例踏襲 | 「前例はあるのか」でやる気を削ぐ |
| 目的より手段 | 目的を考えず手段に固執する |
| 心理的安全性の欠如 | リスクのある発言ができず忖度が広がる |
| 保守偏重の評価 | 挑戦者より保守的な人だけを評価する |
| 意思決定の先送り | 完璧な情報を待ち決められない |
| 縦割り | 部署がタコツボ化し全体最適を欠く |
1. 内向き
本来は顧客の価値を最大化して対価をもらうのがビジネスの本筋です。しかし内向きになると、社内の事情や上の意向が優先されます。「利益率が高いから顧客を騙してでもやれ」「顧客の声よりこれをやれ」と、社員の意識が社内に向いていきます。
特にトップダウンが強い会社で、上が怖くて起こりがちです。防ぐには顧客調査で見える化することが有効です。売上などの経営数値だけでは顧客の本音は見えません。リピート率の低下や離脱率の増加といったシグナルを見逃さず、顧客視点のビジョンを共通言語として再定義します。
上の人が悪いというより、株主からのプレッシャーで「この業績は絶対に達成しなければ」となり、顧客視点より社内事情を優先しがちになります。そこで「これは中長期的な成長につながるのか」とドキッとさせる顧客の生の声やデータを見せ、問いかけるサイクルが会議で回ることが大切です。データを見れば必ずシグナルがあるはずで、それを誤差だと見て見ぬふりしないことが硬直化を防ぎます。
2. 前例踏襲
会議で若手が提案すると「前例はあるのか」と問われる状態です。森田氏はネットバンキングがない頃に銀行へ「早くやりましょう」と提案し、「前例がないならやめよう」と言われた経験があります。前例がないからこそ日本初でできる、というアイデアが潰されました。
コンサルタントに依頼しておきながら前例のある提案しか通さないのは、社内から出た提案と変わりません。前例踏襲は思考停止で楽であり、リスクもないため選ばれがちですが、その裏には状況が変わっている可能性があります。前例があった当時の理由と、今の状況が同じとは限らないのです。
「前例がないならやめよう」「前例踏襲しよう」はマジックワードで、やる気のある人のやる気を一気に削ぎます。「去年こうだったから」も同様です。過去には理由があっても状況は変わっています。「去年と同じ」を理由にしないというルールを、トップから作ることが必要です。
3. 目的より手段
前例踏襲と同じく、目的を考えず思考停止で手段に固執するパターンです。最適な手段は目的と状況で決まるため、「何の目的でやっているのか」「どんな状況で入れたのか」という2つの問いで背景を確認します。
ただし上司に「何のためにやるのか」と聞くと嫌がられがちです。「手段がベストか自分でも考えたいので、目的と状況を振り返りたい」と前向きな言葉を添えます。目的を聞きやすい組織風土にすることが、トップダウンが強い会社ほど重要です。
背景を聞いたうえで、「この状況ならこの手段ではなく、今ならAIを使ったこちらの方がよいのでは」と提案できることもあります。かつては働き方改革でこのやり方だったが、今は生産性を上げるフェーズになった、だから目的自体を変えるべきか、という議論も生まれます。目的・目標と状況をキーワードにすると、組織は蘇ります。
4. 心理的安全性の欠如
心理的安全性とは、嫌われるかも、評価が下がるかもと思うようなリスクのある発言もできる状態です。「何のためにやるのか」と問えるのは安全性が高い証拠です。逆に「そんなことを言う暇があるなら仕事しろ」と上司が言うと、誰も言えなくなります。
「教えてください」に「前に言っただろう」「調べてから来い」と返され続けると、聞く気が失せます。匿名アンケートやダイヤログワークショップで本音を集め、心理的安全性のスコアを定期的に測ることが有効です。誰が言ったかわからない形なら本音が出やすくなります。
人間は意味の動物なので、トップの人ほど「何のためにやるのか」という目的を語る必要があります。健全な組織は「これは何のためにやるのか」と聞ける組織です。部下はわからなければ勇気を持って聞き、上は配慮しながらも目的を発信する。この双方向のやり取りが、硬直化を防ぎます。
5. 保守偏重の評価
リスクを減らして無難に動ける保守的な人も大切ですが、全員がそうなると危険です。保守的な人には保守的な役割があり評価しますが、挑戦的な人を全てダメとするとバランスが崩れます。挑戦する人の方がリスクを取っているからです。
挑戦は100%成功しません。しかし挑戦から学びや成長が生まれます。挑戦を称賛する文化や、価値観・行動規範に挑戦を入れておくことが大切です。どんな挑戦をし、そこから何を学び成長したかをみんなで称え合える文化があると、組織は成長し続けます。
挑戦した回数を可視化し、周りに見せる仕組みがあると効果的です。「成果は出なかったが、こういう挑戦をして、こんな学びと成長があった」と評価に反映します。挑戦する人は成功確率の低いことにリスクを取っており、組織の未来に新しい芽を起こす可能性があるため、会社としてきちんと見てあげることが欠かせません。
6. 意思決定の先送り
中間管理職が決められず上にあげ、上も情報不足でさらに調べさせる状態です。完璧な情報を待っていては遅すぎます。絶対に失敗できないもの以外は、6割の情報が出そろったら意思決定する、あるいは8割で決めることが必要です。
決裁に8個の判子が必要だと、誰が責任を取っているかわからず、実質的に誰も考えていない状態になります。判子は2〜3個にとどめます。意思決定の遅さはコストです。指示が遅いだけで人件費が発生し、年間で数百万円の損につながることもあります。
仕事が早い管理職は、リスクの低いところから切り出して「このパートだけやってみて」と任せ、「ここまでやったら次はここ」と細かな意思決定を積み重ねます。日本企業の生産性が世界と比べて低い一因も、この意思決定の遅さにあります。海外はほとんどの管理職が意思決定しますが、日本は上に聞かなければ決められないケースが多く、受注や採用を逃します。採用も、面接のステップが多すぎるといい人ほど他社に取られてしまいます。
7. 縦割り
組織が縦割りになり、各部署が自分のことしか考えなくなると部分最適に陥ります。問題が起きると「あの部署が悪い」と部署同士の仲が悪くなり、硬直化します。人の異動がない部署で起こりがちで、全体最適の視点が欠けて効率を落とします。
打破するには、部署横断のプロジェクトをトップダウンで作る、全体最適の視点を評価する、といった手が有効です。営業・開発・生産など利害が対立する部署は仲が悪くなりがちで、中立的な立場のファシリテーションで視点を一段上げることが効果的です。
人の異動がない部署では、部分最適が進んで組織の効率を落とします。ここでは良くてもこちらでは違うやり方の方がいいとわかっていても続けてしまい、社員のモチベーションも下がります。両方が正しいことを言っている場合でも、「全体で考えれば今回はどちらがよいか」という視点に立てないのが縦割りの怖さです。逆の立場や経営者の視点を体感してもらうと、平行線だった議論が共通の目的に向かって動き出します。
硬直化を防ぐための打ち手
顧客の生の声とデータで問い直す
内向きを防ぐには、顧客調査で本音を見える化します。会議で顧客の生の声やデータを見せ、「これは本当に顧客のためになり、中長期のビジネスにつながるのか」と問いかけるサイクルを回します。ファクト情報から外堀を埋め、顧客視点のビジョンに合意を持っていきます。
「我々はこのために仕事をしている」という顧客視点の目指すべきビジョンや北極星を、共通言語として再定義することが変革の軸になります。
成果と定性の両面で評価する
リモートワークではプロセスが見えなくなるため、成果で評価することが重要です。ただし数字だけでは見えないため、顧客満足度調査を合わせ、定量評価と定性評価の両方を持つ仕組みにします。これにより組織として強くなります。
定量だけだと見誤りやすい部分があります。数字上は問題なくても顧客の満足度が下がっていることもあるため、定量と定性を組み合わせて実態をつかむことが、リモート中心の組織では特に欠かせません。
外部の第三者を使って変革する
同じことを言っても、誰が言うかで受け取られ方が変わります。社内の部下が上に言うと評価が下がるリスクがありますが、外部の専門家にはそのリスクがありません。誰にどの順番でアプローチすれば変わるかをシナリオ化し、第三者を使って経営者から変えていきます。
社員が上に嫌われると生活に関わる大きなリスクになりますが、外部の人間はその仕事がなくなるだけで、他の仕事でやればよいためリスクが小さいのです。コンサルの使い方がうまい人は、自分でシナリオを組んだうえで、自分が言うと角が立つ部分を第三者に言ってもらいます。目的は言うことではなく組織が変わることなので、変わりやすい順序を設計して外部のプロと組むと効果的です。
匿名サーベイと対話の場を作る
外部を使えない場合は、匿名アンケートで本音を集めます。部署の若手だけを集めて本音を話すダイヤログワークショップで意見を集約し、誰が言ったかわからない形で上司に伝えて対話します。心理的安全性のスコアを無記名で定期的に測ることも有効です。
クイックに意思決定する
完璧主義ではなくトライアル主義で、まずやってPDCAを回します。リスクの低いところから切り出して任せ、細かな意思決定を積み重ねます。即断即決が競争力やイノベーションを生み、採用でもいい人を逃さないことにつながります。
クリティカルな問題以外は、完璧に成功するまで待つのではなく、トライアルを実行して後から改善する方が有効です。上司や経営者が「今オッケーと言うか、ノーと言うか、先延ばしにするか」で、社員が追加のリサーチや資料作成に費やす時間と人件費が変わります。先送りが実はコストになっていると自覚することが、意思決定を速める第一歩です。
フェーズの変化と共通言語の重要性
組織が大きくなると、経営者にも葛藤が生まれます。規模が小さいうちは自分で素早く決めていた意思決定を、メンバーに任せていく過程では特に迷いが出ます。トップダウンで決めすぎるとメンバーのやる気がなくなり、任せると完璧を求めて遅くなることもあります。
森田氏自身、間の階層が増えてプロセスが多くなり、以前は顧客から「意思決定が早くていい」と言われていたのが「遅くなった」と言われた経験があります。そのときはメンバーに率直に共有し、どうすれば改善できるかを一緒に考えたそうです。組織のフェーズによって最適解は変わり、経営者が正しいと思うことが絶対とは限りません。
だからこそ、7つのルールを共通言語として持っておくことが重要です。経営ボードメンバーや管理職で「これは遅くなりすぎていないか」と話し合える、心理的安全性の高い場を作ります。社内Wikiのように誰でも投稿できる仕組みを残しておくと、上の人がやっていることにも意見を言いやすくなり、オープンな組織づくりにつながります。
明日から着手する順番
- 7つのルールを紙に書いて貼り、兆候に気づくアンテナを立てる
- リピート率や離脱率など、顧客の本音が表れるデータを確認する
- 「前例がない」「去年と同じ」を理由にしないルールをトップから決める
- 手段に固執する場面で「目的は何か」「どんな状況で入れたか」を問う
- 匿名アンケートで心理的安全性のスコアを測り、本音を集める
- 挑戦とそこからの学びを称え合う文化や評価基準を作る
- 絶対に失敗できないもの以外は、6〜8割の情報で意思決定する
よくある質問
組織が停滞する原因は何ですか
成長を止める行動が構造に埋め込まれているからです。事業と人の成長は両輪で、片方が追いつかないと組織全体が停滞します。
組織破壊のルールはいくつありますか
7つあります。内向き、前例踏襲、目的より手段、心理的安全性の欠如、保守偏重の評価、意思決定の先送り、縦割りです。
内向きの組織とはどんな状態ですか
顧客より社内や上の事情を優先する状態です。トップダウンが強い会社で起こりやすく、組織が崩壊する最初のシグナルです。
内向きを防ぐにはどうすればよいですか
顧客調査で見える化します。売上だけでは本音が見えないため、リピート率や離脱率のシグナルを会議で問い直すことが有効です。
「前例はあるのか」がなぜ問題なのですか
やる気を一気に削ぐからです。前例がないからこそ挑戦する価値があり、覚悟を持った提案を否定されると提案自体をやめてしまいます。
前例踏襲をやめるにはどうすればよいですか
「去年と同じ」を理由にしないルールを作ります。本当に必要か、未来に役立つかを問う思考停止禁止のルールをトップから徹底します。
最適な手段はどう決まりますか
目的・目標と状況の2つで決まります。過去に良かった手段も状況が変われば最適ではなく、目的と状況を問い直す必要があります。
上司に目的を聞くと嫌がられます
前向きな言葉を添えます。「手段がベストか自分でも考えたい」と伝え、目的と状況を振り返りたいという姿勢を示すと誤解されにくくなります。
心理的安全性とは何ですか
リスクのある発言や行動ができる状態です。嫌われるかも、評価が下がるかもと思うことも言える組織が、安全性が高い組織です。
心理的安全性を測る方法はありますか
無記名サーベイで測れます。心理的安全性のスコアを定期的に取り、部署ごとに本音を言えているかを把握することが有効です。
本音を引き出すにはどうすればよいですか
匿名の場を作ります。若手だけのダイヤログワークショップで意見を集約し、誰の発言かわからない形で上司に伝えて対話します。
組織変革に外部を使う理由は何ですか
同じことでも誰が言うかで変わるからです。社内では評価が下がるリスクのある指摘も、外部の専門家なら伝えやすくなります。
保守的な人ばかりだとなぜ危険ですか
挑戦する人がいなくなるからです。保守にも役割はありますが、全員が保守だと組織の未来に新しい芽が生まれなくなります。
挑戦をどう評価すればよいですか
学びと成長を評価します。挑戦は100%成功しないため、成果が出なくても挑戦回数や学びを称え合う文化や基準を作ります。
意思決定はどのタイミングですべきですか
6〜8割の情報が出そろった時点です。絶対に失敗できないもの以外は、完璧を待たずクイックに決める方が競争力を生みます。
決裁の判子はいくつが適切ですか
2〜3個にとどめます。8個も必要だと誰が責任を取るかわからず、実質的に誰も考えていない状態になってしまいます。
意思決定の遅さはなぜコストなのですか
人件費が発生するからです。指示が遅いだけでリサーチや資料作成の時間がかかり、年間で数百万円の損につながることもあります。
日本企業の生産性が低い一因は何ですか
意思決定の遅さです。海外は管理職が決めますが、日本は管理職に決定権がなく上に聞くため、受注や採用を逃しがちです。
縦割り組織はどう打破しますか
部署横断のプロジェクトを作ります。トップダウンで立ち上げ、全体最適の視点を評価し、中立的なファシリテーションで視点を上げます。
組織が崩壊する会社は増えていますか
実は多くあります。組織課題は表沙汰になりにくく、事業不振と説明されがちですが、相談は課題が明らかになってから寄せられます。
まとめ
- 組織の停滞は個人の能力ではなく、成長を止める行動が構造に埋め込まれていることが原因です。
- 成長を止める組織破壊のルールは、内向き・前例踏襲・目的より手段・心理的安全性の欠如・保守偏重の評価・意思決定の先送り・縦割りの7つです。
- 最適な手段は目的・目標と状況の2つで決まり、前例踏襲は目的と状況を問い直すことで打破できます。
- 意思決定は完璧を待たず6〜8割で行い、判子は2〜3個にとどめることが競争力につながります。
- 7つの兆候に早く気づくほど予防でき、後から対処するより楽に立て直せます。
まずは7つのルールを紙に書いて貼り、自社にどの兆候が出ているかをチェックすることから始めてみてください。
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